しりとり
ガサガサとコンビニの袋が音を立てて、吐き出す息は白く染まって空に溶ける。
二歩程前を歩く双子の弟は、良く分からないリズムを刻みながら私を振り返った。
「姉さん、寒くない?」
「平気」
弟と色違いのスヌードを口元まで引き上げて答えれば、そっか、と笑う弟。
双子だから、片割れだから、性別は違ってもほとんど同じ時間を過ごして生きてきた。
でも、ここまでかぁ。
ちょっと買い物に出るだけだった。
確かに遅い時間だけれど、日付も変わっていないし、近所のコンビニだし、付いてくる必要あったかなぁ、と思う。
だって何も買ってなかったし。
「ねぇ」
「何、姉さん」
私の呼び掛けに首を傾げる弟。
荷物持とうか?なんて全く関係ないことを言い出すから、いい、いい、と首を横に振る。
私が言いたいのはそんなことじゃない。
「私が出掛けようとすると、ついて来るよね。何で?」
ぱちぱち、瞬きをする弟に、私も同じタイミングで瞬きをする。
特に夜、と続ければ、一瞬だけ口元が引き攣った。
日が暮れ始めた時間から、朝方まで、出掛けようとすれば必ずついて来るのだ。
双子だけど姉なんだが。
弟は私を歳の離れた妹か何かだと思っているのか。
そっと眉を顰めれば、後ろ向きでこちらを見ながら歩く弟が、ニッコリと笑う。
「心配だから」
「うん、ごめん。何が?」
要領を得ないというか、主語がないというか、私に理解させる気がないような答え方だ。
笑顔で隠す、双子だから分かるところなんだが、何が心配なのかは分からない。
知られたくない、教えたくない、それは理解出来るので口を噤む。
「じゃあ、姉さん。しりとり、しよっか」
目を細めて笑うから、また?なんて言葉は漏れることなく空気中に溶けて消える。
ついて来ると必ず強制参加させられる言葉遊び。
高校生にもなって?なんて言ったことがある、一度だけ。
その時は「なら走って帰ろうか」と、有無を言わさずに腕を引っ張られて、全力ダッシュで帰った。
それ以降は、何も言わずに付き合う。
しりとりのりから、と言う弟にりす、と返す私。
すいか、かめら、らっこ、こあら、淡々と続く単語の応酬をしながら、私は弟の背中を見た。
双子だけれど男女差がある、二卵生でもある。
違いが大きくなっていくのを、確かに感じていた。
ら、ら、ら、ひたすら『ら』を連呼して単語を探す弟の名前を呼んだ。
足音が一つ消えて、弟が止まったことを確認してから私も足を止める。
二つの足音が消えた。
「いつもしりとりするよね。何で?」
高校生にもなって、なんて言わない代わりに、理由を問い掛けた。
首を傾げながら振り返る弟は「え?そりゃあ」と笑顔で答えようとする。
その後に続くはずだった言葉は分からないが、ひゅっ、と変な呼吸が聞こえた。
目を見開いて、私を――私の後ろを見て体を硬直させる弟。
弟の名前を呼びながら振り返る私の腕を、無理やり掴んだ弟が走り出す。
「次!らすく!!」
「ちょっ、何、どうしたの……!」
ぐんぐんと前を進む弟の背中に呼び掛ければ、ゆっくりゆっくりスピードが落ちて、掴まれていた腕が離されて、手を繋ぐ形に落ち着いた。
ほんの少し汗のかいた手のひらを感じながら、私は眉間にシワを寄せる。
「姉さん。しりとりは、大切だよ。凄く」
ね?と目尻にシワを寄せて笑う弟は、先程の変な驚きやら焦りの混ざった様子は見せない。
何が大切なのか分からない私は、疑問符を浮かべてみたが、しりとりの続きを促されて、くるま、と単語を発した。
まり、りか、からす、するめ、高校生の双子が、冬の夜道に色違いのスヌードを身に付け、手を繋いでしりとりをしながらの帰宅。
何だこれ、そう思いながらも単語を吐き出し、先程の道を振り返った私。
そこには真っ暗な道があるだけで、何も、ない。
繋ぎ止めるように、離れないように、痛いくらいの力で掴まれる手を、私は静かに握り返した。