5.珍しい
「はっはっは!正当防衛正当防衛!」
「……明らかに過剰防衛しそうよね……」
最初に殴って来た男にカウンター気味に顔面にストレートを入れると鼻が拉げて血が流れ落ちた。
「テメェ……」
「そんな状態で凄んでどうするんだよ間抜け。」
今村は笑いながら追撃を緩めない。容赦なく伸びている手を取って逆関節を極めて折った。
「ぎゃああぁあっ!」
「……そんなに声を上げるとか……素人だな。これで戦意喪失するだろ……」
今村は冷めた目でその男を見てから攻撃と同時に周りを囲んだはいいものの、襲いかかった男が一瞬で戦闘不能になって怯える周りを睥睨した。
「……さ、行こうか。」
その薄ら笑いに大勢で一人を寄って集って一方的に攻撃する予定だった男たちは背筋に冷たいものが走るのを覚える。
「ならこっちを……ふぐっ!」
今村が次に誰が来るんだろうな~と思いながら周囲を睥睨している間に一人が白崎に襲い掛かる。だがその直後に白崎はすっと横に入り足を払って男を転ばせた。
「ありゃ、」
そしてその間に入ろうとしていた今村は自ら戦いに行くとは思っていなかったので目算を狂わせて攻撃を空ぶらせる。
「元々ターゲットに入ってるみたいだし……そう言えば、この前に読んでみたサブカルチャーの本に載ってた分には一緒に喧嘩すれば友人らしいけどどうなのかしら?」
「知らねぇよ……ってか強ぇな」
一応立ち上がれば普通に喧嘩に戻ってきそうだったので今村は顔に蹴りを入れておく。それを見て白崎は僅かに柳眉を顰めた。
「……倒れてる人に手を出すのはどうかと思うのだけど……」
「出したのは足だ。……それにこれはスポーツじゃないんでね。」
今村は歪んだ笑みを浮かべて残り二人と倉田を見る。横では白崎が駄目だこいつと言わんばかりの表情で頭を振った。
「やりすぎは……駄目よ?」
「正当防衛しかしてないって……あ、逃げんなよ!来いコラ!」
倒れた男たちを無視して裏路地に逃げ込む3人。当然今村は追い掛けた。
「……もう防衛じゃないじゃないの……」
白崎は溜息をついてその後ろ姿を見送った。
「何だテメェらってうごぉっ!」
「ようやくやる気になったか……ってん?」
曲がり角で急に襲い掛かって来た男の顎を蹴りぬいて今村は首を傾げた。横転して白目をむいている顔がさっきいた顔じゃない気がしたのだ。
「あ……ありがとうございます!迷ってたところにしつこくナンパされて……」
そして見知らぬ少女に頭を下げられていた。辺りを見るが逃げている奴らはいなくなっていた。どうやら逃げられたらしい。
「……まぁいいか。気にしない。」
「はい!……あのー……お名前とか……」
「……?今村だけど……じゃ、この辺で……」
少女が何か言っているが今村はこれ以上厄介ごとにかかわる気はない。喧嘩も楽しいがもう家に帰って本を読みたいのだ。そして本を喧嘩を売られた場面に置いて来たのを思い出した。
(やっばい!置き引きに遭ってたらあいつ等殺す!)
