自己紹介でもしようか。
どうも、越木です。
投稿、始めました。
初心者ですが、よろしくお願いします。
「ふぁぁっ。」
何もかも突き通して透き通ってしまうような青空。その下で一匹の兎が大きく口を開けてのんびりとあくびをする。
まだ眠気を振り払えず、今にも壁にぶつかりそうな歩みでその気になれば外から最奥が見える程小さな洞窟から這いでてくる。
骨格を完全に無視した動きが幾つか見受けられるる上、やけに人間臭い動作をした絶対に普通の兎とは異なると断言出来るその兎は、姿形もある程度普通とは離れている。
透明感のある金色、ヨーロッパ系の金髪の最高峰を示す陽光の髪が一番近い満月色をした体毛。
額には鮮血を思わせる様な、それでいて神聖さを感じそうな、ヒビも濁りも無い透き通った水晶質の赤黒いガーネットの角。
……これが俺の姿だ。ただの高校生だった筈なのにいまやこんな可愛らしい姿に成っているなんて、呆れ返り過ぎて、いわゆるやれやれ系の主人公だったとしても抱腹絶倒して笑うしかないだろう。
──ま、いくら笑った所でさらに虚しく成るだけだろうしやらないけどね。
日光のポカポカと照らす岩棚に居座って口を全開に開けてだらしなくあくびをしつつ、背伸びをして寝ている間に凝り固まった所を伸ばしてほぐしていく。
硬いを通り越してもはや頑強と言える岩の寝床は、刈り取った草を幾らか敷いたところでやっぱり何箇所かが寝ている間に痛くなってしまうのだ。
──いつもは硬いって言ってたあのオンボロベッドすら恋しい……。
ある程度体がほぐれたのを見計らって移動し、昨日のうちに見つけておいた小川に前足を漬けて、前足に含ませた水を顔にかけ、こすって洗顔する。
透き通った水が毛の隙間からどす黒い水に転生して流れ出て来るのにため息つき、水が汚れなくなるまで洗顔し続ける。
──やっぱ岩の上で寝ると砂が毛に絡まるよなぁ……汚ぇ……。
モップになったような気分をキンッと冷たい水で洗い流し、軽く体全体も洗ってさっぱりする。
結果、汚れが取れてさっぱりしたもののじっとりと濡れた体毛が肌にへばりついて気持ちが悪いことこの上ない。
濡れた毛を乾かそうにも生憎タオルやドライヤーと言った文明の利器はあるわけ無いので全身を捻るように震わせ、水滴を飛ばして体毛の間に空気を入れふっくら感を復活させる。
──犬とかがやってたこの動きって結構疲れるんだな。
予想外の体力消費に少し疲労感を覚え、乾燥が一段落着いた所で身体を捻って振り向く。
そして、さっきまではいっていた洞窟へと声を張り上げる。
「水野ー!そろそろ起きろーっ!」
昨日合流して一緒に寝た友人は、こんな事態でも起こさなければ夕方まで寝続けるだろう。なにせ、頭の上にパソコン置いてタイピングしてても起きなかった実績を持っている。
なので、どんな事態が起こっていても、こんな絵に書いた学生の母親みたいな真似をしなくてはいけないのだ。
「う……ん……あと5光年位したら起こして……?」
張り上げた声に途切れ途切れな声が洞窟から響いて返事が帰って来る。
その声はドスの効いた重低音でヤの付くあれを思い浮かばせるほどの迫力があるものの、その言っている台詞自体は馬鹿丸出しで、寝ぼけているのが見てもいないのに分かるような声色で発せられていた。
「光年は距離だバカ水野っ!」
――相棒はこんなので本当に大丈夫なのだろうか、今後も頭が痛くなるのだろうなぁ……。
と自分の友人を見る目を嘆き始めた所で、相手の素性やら性格性癖がどんなものか現実世界以上に分からない世界で唯一繋がりが確かである事と、伊達に長年友達やっておらず性癖から、秘蔵ファイルのパスワードまで知り尽くしている仲であることを思い出して気を持ち直す。
──こんなのでもマトモな奴であることには変わりはないんだ……。
「そうだっけ~?」
今日何度目か分からない諦めに思考が完結したところでようやく洞窟からやる気があるのか無いのか一切不明な声を出しながら寝床から友人が出てくる。
その姿は、小さな深緑色のかつらのような触手の塊。
動く度にわさわさと何かを擦り合わせるような音を生み出し、声は何処にあるとも分からない場所から不協和音混じりに放たれる。
深海生物やグロ生物に分類されていても誰も疑わないような形で、正直出会った人の九割の人が近づくのを拒否するだろう姿をしている。
――まぁ、そこは同情するけれど朝起きるのくらいは自力でやって欲しい。……本当に、なんでこいつは一人暮らししてるのにそれがなりたってるんだろうか、不思議だ。
「ちょっと身支度してくるわ……。」
「寝ぼけて崖から落ちんなよー!」
「落ちねぇし。ぜってぇ落ちねぇし!」
