3.対人
「……フム。それで?何で白崎のことを好きに?」
今村、蜂須賀、美川は話をするために帰りがけファミレスに寄っていた。
「……前に偶然一人でいるのを見てさ、その時は美人な人だなぁ……ぐらいだったんだが……その後に猫が塀の上で寝ているのを見てちょっとはにかんだんだよ……そのときの笑顔が俺の心にきたんだ!」
(つまり顔と。)
バッサリだ。因みに彼らはいつも二人で行動しているがその笑顔を見たのは蜂須賀。茶髪を短く切った爽やか系のイケメンだ。もう一人の黒髪をセットしているクール系のイケメン―――美川は別に好きな人がいるらしい。
「さて、とりあえず俺は白崎と話したことはあるが別に仲がいいわけでもない。興味本位で話を聞いただけだ。」
「……兎に角、どうやって会話を始めたんだ?俺たちは話しかけられることは多くても自分から女の子に話しかけたことがないんだよ……」
(ほぅ!それはさぞかしおモテなのですねぇ…)
困り顔で自慢を入れてくる蜂須賀にかなりイラッと来ながら大人の対応で話を進める。
「……俺も別に話しかけたわけじゃないしなぁ……廊下で向こうの方から声かけて来たし。」
「どうやって!?」
蜂須賀は食いついてくる。今村は当時の状態を思い出す。
(パイプ持って多分自覚してないけどニヤニヤしてたと思うな……ふむ。冷静に考えてとてもじゃないけどお勧めできないな。)
「……とある理由から廊下を歩いて喧嘩しに行ってたら声かけられた。」
事実を一部伏せて述べた。因みにあの時、今村主観ではパイプを持っていたが屋上の扉に手をかけるまでパイプは隠していたので白崎目線では告白されてニヤニヤしているようにしか見えていない。
「……そうか……喧嘩か……俺あんまり強くないんだよなぁ……」
蜂須賀は今村が誰かを助けるために喧嘩に行っていると思っている。そんな少女マンガ脳のことを知らずに今村は蜂須賀に声をかける。
「あ、大丈夫俺も今は弱い。」
「……じゃあ喧嘩には負けたのか?」
その割には怪我もしていないし元気そうだよなと思って今村の体をじろじろ見る蜂須賀。今村はそんな視線に苦笑して回答を返す。
「いや?雑魚かったし大丈夫。」
「……そうか。でも少女マンガみたいだよな……でも、そうそう困ってる人に巻き込まれて喧嘩なんてありえないし……俺はどうしたらいいんだろうな……」
「……ごちゃごちゃ考えずに話しかけろ。面倒臭い。白崎の友人に話を振ってその流れで……ってあいつ友達居なかったわ……」
いきなり計画が頓挫した。次の案を出す。
「……よし、何か困ってたら話しかければいい。幸い受験期だ。困る話題には事欠かないぞ。」
「そうだな……うん。とりあえずはそうしよう。相談に乗ってくれてありがとな。じゃあここの支払いは俺が持つから。」
「お!いいのか?」
紅茶一杯だが奢られるということには変わらない。こんなことをされるのはかなり珍しい事だったので今村は喜んだ。
(こういうところにもイケメンらしさが出るんだろうな~)
「じゃ、またな!」
イケメンズは去って行った。そして今村は一人帰路につく。
「……くぁ……受験生なんですけどねぇ……」
今村は今日が学校の行事で半日、午前中が球技大会で、午後は学校がないことを嘆きながら校庭に立った。幸い勉強に集中したい人は一つの教室の中に詰め込まれているので今村は参加しなかったがここで別の問題が浮上していた。
「……あら、最近よく合うわね。」
「……ホントにな。」
隣の席が白崎だったのだ。イケメンズはリア充なので勉強せずにスポーツをしているためこの場にいない。……というより中学最後の思い出づくりとか言って殆どの生徒は自習の方にはいない。
寧ろ今村が自習すると言った時には逆に教師に驚かれたくらいだ。聞いたところによると自習はあくまで学校側が受験期に強制でスポーツをさせているのではなく生徒たちが自主的に思い出を作りたいということで行事をしているということをアピールするポーズに過ぎず。実際に勉強を選んだ人はいないらしい。
(……結果二人きりですか。成人(15歳)になってから前世の記憶が入ってイベントまみれだな……)
ちょっと残念な思考で隣にいる美少女を見る。何しろ15歳。まだまだ現役の中学生だ。セーフだろう。そんな多感なお年頃の今村の横にいる彼女は本を読んでいた。
「……何かしら?」
「……いや……何でこの広い教室の中で態々俺の隣に座ってるのか……」
(……そういうのに勘違いする人は多いんだからな!俺はそんなことを考えるほど若くはないが、代弁者として言っておく!)
