過去
『おや、これはこれは…鏡の女王…』
ぞわっ
背筋が冷たくなった。本能が告げる。コイツは危ない、敵だと。
リリリリリッ。警告音が鳴る。
«浦桐様…»
浦桐…様…?様付け。この男の部下ってことか。
つまり、この女も私の敵かもしれないということ。信用してはいけない。
『久しぶり。雲京。何年ぶりかな、こうしてまた会うのは』
雲京……?
私の名前は葉月。雲京なんて名前ではない。
「雲京…」と小さく呟く。ひどく懐かしい響きだ。昔、よく見た夢に出てきた少女の名前だ。
『ここで立ち話もなんだから、我が豪邸に来なさい』
人の良さそうな笑顔を浮かべ、手招きをしている。
人の良さそうな顔なのに恐怖しか感じない。
行きたくない。行ってはいけない。
逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ。
『どうした?何を立ち止まっているんだ。早く付いてきなさい』
浦桐の手が私にのびる。
その手から逃れるようにして走った。
嗚呼、お願いもっと脚よ速く動いて!!
“まだ私は死にたくない。叔父様、どうして私を殺そうなんて思っているの?ねぇ、どうして教えてよ………………浦桐叔父様!!”
突然あの女の子の声がした。
あの子は私…?
顔も声も何もが同じだったのだもの。
私は拾い子だった。お母さん達に会う前はどうしていたの?何も覚えていない。
どうして今までお母さんに拾われる前の記憶が無いことを不思議に思わなかったんだろう。忘れているという事に気付かなかったんだろう。
“本当に覚えていないの?本当は覚えている。隠しているだけ。ほら。思い出しましょう?”
ぱきんっ