おちょくられて逃げていった友人の朝の身支度が終わるまで、洞窟正面の崖の所でふちに腰掛けて短い足をブラブラさせつつぼんやり景色を眺める。
――ぼーっとしているのにこの体勢は一番楽だと自分は思う。特別な力を使うわけでもなくだらんってできるし。
「遅い……まさか、落ちたか?」
体感で数十分が経ち、探しに行こうかと思った頃にようやく奴の準備が終わったようで隣までワサワサしながらやって来る。
奴の朝の日課の洗顔は、今の姿には顔が無いので小川に飛び込んで全身浴をしたらしい。
通りで触手の表面が半乾きで、歩いてきた道が濡れて1本の線になってるわけだ。
――さっぱりしたいのは分かるけど待たせた分せめて移動くらいは急いで欲しいものだ。
何時であろうとマイペースを貫き通す友人の姿にため息をつきながら目の前に広がる風景に意識を向ける。
二つの太陽や、昼間でも見える星星。象でも主食にしてんじゃないかって大きさのネズミやら世界樹目標にしてるの?ってくらいのただの雑草など、明らかに可笑しいサイズの動植物達がさも当然のように存在している絵画や空想でしか見れないはずの景色。それがここの常識だというかのように車を飛ばせば数分、って距離に存在している。
「兎塚……俺ら、本当に何処かの異世界に来ちゃったみたいに思えるな……。
全然違うのになぜかしっくりくる体、異常としか言いようのない風景。
その何もかもが現実と見分けがつかない質感を持ってやがるんだからな……。」
「そうだね……水野。
この質感がまだ違ったならまだ救いはあったのだろうけど……ね。
ゲームだと割り切れるという意味で。」
目の前に広がっているのはメニューの地図曰く。
とてつもない大きさになった植物たちの作り出す一面の樹海と、それに隠されるように埋もれた元大都市のビル群。そうやって作り出されているエリア。
第一エリア、古代遺跡郡シブヤだ。
東京など数回しか行った事は無いから、本物の渋谷と、この『シブヤ』を比べることはできない。
森の所々から生える灰色の巨塔の群れと紅と薄青の二本の電波塔だけがここが都会だったという事実を物語っている。
そのビル群ですら、木々やツタに侵食されていて最早樹海の一部と化しており、少し見ているだけでもいくつもの場所から崩落が起きて大小さまざまなコンクリ破片の雨を路面に振らせていた。
此処はグラトニカオンライン。
弱肉強食の法則が支配する世界。
食えば食うほど強くなる、そんな何処ぞの悪魔の様な法則が平然と跋扈する世界。
そして、俺たちが迷い込んだ、生き抜くべき世界。
「出発する前にこれまでの経緯を振り返って見るとするか?
ま、情報確認ってやつで。」
「ああ、任せた。」
「……お前もするんだからな?」
流れるように相棒に突っ込みを入れ、
そして、一息吸うと数日前の出来事に対して意識を飛ばした。
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体感時間で大体二日ほど前の早朝。
俺は待ちに待ち焦がれた夏の新作のゲームが出ると情報を手に入れ、近所の大きめなデパートへと急いでいた。
俺の住んでいる町は大きいとも小さいとも言えない中くらいの大きさであり、唯一のデパートは自分の家から全力で走って20分位の距離にある。
――平均的な普通の人が走ったら、という時間なので当然俺には当てはまらない。
俺は用があるとき以外に外に出ない半引きこもり生活を長くしていたため、太ってはいないが筋肉もないという体になっていて当然ながら運動などできない。
そのため、自転車を使って息を切らせながらこいでやっとその距離を往復する。
いつもなら、ゆっくり朝食を済ませた後に筋肉痛に為らない程度に抑えてのんびりと漕いでいた。
だけれど、今日はそんなにのんびりしていたらゲームが売り切れてしまうのは想像しなくともわかることなので、朝飯の手作りクラブハウスサンドをくわえたままに立ちこぎで街路樹の緑色に染め上げられた坂道を下って加速していく。
「売り切れるなよッ!」
早朝の程よく涼しい坂を下って加速した勢いを殺さず立ちこぎで暫く誰もいない歩道を突っ切っていくと、目的の白い建物が見える。
自動車が次々と吸い込まれていく駐車場へと隙間を縫って侵入し、奥の自転車置き場へ向かう。
「あれ?ブレーってわわっ!」
不幸にも全く働かないブレーキのせいで自転車置き場の車輪止め用のパイプに突撃してしまう。
速度を落としていたので自転車が酷くきしんだだけで投げ出されずに済んだのは幸運だった。
パイプがなんかへこんでるように見えるのを見なかったふりして自転車に鍵をかける。
――ブレーキが効かないとかちょっと不吉過ぎない……?
