表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

2016年/短編まとめ

しりとり

作者: 文崎 美生

ガサガサとコンビニの袋が音を立てて、吐き出す息は白く染まって空に溶ける。

二歩程前を歩く双子の弟は、良く分からないリズムを刻みながら私を振り返った。


「姉さん、寒くない?」


「平気」


弟と色違いのスヌードを口元まで引き上げて答えれば、そっか、と笑う弟。

双子だから、片割れだから、性別は違ってもほとんど同じ時間を過ごして生きてきた。

でも、ここまでかぁ。


ちょっと買い物に出るだけだった。

確かに遅い時間だけれど、日付も変わっていないし、近所のコンビニだし、付いてくる必要あったかなぁ、と思う。

だって何も買ってなかったし。


「ねぇ」


「何、姉さん」


私の呼び掛けに首を傾げる弟。

荷物持とうか?なんて全く関係ないことを言い出すから、いい、いい、と首を横に振る。

私が言いたいのはそんなことじゃない。


「私が出掛けようとすると、ついて来るよね。何で?」


ぱちぱち、瞬きをする弟に、私も同じタイミングで瞬きをする。

特に夜、と続ければ、一瞬だけ口元が引き攣った。

日が暮れ始めた時間から、朝方まで、出掛けようとすれば必ずついて来るのだ。


双子だけど姉なんだが。

弟は私を歳の離れた妹か何かだと思っているのか。

そっと眉を顰めれば、後ろ向きでこちらを見ながら歩く弟が、ニッコリと笑う。


「心配だから」


「うん、ごめん。何が?」


要領を得ないというか、主語がないというか、私に理解させる気がないような答え方だ。

笑顔で隠す、双子だから分かるところなんだが、何が心配なのかは分からない。

知られたくない、教えたくない、それは理解出来るので口を噤む。


「じゃあ、姉さん。しりとり、しよっか」


目を細めて笑うから、また?なんて言葉は漏れることなく空気中に溶けて消える。

ついて来ると必ず強制参加させられる言葉遊び。


高校生にもなって?なんて言ったことがある、一度だけ。

その時は「なら走って帰ろうか」と、有無を言わさずに腕を引っ張られて、全力ダッシュで帰った。

それ以降は、何も言わずに付き合う。


しりとりのりから、と言う弟にりす、と返す私。

すいか、かめら、らっこ、こあら、淡々と続く単語の応酬をしながら、私は弟の背中を見た。

双子だけれど男女差がある、二卵生でもある。

違いが大きくなっていくのを、確かに感じていた。


ら、ら、ら、ひたすら『ら』を連呼して単語を探す弟の名前を呼んだ。

足音が一つ消えて、弟が止まったことを確認してから私も足を止める。

二つの足音が消えた。


「いつもしりとりするよね。何で?」


高校生にもなって、なんて言わない代わりに、理由を問い掛けた。

首を傾げながら振り返る弟は「え?そりゃあ」と笑顔で答えようとする。


その後に続くはずだった言葉は分からないが、ひゅっ、と変な呼吸が聞こえた。

目を見開いて、私を――私の後ろを見て体を硬直させる弟。

弟の名前を呼びながら振り返る私の腕を、無理やり掴んだ弟が走り出す。


「次!らすく!!」


「ちょっ、何、どうしたの……!」


ぐんぐんと前を進む弟の背中に呼び掛ければ、ゆっくりゆっくりスピードが落ちて、掴まれていた腕が離されて、手を繋ぐ形に落ち着いた。

ほんの少し汗のかいた手のひらを感じながら、私は眉間にシワを寄せる。


「姉さん。しりとりは、大切だよ。凄く」


ね?と目尻にシワを寄せて笑う弟は、先程の変な驚きやら焦りの混ざった様子は見せない。

何が大切なのか分からない私は、疑問符を浮かべてみたが、しりとりの続きを促されて、くるま、と単語を発した。


まり、りか、からす、するめ、高校生の双子が、冬の夜道に色違いのスヌードを身に付け、手を繋いでしりとりをしながらの帰宅。

何だこれ、そう思いながらも単語を吐き出し、先程の道を振り返った私。


そこには真っ暗な道があるだけで、何も、ない。

繋ぎ止めるように、離れないように、痛いくらいの力で掴まれる手を、私は静かに握り返した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