そんなことを考えている今村に対して白崎は自意識過剰じゃないの?という視線を向けて答えた。
「……今日は肌寒いのに夏服の上、暖房をつけないここの学校が悪いわ。……ところで、こっちからもいいかしら。」
「あぁ?何?」
面倒そうな今村に白崎はごく自然に尋ねた。
「……普通私が近付くと男の人って喜ぶのだけど……あなたは何で近くにいるのを嫌がるようなことを言うの?」
きょとんとした顔で心底不思議そうに聞いてくる白崎に今村はもの凄い自信ですね全員が全員喜ぶわけじゃないんですよ?おつむの方は大丈夫ですか?と言いたくなったが流石に怒りそうなので止めた。
「別に嫌がっているわけじゃないよ?寧ろ逆に訊きたい。普通俺に近付くと嫌そうな顔をする人が多いけど何でお前は近くに平気で来れるの?」
「……そう。分からないわね。」
「じゃあ俺も知らんな。」
今村は話を打ち切って歴史のノートのまとめを始めた。
(……え~と初期の幕藩体制からだったな……下馬将軍の異名を持ったのは……酒井忠清……ってこんなん出るのか……?)
ノートを見ると教科書に特に載っていない人物の名前が赤で入っていた。覚えていてなんだがどう考えても入試に出る問題とは思えない。
そんな問題を書いていると隣にいる美少女様が話しかけてきた。
「ねぇ。ちょっといいかしら?」
「はいはい?」
今村は顔を上げずに白崎の話を聞く。白崎は気にしないことにして続けた。
「最近……いえ、昨日から急に告白が増えたのよ。今までは週に一回程度だったのだけど……あなた何もしてないわよね?」
確認のような言葉に今村の方もキリがいいところまで書けたので顔を上げて返事をする。
「してねぇな。こちとら受験生で暇じゃねぇし。景気が悪いのとかも俺の所為にするのか?……まぁそれはさておいて、誰かと付き合ったりするのか?」
「……2つの質問の答えはしない。よ。景気の話なんてしてないし、付き合うということは話もしたことない人と何で付き合えるの?」
今村は白崎の質問を鼻で笑った。
「知るか。そういうもんだからとしか言えないだろ。」
「……?今村くん誰かと付き合ったりしてるのかしら?」
「目ん玉腐ってんのか?視力悪いなら眼鏡かけたらどうだ?」
「……生憎目は両方2.0よ。そう……わかったわ。それじゃ。」
何が分かったのか分からないが白崎は席を立った。
(……アレだよな。話し終わったら急に席を離されるとなんとなく物悲しいが電車内で隣が開いた瞬間に大袈裟に避けられるとムカつ……ってぇ?)
「私と話すときは目を見て話しなさいと言ったはずよね?」
もの凄い至近距離に白崎の整った顔が近付いていた。今村の鼻腔を花の様な香りが通り抜ける。
「え……っとぉ……?」
「目を逸らさない!」
「主観的に最近暑かったから泳がせて涼ませてんだよ。何でこんなことを強要するんだ……?」
「……別にいいじゃない。それに強要とは人聞きが悪いわね……この先今村くんが対人関係で困らないように指導してあげてるだけよ。」
「現在進行形で困ってる奴に言われても……」
「はうっ……」
がっくり項垂れる白崎。至近距離で勢いよく顔が下がるので白崎の綺麗な白い髪が今村の頭の上に乗る。
「……だ……だから……前も言ったけど、私は友人を作らないだけで作れないわけじゃないわ……それに友人なんてどこから友人なのよ?そんなの辞書を引いても全然わからなかったわよ。」
「……心理学的にはその人の前で号泣できれば友人らしい。あと別に俺対人関係の問題とは言ったけど友人とか一言も言ってねぇぞ……?」
今村の言葉に白崎が顔を上げて涙目で言ってきた。
「……わ……私は人前で泣かないわよ……今村くんは泣くの?」
「う~ん……最近いつ泣いたっけ十年単位で泣いてない気がする……」
「!ならあなたにも友人いないじゃない。」
どうやら精神を持ち直したようだ。そしてその後友人とは何ぞやと言う話で結果今村は勉強できずにこの日を終えた。
因みに白崎さんは受験しないで国に帰るらしいが、怪我をするといけないという事で見学をし、寒かったので教室に入って来たという事だった。




