女side
1週間後、私は高校を卒業する。
高校を卒業したら、遠くへ引っ越さなくてはならない。
やり残したことは1つだけ。
想いを言いきれなかったこと。
元彼に、ちゃんとありがとうを言えなかったこと。
彼は推薦で大学が決まっている。
私も、将来の道は決まっている。
高3の3学期は自由登校となるこの学校。
卒業式に想いなど伝えられるヒマはない。
今しかない。
私はスマホを手に、彼への家へと歩く。
急に行っては彼もびっくりするだろうから、一応報告。
「今からそちらへ行きます。今家を出ました。」
私はドライで、LINEの返事も淡白だったため、いつも
彼にもっと女の子らしく、と言われていた。
そんな日々も懐かしく思えるほど、彼に会っていない。
「最寄駅に着きました。電車に乗ります♪」
私が使う絵文字は、♪と♥だけだった。
それでも彼は、絵文字がある返事を嬉しがってくれた。
2つのメッセージに既読がついた。
返事はない。
「日が暮れてきました。そちらの駅へつきました」
3回目のデートで、はじめて彼の家へ行った。
そのデートが最後のデートとなった。
私も彼も、将来のことで忙しくなったからだ。
でも、今でも私は彼の家の場所を覚えている。
自然消滅とはいえ、今でも少し忘れられないからだ。
卒業するまでに、想いを伝えなければ。
「おはよう♥今コンビニにいます」
このコンビニで、彼にアイスをおごってもらった。
たまたまあたりが出て、彼にあげたら次の日彼が
お腹を壊したのも今ではいい思い出だ。
返事は既読のままだ。
今でも、私のLINEを消さずにいてくれて嬉しかった。
「家の前にいます」
はじめて家に来たときの緊張感が、まだ心に響いている。
手が震えて、うまくインターホンが押せなかった。
たまたま家にいたおばあちゃんに、家へ通してもらった。
私が来た後におばあちゃんと暮らし始めた彼。
たまに聞くおばあちゃんエピソードがひどく愛らしかった。
「おばあちゃんに家に上げてもらいました。
勝手に入ってごめんね。今居間にいます♪」
そういえば、はじめてのデートの時も、
彼の家の前まで来たことを思い出した。
彼が財布を忘れてきたからだ。
絶対忘れないように居間に置いたのに忘れてきた彼を
かわいらしいと改めて思った。
「今、部屋におるよ。顔見せてやりぃ」
「はい!おばあちゃん、ありがとう」
おばあちゃんから、彼の部屋を教えてもらった。
デートの時には恥ずかしがって入れてもらえなかった部屋。
「今からあなたの部屋へ行きます」
コンコン、とドアをノックした。
中から人の気配がするが、ドアは開かない。
もう一度ノックしようとしたとき、中から怒声が聞こえた。
「来るな!」
そっか。
そうだよね。
そりゃ、怖いよね。
だって私。
3回目のデートの後。
トラックに轢かれて死んでるんだから。
「…開けなくていいよ」
でも。
拒絶されたことは辛かった。
涙声を隠し、私は伝えたかったことを言う。
「あなたに会えてよかった」
私の一目ぼれからの恋だった。
最期はこんなにも醜い終わり方だったけど。
せめて。
ありがとうは。
ありがとうだけは言わせて。
「…ありがとう」
涙がそっとほほを伝い、消えていく。
開くドア。
愛しい彼が、涙顔でそこに立っていた。
「俺も。お前に出会えてよかった」
私の冷たい冷たい身体が、彼の大きく暖かい身体に包まれる。
私の身体が、そっと溶けていくのがわかる。
ありがとう。
わたしのさいあいのひと。
「ありがとう」
彼の言葉と共に、私は空へと溶けていった。
ゴト、と私のスマホが彼の部屋へ遺された。
それは今でも、私の写真の隣に立っている。