ぶつかった衝撃でチェーンが外れた自転車を放置してデパートの中へ走る。
不吉な流れが続いてゲームが買えないなんてことがないことを祈ってただただ足を運ぶ。
ゲームを出せばミリオン確実と言われるあの会社の新作なのだからこそ、買いそびれたりなんてしたら手数料までとった友人に何を言われるか分からない。
何故か開店時間がデパートからズレているデパート二階の街唯一のゲームの販売店前へと階段を駆け上がる。
――クソ、もう結構ならんでる……。
「ただ今開店します!」
人体から蒸発した水だけで雲が作れそうなくらいにギュウギュウ詰めな人混みが店員の合図で開放されてゲーム売り場へと老若男女問わず狩人の目をしてなだれ込んでいく。
人と人の間をすり抜けて結構前まで来ていた筈なのに数歩のうちにかなりの人数に追い越されていて、それ以上先を越されないように人波を掻き分けて自分も売り場へ突撃する。
「新作ゲームソフトの棚はこちらでーす!」
悲鳴にも聞こえる店員の声を耳でとらえてそちらを見ると、彼方に見える売り場で先についた人々の手の群れの中でゲームのパッケージが取り合われて乱れ交っているのが見える。
「やべっ、間に合うかッ!」
まるで暴動でも起こるんじゃないかってくらいの熱狂具合のなか、おばちゃん軍団から度々飛んでくる拳を躱し、搔き分けてカートへ進む。
――この状況で2つなんて買えるの……?
そんな弱音も踏み台にしてひたすらに、前へ!
~~~~~~~~~暫くして~~~~~~~~~
おばちゃんの手からすっぽ抜けて飛んできた物をつかみ取る、なんていう最早奇跡的としか思えないようなことが起きたおかげで、ソフトは無事に二つ買え、頼まれていた友人の分を確保出来た。
もう倒れ込んで1日を終わらせてしまいたいほどに疲れさせてくれたソフトの名前は『グラトニカ』。
初期購入特典でレアキャラがプレイ出来る限定モノが混ざっているらしく、スタートダッシュして優越感を味わいたい俺らとしてはなんとしても初期購入は逃せない物だったわけだ。
「はぁ、今日一日分の力を使い切っちまったなぁ……。」
体のいろんなところがオバチャンフィンガーによる打撲で痛い上、人ごみを搔き分けすぎてもう箸くらいしか持てないくらい疲れた身体を引き擦って帰る準備をする。
外れた自転車のチェーンをはめ直し、漕ぐ力も残ってないので自転車を押して坂を登り、よろよろ帰宅した後玄関の靴を脱ぐとこの段差にへたり込む。
――もう今日はここから動かないでいいかな……?
「おっ、二つ買ってこれたか!乙だな!」
玄関にいつの間にか湧いていたアイツに買ってきたソフトの片方を手渡して手間賃とソフト代を受け取る。
――八千円か……絶対的に割に合ってない…………。
帰ってきたお金の割に合わなさに燃え尽きてとろけていると、
アイツがコントローラーを持ってガチャガチャと動かす仕草をしながらこちらを見る。
「そう言えば2人でプレイ出来たよなこれ、やるか?」
「おうっ!」
その一言で一気に疲れが吹き飛び全身に活力が戻ってくる。
いくら疲れててもこんなので力が戻るなんて俺はやはりゲームに中毒しているんだな、と実感しつつだるい体を起こす。
自分の部屋へ来るようにアイツに言った後に階段を這い上がり、ゲームに侵食された自室へと飛び込む。
ゲームの並んだ棚の中からグラトニカに適したゲーム本体を用意する。
何の変哲もない一画面の携帯型ゲーム機であり、タッチパネルも無いこのごろ珍しいシンプルなモノ。
俺のはオーシャンブルーだ。
相棒がポケットからメタリックレッドの機体を取り出したのを確認してから一斉にソフトのプラスチック包装を破って容器の開け口に手をかける。
「「では、御開帳っ!」」
二人で同時にファンタジーな風景の描かれた緑中心な容器を開けて中の小さなソフトカセットを確認する。
「おっ?」
ゲームソフトの背面に付いた生産番号が00001、つまりは激レアの初めの製品だ。
「良いな…確かゾロ目と一桁の番号の奴はレアキャラが作れたんだろ?交換しないか?」
そうである、このソフトが雑誌に取り上げられた時にシリアルナンバーに対応する限定キャラが書いてあったはずで、中でもこの番号は最強なキャラだった気がする。
「駄目に決まってんだろっ。
こちらを選ばなかった自分の運を呪え。
ふはははは!わたしが無双してやるから見てなっ!
