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4.遭遇

「……そう言えば。」


 今村は適当に地理学の教科書を眺めていてふと今日は月初めである事を思い出した。


「よし、何か良い小説か漫画出てればいいな。」


 こうして受験生は外へ出て行った。











 デパート、ラシーヌ。地域密着型のこのデパートでこの町一の品揃えを誇る。今村の家からは少々遠いがそんなデパートの本屋に今村はいた。


「……ん~……とりあえず4冊か……後は古本屋で買えばいいや位の優先度だし……金があれば全部買えるのになぁ……」


 独り言を呟いて書店をぐるぐる回る。何か気になる本があるかもしれないからじっくり見て回る。そうしていると何故か最近よく会う人物の姿を確認した。


(……さて、声掛けるほど仲が良いわけでもないが……無視するのもアレだし……気付かなかったことに……)


 別に何か悪いことをしたわけではないが何か休日まで会うのは気まずいので行く気が失せる。

 だがそのコーナーには少し気になる本があるかもしれないのは事実だ。どうするか考えているとその人物は本を棚にしまった。今村は特に慌てもせず近くの本の中から自分の興味があるタイプの本を手に取ってやり過ごすことにする。そんな彼の背後から声がかけられた。


「……?何か本っ当に最近よく会うわね……こんにちは今村くん。」

「ん?あぁ……白崎さんか……」


(……これで今週三回目……)


 今村は本を閉じて棚にしまうとやり過ごすはずだった白崎と向き合った。白崎は白いワンピースを身に纏っており、その上に水色のカーディガンを羽織っている。


「……今村くん。あなた私のことストーカーしてるわけじゃないわよね?」

「……ない。ってか何の用?」


 ストーカー呼ばわりで軽くイラッと来たが前世含むとかなり大人なので抑えろと言い聞かせて自身を冷静に落ち着かせた。そんなことを知らない白崎の方は軽く小首を傾げた。


「あら、用がないと話しかけちゃいけないのかしら。」

「別にいいけどさぁ……何してるんだ?」

「……ちょっと……ね。この前友人の定義について話してたじゃない?……少し話がしたいからちょっと移動しない?」

「……会計済ませてくる。っとその前に……」


 今村はあんまり乗り気じゃないが、今ふと思い出した名前は忘れてしまったイケメンたちのために頑張ることにした。その前に探していた本の確認だけ全部済ませておく。


(『破壊化学の実践』は……出てないなぁ……やっぱり基礎も回収されてるらしいし実践は絶版かなぁ……)


 物騒なタイトルの本を探すが出ていなかったので仕方なく今持っているだけの本を持って会計を済ませる。その間白崎はずっと後ろで待っていた。


「さて……どこに行くんだ?」

「そうね……この辺りでいい店と言えば……今村くんは何か知らない?」

「生憎、外食はあんまりしないんでな。」


 今村は言っておいてこの時点で帰りたくなった。本を手に入れた時点で読みたくなるのは当然のことで今村からしてみれば人と話している場合ではないのだ。


「……もうこの辺の喫茶店に入りましょ?」


 だがここは我慢だ。何となく覚えているイケメンのことを思い出して今村は目の前のし……白崎?に付いて行き、一軒の寂れた喫茶店に入った。



















「……ということよ。つまり私の場合は女子から敵視されてるし、男子からは狙われてるから周りに人がいないだけで私に問題があるわけじゃないわ。」

「……それでいいと思うよ。」


 今村は聞き役に徹していた。そしてかなり疲れたので名も忘れたイケメンのためにここまでする必要はないような気がして帰りたくなっていた。


「……真面目に聞いてる?」

「まぁ……ねぇ……」


 グラスの中の氷をストローで弄びながら答える。白崎はその態度が気に入らなかったらしく、今村の顔をジト目で見続ける。今村は視線に敏感なのですぐに顔を上げた。


「……で?結果白崎さんはどうしたいんですかねぇ……」

「口調!大体同い年でしょう?一々さん付けもしないで。」


(……拘りの強いやつだなぁ……)


 苦笑しながら言い直す。


「で、どうしたいんだ?何?お友達作りましょう会でも開けばいいの?悪いが俺に友人はいねぇ……?あ、いる。」

「……いるの?」


 予想外だったようでまるでゾウリムシがライオンを一撃で薙ぎ倒した状況を目撃したかのような驚き振りをみせた。


「名前は……えーと……」

「それ友人?」


 名前すら思い出せない今村を見てさっきのような光景はやはりあり得ないもので目の錯覚だったようだと安堵する白崎。何気に酷い。


「……同学年にイケメンが2匹いるだろ?あれ。」

「……匹扱いなの?イケメン……格好いい人よね……う~ん……」


 唇に人差し指を当てて思い出そうとしている姿は今村の後ろにいるカップルの男を魅了して隣のカップルの女とケンカの原因になるほどの可愛らしさだが今村は思い出そうと忙しくて見ていない。


