8.進路
「あーもうマジムカつく!聞いてよ小野っち~」
「え?うん。」
「最近王子たちの周りをうろちょろしてる虫がいるんだけどさぁ~そいつがマジウザくて、キモいのよ!」
(……王子ねぇ……蜂須賀君と美川君は確かに恰好いいけど……正直、あの二人はどうでもいいな~ナヨナヨしてるしタイプじゃない……やっぱり守ってくれる頼りがいのある人じゃないと……)
「聞いてる!?」
「聞いてる聞いてる。」
(そう言えばこの前私を助けてくれた人……今村さんって言ってたよな~多分顔からして同い年くらいだと思うけど……)
「聞いてないでしょ!その今村ってやつマジで腹立つから!」
「……え?今村?」
「そう!ってかやっぱり聞いてなかったんじゃん!超ウケる!」
(何が面白いんだろ……)
私の前で爆笑してる親友相手に私は微妙な顔になる。登校中で元気なのはいいけどちょっとうるさいかな~
「でさ、マジでそいつムカつくのよ!」
「カッキー分かったって。ちょっと落ち着いて。」
そう言ってもカッキーが止まるわけがないことを知っていても一応言っておく。愚痴に付き合って駅から学校までの道を歩いていると校門付近で今噂をしていた人たちが。
「お!朝から王子の並びが見れ……ちっ……だからお前邪魔だっての今村ぁ……マジ死ねよゴミ……」
それを忌々しげに睨みつけるカッキー。あ、確かに蜂須賀君と美川君もいる……あ、美川君と目が合った。
……すぐに目を逸らしたなぁ……ん?あ今村君だ……え?今村君!?こっち見てる!
「~っ!」
駄目だ。恥ずかしい……うぅ~……お礼……そうだお礼を!
「マ~ジキモいわ~こっち見るなだし。折角の気分が台無しだし。」
(あ……行っちゃった……でも同じ学校だったんだ……これってもしかして運命なのかな……?)
そんなことを思いつつ私、小野 小町は学校に入って行った。
「……お前わっかりやすいな~アレか。お前の好きなのはアレなのか。」
その頃今村はもの凄く虐めっ子の笑みで美川に詰め寄っていた。
「う……わ……悪いか?」
「いんやぁ~」
凄い楽しそうだ。廊下をニヤニヤしながら歩いて行く。そんな美川を助けようとしてか蜂須賀が別の話題を提供しようと試みる。
「そう言えばさ、昨日ホームルームが終わって急に先生たちがいなくなって全クラスが自習になったよな。あれ何でだと思う?」
「さぁね~」
今村は極々普通に嘘をつき話題を美川の好きな人の話に戻そうとする。だが先程の話題からは逃れたい美川がその話に乗っかった。
「クラスで虐めが行われてるかどうか知ってることがあれば手を挙げろって言ってたしどこかのクラスで何かあったんじゃないか?」
「そんなことより……」
「最近別の学校で虐めの所為で自殺があって世間も気にしてるからな!」
今村には喋らせないように美川は続けた。今村はそんな美川の様子を見てニヤニヤニヤニヤしている。
「こんなに元気な美川初めて見たよ……クックック……そんなに話題にされたくないのか……」
「あぁっもう!そりゃあそうだろうが!……そうだ今村。お前の好きな奴はいないのか?」
「お?そう言えばそうだな……俺らの好きな人は知ってるのに自分はいないとかいわせないぞ?」
美川の強引な話題転換に蜂須賀も食いついた。今村は即言った。
「いないんだよこれが。全くもって誰かを好きだと思ったことがない。……だからお前等みたいなんが青春してるのを見ると遊びたくなるんだよね~」
苦笑から後半部分は完全に面白がっている笑みになる。
「さて、話を戻そうか。」
「あ、もうクラスに着いたからじゃな!」
今村の笑みの前に二人は退散していった。
「クックック……楽しくなって来たが……毎度毎度俺が登校すると絡んでくるのはいただけんな。俺はさっさと教室に行って本を読みたいというのに……」
