鏡の世界
「アルコール依存症とは薬物依存症の一種で……ほろ酔い…………昏睡は……」
ゆっくりとした口調、低い声、暖かい気候に御昼ご飯後。
眠い。うとうとしてしまう。
ぽーん
水の中で鉄琴を鳴らした様なくぐもった高い音が鳴り響いた。
視界は透明感のある鮮やかな青で塗りつぶされた。
先生も生徒も普通に授業を行っている。何もないかのように。
否、彼等にとっては何も変わりはないのだ。この青い世界が見えるのは私だけ。
彼等の住む世界と同じ時間を進む。しかし、全く異なる不思議な世界。私はこの不思議な世界を鏡の世界と呼んでいる。
きゅるる きゅるるるる
可愛らしい声で鳴いている。至福に満ちた声だ。その声を発しているのは手のひらサイズの小ぶりの魚だ。
その魚は、銀色の魚で、泳いでいる。ふわふわと漂うように泳いでいて、ヒレは絹のように揺れ動き、まるで、ドレスを着て踊っているよう。
しゃらん しゃらん
翠色の膝まである艶やかな長い髪。髪には真珠で出来たピンで三つ編みをして耳の後ろでとめている。、傷一つ無い白磁色のしっとりとした肌首には貝や真珠で出来たネックレスがある。そしてよく見ると鱗がある魚の尾。
人魚…?
銀の魚ならよく見るけれど、人魚は初めてみる。
私に優雅なお辞儀をした。私は周りを気にしながら軽く頭を下げる。人魚と魚が歌い出した。
こちらに おいで
もう一つの世界
鏡の世界
さぁ、こちらへ
キィーン
耳鳴りがした。次の瞬間貧血を起こした時のように視界は黒で塗りつぶされた。
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目を開けるとここは水の中だった。教室で見た景色と同じ。ただし、机や椅子はないのだが。不思議な事に水を肌で感じているのに息が出来る。
«お帰りなさいませ。鏡の女王様。ああ、これで世界の均衡が保たれますわ…»
鏡の女王?私が?
私は少し不思議な力があるだけで、この世界を少しだけ見れる力を持っている以外は普通の女子高生だ。
「私は鏡の女王ではないわ」
«いいえ、貴女は鏡の女王です。その髪、目は女王にしか持つことはありません。»
突如、目の前に鏡が現れた。
そこには違う私がいた。エメラルドグリーンの緩やかに波打った床につくくらいの長い長い髪、そして深海を思わせるような紺色の瞳。
「え…なにこれ…!?髪の色は黒じゃない。目の色はよかった黒だ……んん?紺色!?」
«鏡の女王はこの世界ではエメラルドグリーンの髪と紺色の瞳を持つのです»
鏡の女王は私…!?