(……ここで切っ掛けを作ってやれば面白いことに……駄目だ思い出せん……奢られた紅茶の銘柄は思い出せるんだが…)


 アッサムだ。それは覚えている。奢ってくれた奴の顔もぼんやり覚えている。奢らなかった方は忘れたが……


「……そこまで考えて思い出せないって友人って言えるのかしら?」


 ふと白崎が今村に問うと今村は何とも言えない顔になる。


「……この辺まで出かかってるんだが、まぁ後で紹介しよう。」

「いつ?」

「……げ……月曜かな……」

「そう。楽しみに待ってるわ。」


 白崎は可愛らしい笑顔を今村に向けた。だがそれは言葉通りにとれるものでなく今村に友人がいないことをそれだけ確信しているのだろう。かなり酷い。


(……クラスも名前も忘れたが何とかなるだろ。)


 そう思いつつ何となく一緒の行動をとったがこれからどうしたものか……と考える。それは向こうも同じようだ。両方とも相手の様子をうかがっている。


「じゃあ……そろそろ……」

「そうね。出ましょうか。」


 今村は埒が明かなさそうなのでそう言ったら白崎がそれに応じた。今村はここで別れるつもりだったのに一緒に出るつもりな白崎を見て何とも言えない表情をほんの一瞬だけ作る。

 会計を済ませて今村は困る。白崎も困っていた。


(……出るって言われたから私も出ないといけない気になったけど……これじゃこの後も同じ行動をとるつもりって言っているのと同じじゃない……そう、じゃあ私は少ししてから出るわって言えばよかったわ……)


 友人がいない彼女は対人スキルに欠落があったのだ。近付いて来る相手をあしらうことは出来ても自分から声を掛けた人にそんな真似は出来ない。


「……それじゃ俺は帰るけど……」

「あ、そうね。そうしましょうか。」


 そして二人でデパートを後にする。今村がこのデパートから家に帰るには少々距離があるため電車に乗る必要がある。そして同じ中学校に通っているということは白崎もその例外ではないということだ。


(……もうちょっと見て回れば良かったか……?)


 今村は後悔しながら白崎と一緒に帰路につく。すると何か見覚えがある奴らとその他に見るからに軽薄そうな顔をした奴らが仲良く歩いていた。


「お!ねぇそこの可愛い子!俺らと……「あぁーっ!」……なんだよ倉田……」


 軽薄そうな顔の男が白崎に声を掛けようとしたところで倉田と呼ばれた男が今村を見て大声を上げた。


「こいつだよ!俺らにこんな怪我を負わせた奴!」

「へぇ……ちょっと面貸してくれるか……?」


 軽薄そうな顔をした男は倉田と呼ばれた男の言葉を聞いて途端に目を細めて今村を睨み、その直後にぞっとした。今村は笑っていたのだ。


「クックック……お仕置きが足りなかったかぁ……写真っつってたのになぁ……後俺の顔はあんパンじゃないから貸せない。」

「ちょ……今村くん?」

「あぁ……まぁ一応手の届く範囲にいて欲しいかな……いざって時に人質になられても困るし……俺、顔がアンパンじゃないのと同時に正義の味方でもないから人質ごと普通に倒す可能性があるからさ……」


 どうやら今村は戦う気のようだ。軽い挑発をしながら白崎に離れないように言うと丁重に本を近くにあった煉瓦に下ろす。そんな今村を見て白崎は溜息をついた。


 そんな二人のやり取りを見ていた倉田は獰猛な笑みを浮かべる。


「どうやら白崎さん……今村に情報流したのはあんたみたいだな……ならそっちも標的だ……」

「へっへっへ……綺麗な顔に傷はつけないから安心しな……まぁちょっと別の所に一生もんの傷を負って痛い目に遭うかも知れねぇけどな!」


 近付いて来る男の下卑た笑みに白崎は心底嫌そうな顔をする。周りの人間は見て見ぬ振りで、周囲には人がいなくなっていた。


「はぁ……今村くん。私そんなに強くないわよ?」

「闘う気かよ……まぁどっちでもいいや。早く来いよ腐れども。」


 今村は更に挑発してやる。その言葉を聞いた血気盛んな男たちは今村に襲い掛かる。


 初めの一発を躱した時点で今村の口元は三日月の様に歪んでいた。


「正当防衛だ……」


 それを合図にしたわけではないだろうが、男たちは全員が今村を袋にするように動き出した。




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