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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

あめんぼあかいな

作者: 一条 夜月

暇潰しに、と書いていたのですが思いの外気に入ったので投稿してみる事にしました。

紫陽花の下には死体が埋まっている。



いつだったか、そんな本を読んだことがある。埋められた死体を想像してみた。映像が鮮明に、頭の中で浮かび上がる。



男は雨に濡れながらじっと足元をみていた。

傘の代わりにシャベルを持って立つ彼は、ざくりと地面にそれを突き刺す。綺麗に朝日の中で咲き誇る紫陽花の側に暫し穴を掘る音と雨音だけが響いた。靴が泥水で汚れるのも気にしていないのか、男が履いていた高そうな靴はあっという間に茶色く汚れていく。警戒しているのか時々、男は周りを見渡すが辺りに人が現れる気配はない。



__コチ、コチと規則正しく響く音がしてようやく、私は現実の世界へと思考を引き戻す。

先程の映像は一体何だったんだろう。

知らない間に私の身体は酷く冷たくなり、震えていた。すっかりと日が落ちて空気が冷蔵庫の中のように冷え切っていたからだろう。せめて何か羽織ろうと私はカーディガンを取るために立ち上がる。

その時、不意に激しい頭痛が私を襲った。立つ事すらままならず、机に慌てて手をつくと激しい音を立てて花の飾ってあった花瓶が床へと落ちて割れた。散らかった部屋を憂慮する余裕すらなく私は耐え難い頭痛にその場に蹲る。机の上の写真立てが倒れなかったことは幸いだな、と何処か他人事のように脳内の片隅に浮かんだ。

点々と散ってしまった花弁はどこか血に似ていて。

とても綺麗だ、だなんて思ってしまった。


なかなか治らない頭痛が私を苛み続ける。人間は痛みに弱いというのは本当らしい。沼に沈むように私は意識を手放してしまった。



猫が鳴く。


鋸のような物でナニカを解体している男を見て、これは先ほどの映像の続きなのだと私は直感的に理解した。


吐き気を催すほどの光景がそこには広がっている。日の光の下で見る死体は少女のカタチをしていた。ふっくらとしていただろう頬は冷たく固くなり、その四肢は今まさに男の手により切り落とされて酷く小さくなっていた。下手な切り口のせいでますます痛々しく、現実味があるその死体と目があった気がして私は思わず下を向く。

頬を流れていた滴は雨の所為なのだと自分に言い聞かせながら。


肉刺が潰れたのか男が顔を顰める。右利きなのか、その手を庇うように左手でばかり作業していたからだろう。


百足が足下を這いずっているかのような不快感に一刻も早くこの訳のわからない映像を頭の中から消し去りたい衝動に駆られるが、それよりも好奇心が勝ってしまった。

目の前で行われている事は私には関係のない事だから、だろう。


黙々と男は作業を続ける。

やっと彼が死体を咲き誇る紫陽花の下へと隠した頃にはすっかりと日が暮れて辺りは暗闇に包まれていた。歪んだ笑みを浮かべて男は煙草をポケットから取り出す。夜の闇に紛れて男はそのまま煙草を咥えてその場をスコップと鋸を車のトランクの中へといれてあとにした。

ライラックにも似た色の紫陽花は何事もなかったかのようにそこに咲き続けている。



__りん、と何処かで鈴の音が鳴った。涙腺が緩んでいたのか頬に涙が伝っている。連続してあの映像を見た所為か今が現実なのかそれともあの映像が現実なのかがあやふやになっているような気がして慌てて首を振り、映像を振り払う。

碌でもない妄想なはずだった。

私は窓を開けて階下を見下ろし、そこに鮮やかに咲く紫陽花を目を細めて愛でた。


多分、わかる人はわかってくれると思います。

あめんぼあかいなあいうえお、がヒントといえばヒントですね

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