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会いたい  作者: 縣.
2/2

男side

俺の大好きだったおばあちゃんが死んだ一週間後、

俺の最愛の彼女がデートの後にトラックに轢かれて死んだ。

人生の絶望のどん底にいた俺を救うかのように、

神様は俺を大学推薦合格させてくれたように思った。


あるいは、おばあちゃんと彼女が。

俺だけを置いて行った懺悔で合格させてくれたのかもしれない。


震えるはずのないスマホから、着信を知らせる音が鳴った。


彼女から。

死んだ彼女からの着信。

彼女とお揃いにした彼女だけの着信音が部屋に響いた。


「今からそちらへ行きます。今家を出ました。」

「最寄駅に着きました。電車に乗ります♪」


驚いているだけじゃいけないと思い、LINEを開く。

間違いない。彼女だ。

彼女が俺を置いて行ったことを後悔して。

俺を殺しに来たんじゃないか──────?


「日が暮れてきました。そちらの駅へつきました」


彼女らしい淡白なLINEが、俺の画面に映っていた。

もうすぐ、日は落ちる。

今日の夜が最後の夜になるかもしれないと思い、

コンビニで彼女の好きなアイスを買った。

彼女の好きだったアイスを買った。

彼女が当たりを出し、俺に食わせたばっかりに

次の日トイレにこもらなければならなくなったアイスだ。


「おはよう♥今コンビニにいます」


ぞっとした。

昨日俺が来た道をそのまま来ているのか。

付き合って以降ずっと俺のひっつき虫だった彼女らしが、

今は恐ろしさの対象でしかなかった。

殺される。

せめてもの抵抗として、鍵を閉めた。


瞬間、着信音が響く。


「家の前にいます」


声にならない悲鳴を上げ、俺は自室へ閉じこもった。

そういえば、最後のデートは俺の家だった。

おばあちゃんの仏壇に話しかけたり。

居間で彼女が負けると分かっているゲームをしたり。

玄関でいつも送るだけの俺が勇気を出して送ると言ったり。


駅までの道で彼女が轢かれたり。


彼女のことをうっとうしいと思っていたが、

いなくなってはじめて気付いた大切さ。


だが、今は話が違う。


俺の願いはむなしく。

ガチャ、とドアの開く音が聞こえた。


震えが止まらない俺に追い打ちをかけるように、LINEが響く。


「おばあちゃんに家に上げてもらいました。

勝手に入ってごめんね。今居間にいます♪」


あんのおとぼけばあちゃんが!!

叫びそうになるのをこらえ、必死で居間の音を聞こうとする。


居間には、ばあちゃんの仏壇とテレビしかない。

しかし、誰かが移動している音がする。


「今からあなたの部屋へ行きます」


ギシギシ。

ギシギシギシ。

ギッ…。


俺の家の階段は短く、彼女がやってくるのは早かった。


ああ。

俺、ここで死ぬのか。


コンコン、とノックが聞こえる。

豪快だった彼女の繊細な気遣いが、俺の恐怖をくすぐった。


「来るな!」


俺でもびっくりするほど大きな声が出た。


彼女に会いたいと願わない日はなかった。

だが、こんな形では会いたくなかった。


「…開けなくていいよ」

彼女の優しい、泣きそうな声が届く。

不思議と、俺の身体から力が抜けた。


彼女は俺に。

きっと苦労して俺に会いに来たのに。


俺は何をやってるんだ。

彼女をまた泣かせたいのか、俺は。


ドアの鍵を、開ける。


「あなたに会えてよかった」


俺も彼女に伝えなきゃいけないことがある。

彼女からの猛烈なアプローチで始まった恋。


最後ぐらい。

最期ぐらいはカッコつけたかった。


「…ありがとう」


ドアを開ける。

愛しい彼女は泣いていた。


俺は彼女をそっと抱きしめる。

俺の大きな暖かい身体に、彼女の冷たい冷たい身体が溶けていく。


「俺も。お前に出会えてよかった」


自然と涙がこぼれた。


ありがとう。

おれのさいあいのひと。


「ありがとう」


手から、冷たい感覚が抜けていく。

彼女のスマホが、部屋に遺る。


俺はそのスマホを、彼女と最後に撮った写真の横に立てた。

写真の中の彼女は、今でも俺に微笑んでくれる。

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