結構本気目にそう誓って今村は来た道を急ぎ目で帰ることにした。その後ろから少女は付いて行く。今村は迷子なら仕方ない。と思い黙って大通りに戻った。
そしてすぐに人通りの多い道に出た。
「ありがとうございました!あの!私小野って言います!」
「あぁそう。じゃあ何か知らんけど頑張ってね。」
今村はそう言って少女と別れた。少女はこれから色々言おうと思っていた所からかなりの早さで今村がいなくなったのを見て呆然と見送るしかなかった。
「……お帰りなさい。」
「!いや悪いね!」
今村が正しく喧嘩を始めた所に戻ると白崎が今村の荷物を持っていてくれたいたようだった。
「あ~マジ助かった!ありがと!」
今村のお礼の言葉が意外で白崎は固まったが満更でもない様子で本を返した。
「それじゃあ帰りましょうか。」
「……あぁ。」
正直もう別れて帰りたかったが本の礼もあるので無下にもできず、今村は白崎を連れて駅に向かった。
「……ところで何の本を買ったの?」
道中、白崎にそんなことを聞かれたので今村は簡単に説明したり本談義をしたりして移動する。
そんな話をしているとすぐにデパートの最寄駅に辿り着いた。そして人の少ない電車に乗って目的となる自宅周辺の駅に着く。ようやく解放された……と思う今村に対して白崎は少し微妙な気持ちになっていた。
(……こんなに人と会話したのは初めてかもしれないわね……結構楽しかったのだけど今日はここまでか……そう言えば)
「じゃあ……」
「また、月曜日ね。」
(フフ……楽しみだわ。)
「そうだな。また月曜。じゃな。」
(……それまでにイケメンの素性を探っとかないとな。)
結構忘れ気味だったことを思い出して二人は別れた。
「……ん?珍しい……帰って来てるな。」
今村は玄関先にあった靴を見てそう呟きつつ部屋に直行した。そして本を開こうとして父親が部屋に乱入して来た。
「帰ったか!」
「悪いか!」
それと同時にコークスクリューパンチを肩目掛けてやって来たので今村はそれを片手でいなしつつ肘関節を極めた。
「はっはっは!重畳重畳!」
「で?何か用?」
今村は忌々しげに筋肉まみれのその男を睨む。本を読みたいのに邪魔だからだ。男は何が面白いのか爆笑しながら言ってきた。
「何となく帰って来て息子がいたから殴ってみた!」
「そうか。じゃあ俺も何となくこの腕折るな。」
「それは困る!仕事に差し支えが出るからな!」
今村がギリギリ腕を折りにかかると男は笑いながらタップしてきた。今村は大人しくその手を放す。
「はぁ……本読むから放って置いて。」
「む?そんなくだらないことは置いといて組手を……ごっはぁっ!」
とりあえず殴った。本を馬鹿にするやつは親でも殺すがゴールデンルールの一つなのだ。そんなことを廊下でやっているとキッチンから妹の声が聞こえてきた。
「もー父さん……兄ちゃん受験で忙しいんだから大人しくしててよ!」
「そうかそうか呉羽はお父さんの事が好きか。」
(相変わらずわけわかんねー…)
今の声をどう聴きとったらそう聞こえるのか分からない今村はそう言えば参考書を買いに行くという名目で外に出たんだったなぁ……と思い出した。
「まぁいいか。」
今村はそれですべてを片付けて部屋に籠って読書を開始した。
「はっはっは!今回の仕事はな!建築だった!」
「…建築士免許持ってたっけ?」
夕食時、ニュースをバックミュージックにして何でも屋をやっている父親―――礼二の自慢話に付き合いつつ突っ込みを入れていると礼二は無駄に腕に力を入れて言い返してきた。
「気合があれば十分だろう!それで近くの遊園地の建築作業にも駆り出されることになっているからな!終わればセミオープンのチケットをくれてやろう!」
「もう……兄ちゃんは受験生なのに…」
その話を聞いて呉羽が頬を膨らませる。
(大して可愛くないんだからそういうのは止めとけ……)
虐め問題でまたどこかの中学校が叩かれているのを聞き流しながら、妹にそう言うと無意味に父親とバトルになるので言わないが味噌汁を啜りながらそう思った。
「はっはっは!仁も15だ!……ったよな?酒飲んでるしな。」
「受験期入ってから飲んでねぇよ。15で合ってる。」
「結婚もできる年齢だ!卒業前に一発決めとけ!」
「お父さん下品!」
「はっはっは!」
(何が楽しいんだかねぇ……まぁ人の恋路に関しちゃもの凄い面白いことは同意だが……それが自身に絡んでくるとムカつくな。蹴り飛ばしてやろうか?)
親相手にも容赦のない今村は黙って食事に勤しんでニュースのことを頭の中で何かに役立つかなと思いつつ勉強と言って自室に戻って読書を始めた。
その後食後の腹ごなしと言って襲い掛かって来た父親を部屋から蹴り出した。