「今村くんちょっといいかしら?」
「……何か御用ですか。」
教室に向かおうとしていた足を涼やかな声が止めた。今村はテンション低くそれに応じる。
「……出来れば人のいないところに。」
「屋上前。」
「わかったわ。」
それだけで分かったらしい声の主、白崎は今村を追い抜いて屋上前の階段を上がって行った。
「……本を……」
未練がましくそう言いつつ今村もそれを追った。
「……で、どうしたの?」
「こっちの台詞なんだが……」
屋上では当然だが白崎が待ち構えていた。何故こいつは最近俺に絡んでくるのだろうか。そんなに話し相手に飢えていたのか……と思いつつ今村は階段の最後の方を上って行く。
「……今日学校に来たら教師たちが今村くんとだけは関わらないように言ってきたのよ。何か心当たりは?」
「色々。」
「……屋上での一件がバレた?」
「いや。それはない。あいつ等は自尊心の塊みたいな奴らだから4人がかりで俺に負けたなんざ言いふらすわけ……違うな。あいつ等は階段からこけたんだ。俺と何のかかわりもない。」
「……よくそんなこと言えるわね。屋上での一件でないとすれば何かしら……」
白崎は白魚のような指を顎にあてて考えている。
「あーまぁ誰にも言わないなら心当たりを教えてもいいが……」
「愚問ね。言う相手がいないわ。」
「……悲しいこと言うな。まぁいいか。親にも言うなよ?」
「えぇ。何したの?」
白崎が興味津々といった態で今村に詰め寄る。かなり近いと思わないでもないが人に聞かせたくはないので引くこともなく今村も応じる。
「まぁ……軽く学校を脅したんだよ。こないだ。それだろ。」
「……は?」
白崎がフリーズしている間に今村は説明を済ませる。白崎は形のいい眉を寄せて聞いた。
「……つまり、昨日急にホームルームで虐めの問題について話されたのはあなたが公衆電話から学校に電話をかけて密告したから……と。」
「まぁそうだな。世間の目もあるしすぐに取り上げてくれるだろうからその手を使って……牽制しようとしたら当日に実際に虐めに遭った。で、阿呆が盛大に自爆した。」
「……そこで職員室に連行。虐めを何もなかったら公表しない。と学校に言ったわけね。」
「うん。何もなければってことがミソだな。……俺にとって何もなければってことだから……まぁ職員室では従順な感じで言って、その帰りに担任の耳元で嘲るように言った。……まぁ担任の方が広がったんだろうな~」
楽しそうに笑う今村を白崎は溜息交じりに見た。
「……何と言うか……酷いわね。貴族たちの謀略戦争を見てる気分だわ…」
「ん?そんなにぬるかったかな……じゃ、一回俺が考えた範囲内の全選択肢の説明を行うか。」
そして10分ほど今村の計画について白崎は聞いた後、逆に尊敬の眼差しを向けていた。
「……まさに悪魔……」
「お褒めに預かり光栄だね。」
「あなた私と一緒にフェデラシオンに来ない?結構いい地位につかせることを約束するわよ?」
「……いい地位が中卒ってアレだろ……せめて高校行くわ。」
「そう。卒業後は考えていてくれない?」
「……」まぁ考えとく。」
「色よい返事を期待してるわ。」
そう言って白崎は軽く微笑んだ。今村はそれを見てこれが蜂須賀が惚れた笑みか~と呑気に考えていた。
「……それじゃ、とりあえず学校側の意向に沿って学校ではあまり話しかけないようにするけど……あなた住所はどこ?」
「……知ってどうする気だ?」
「お中元を贈るわ……って冗」
「分かった。○○○町3丁目2-3だ。……で、何贈るつもり?」
「……か……考えとくわね……?」
まさかそんなので教えてくれるとは思っていなかった白崎はそれだけ言ってメモを取ってクラスに帰って行った。
「……まぁリクルート先になるかもしれないからな。」
今村はそう呟いて自分もクラスに向かった。