……んじゃ、始めようか。」
ショックでうまだれる友人の脇腹を蹴って正気に戻し、魂が戻ってきたのを確認してからソフトを機体へ挿入して二人同時に起動して各自でキャラを作る。
空気に絡んで伸びていく蔦と水色の光の飛び交うスタート画面をボタン連打で通過すると、
ブドウやベリーのたわわに実った蔦塗れの古木の扉が画面一杯に現れる。
絵師が一生をかけて描ききったかのような美しさを持つ画像が現れ、視点が少し後ろへと下がる。
――やっぱ、ここの会社のグラフィックは異常な程綺麗だ……。
イラストの綺麗さでその知名度を築いた会社の期待を裏切らない神秘的な画風に見惚れていると、古めかしいその扉の前の更地に数名のキャラクター達がいくつもの光の玉を纏いながら出現する。
どうやらキャラクター選択画面までたどりついた様だ。
事前情報の有ったキャラの中にまぎれて追加されていた奴。
隠しキャラらしき赤い角の生えた兎、『カーバンクル』を選び、画面端に現れていた決定ボタンを押すと扉が蔦の欠片をボロボロと落としながらゆっくりと開く。
カーバンクルが駆け込んだ扉のその奥には、今作り上げたかのように無垢なままの新品の木の看板と『決定』という白い字で封鎖された褐色の石扉があった。
木の看板には数字がいくつか並んでいて、どうやら今度は初期作成のステータスボーナスを割り振って行くようだ。
木の看板に達筆な字で書き付けてある項目は、
力、防御、素早さ、 精神、魔防 、運の六つでそれぞれの横には二つづつ項目が有り、すべてに0が2つ仲良く並んでいる。
下へ目を向けると初期ボーナスと書いてあり、試しに素早さの場所に振り分けると隣の100という数字が減っていく。
協力プレイをするつもりなのだから要相談、だな。
「キャラの動きはどちらが『攻め』やる?」
「……お前、わかってていってるだろ?
当然こちらが『攻め』、お前が『守り』だ。
俺に守りを任せたら大変なことになったのは忘れたとは言わせないぞ?」
友人の言葉で|あの悪夢《舞い踊る竜とリセットの嵐》が頭の中をよぎり、それを頭を振って追い払ってから振り分けを再開する。
「そうだな……決まってたな。」
十字ボタンをカコカコやって役割に適したように振り分ける。
力10、防御30、素早さ20 、運40
アイツとの協力プレイをすると、当たらなければどうということは無いと某赤い人みたいなプレイばかりをしている。
魔法はこのゲームでは遅いらしいので避けて、範囲で薙ぎ払われる攻撃は自分が受け流す。
そして、その隙にアイツが一撃をぶち当てる。
それが出来るステータスであれば他はどうでもいいのだ。
「よし、できた!」
「こちらもキャラ出来た!」
アイツ、こと水野も作成が終わったようで、お互いのステータス確認のためにアイツのゲーム機
を覗きこもうとすると、デコピンを食らう。
「痛っ!?何すんだよっ!」
食らう道理が無いので怒ると、あいつは人の悪そうな顔で「ナイショ」とだけ言って作業に戻る。
「むぅう。なら、こっちもみせてやらないぞっ!」
アイツに見られない様に後ろを向いて後に残った操作関連の諸設定をサクッと終わらせて元の体勢に戻る。
最後の選択の画面で『通信プレイ』か『シングルプレイ』か選ぶところで画面が揃っていることをお互いに確認して『通信プレイ』を選んで決定ボタンを押し込む。
「「通信開始だっ!!」」
――あれ?なんか体がだるくなって……!?
押し込んだ瞬間から力が猛烈な勢いで無くなっていき、座っていることすら出来なくなって二人揃ってふかふかの絨毯の上に崩れ落ちる。
――何が起きているんだ?
疑問に思う間もなく意識を保つだけの力も奪われてそのまま俺と友人は意識をなくしていった。
ゲーム機の画面で開ききったまま深淵を覗かせている『通信プレイ』のレモン色の石門が目に焼き付いて……そして視界は黒に染まった。