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最終話

「……ふう。あ~緊張して来た~パパぁ~大丈夫かな~?」

「大丈夫だ。俺が付いてるから安心していい。」


 卒業式後、小野は美川に呼び出しの声をかけた後、周囲に囃されながらそこからすぐに立ち去り、柿本と合流した。


 その際に柿本は式に来ていた彼女の父親と一緒になって小野を待ち受けており小野は現在非常に怯えながら移動中だ。


「ひぅっ!」

「やだ、おのっちビビり過ぎ~ただの電話だよ?」


 突如鳴り響いた携帯電話に小野が悲鳴を上げるとそれを見た柿本が笑う。完全に人を見下した笑いで小野は嫌な気分を味わうが何も言えずに俯くだけだ。


「……はい、わかりやした。」

「パパ、何だったの?」


 電話が終了すると柿本の父親は溜息をついて答えた。


「わからん。オジキが用があるらしい。」

「……あの?」

「そうだ。」


 柿本の顔が露骨に顰められる。小野は会話について行くことが出来ないが取り敢えず歩を進めるのを止めて二人の話を聞く。


「……あたしも行った方がいい?」

「まぁ、オジキも鬼じゃないし好きな人と告白があるって言えば早目に帰らせてもらえるだろうしな……お前も告白の時は俺がいた方がいいだろ?」

「ん~でも~……美川君を待たせたくないし~……」


 渋る柿本に小野は今日は諦めてくれるかと淡い期待を持ったがそれを打ち消すかのような笑顔で柿本は小野に言った。


「んじゃ、美川君におのっちが色々話して楽しませてあげててよ。前座ってやつかな?しっかり場を温めといて~パパ、行こっ?」

「……そうだな。俺も出所したのはオジキの力ありきのもんだ。出来ればお前を連れて機嫌を取りつつお前の今考えてる幸せとかの説明しておかねぇと。」


 無理だと言いたい小野だが、柿本の父親の眼光に射竦められて何も言えずに頷いた。それを見て柿本親子は満足気にどこかに行ってしまう。


 小野はプレッシャーやいろんな感情がない交ぜになって静かに泣きながら目的地へと向かった











「……何で、あなたがここに来たの?」


 白崎は静かに憤っていた。それと同時にある回答を得ており落胆で泣きそうになるのを堪えている。

 それに気付かない蜂須賀は曖昧な笑顔で答える。


「その、今村には協力してもらってて……今日、白崎さんにここに来てもらったのにはちゃんとした理由があるんだ。」

「……私だって、あるわよ。」


 白崎はそう震える声で漏らす。か細い声だったが、それは蜂須賀にきっちりと聞きとられていたようだ。


「今村は、用事があるって言ってすぐに帰ったよ。俺からも言いたいことはあったんだけど……」

「用事、ねぇ……ふぅ……」


 酷く傷ついた白崎だったが一度呼吸を深く行いそれを吐き出す。それを合図と取ったのか蜂須賀は意を決めて言った。


「白崎さん。あなたがフェデラシオンに帰る前にどうしても言いたいことがあったので、この場に呼び出させてもらいました。」

「そんなのどうでもいいわ。帰らせてもらうわよ?」

「聞いてください。俺と、お付き合いをお願いさせてください!」

「嫌よ。」


 ノータイムで答えられた解答に蜂須賀は一瞬呆けた。そして思考が追い付く前に白崎は畳みかける。


「毎回毎回私が嫌がってるの分からないの?あなたは私の表面しか見れないのかしら?……いえ、表面ですら見えてないわよね?そんな人と何で私が付き合わないといけないのよ。……話はそれだけ?」

「え、あ……」


 返事のできない蜂須賀を睨んで白崎は溜息をつく。


「……それだけみたいね。私、大事な用があるのよ。それじゃ。」


 それだけを言うと白崎はすぐに学校から出て行った。そして校門前で待っていた車に乗り込む。


(……嫌なら嫌って言いなさい。何も言わせないでさよならなんて私が許すわけないでしょう?)


「では、出発させ……」

「待って、行くところがあるの。」


 白崎はすぐさま目的の場所を告げた―――











「オジキ。どうしました?」

「何、ちょっとお前に訊きたいことがあってな。お前、入間んとこと揉めたらしいな?」

「……は?」


 柿本親子はオジキと呼ばれた人物に指定された場所に移動していた。そこは二人には馴染みの港で、以前白崎を誘拐して今村をおびき出したところだ。

 周囲に人はなく寂れてシャッターを下ろした倉庫とその光景には不釣り合いなオジキが乗って来たと思われる高級車がある以外は何もなく、昼間というのにどことなく薄暗い印象を受ける場所だ。


 そこでいきなり始まった用件に柿本の父は間抜けな声を出した。


「天門組ですか?俺は……」

「しらばっくれてんじゃねぇ!港で人集めてんのは割れてんだよ!あんだけ素人集めといて永遠にバレねぇとでも思ってやがんのかぁ!?あ゛ぁん?」

「アレは、娘の……私的なモノでして……」


 怒るオジキに柿本の父親は平身低頭で言い訳を行い、柿本がそれに割って入って弁解する。


「おじ様。あれは獄嬰組を舐めた奴がいたので……」

「お前には聞いてねぇんだよ!大体、それで何でフェデラシオンの公女を拉致ってんだボケが!死にてぇんだな!?」


 オジキの蹴りが柿本に入り、柿本は蹲って吐くのを堪えた。それを見た後にオジキは急に怒りを治める。


「だが、まぁ……出所させたんだ。分かるな?」

「む、娘を出せ、と?」


 柿本の父親が震える声でそう言うと柿本は信じられないものを見る顔で彼女の父親を見た。


「パパ……?」

「そうだな……まぁ、どうすればいいのか、自分で考えてみたらどうだ?」


 オジキはそう言って笑う。そうしてオジキが黙ると柿本親子はもの凄い勢いで親子喧嘩を始めた。


「娘を売るなんて信じらんない!最低!」

「もとはと言えばお前が撒いた種だろうが!」


 口論から掴みかからんレベルまで達したところでオジキが急にもう堪えきれないといった風に笑い出した。突然のことに二人は喧嘩を止めて揃ってオジキを見る。


 するとオジキは笑いながら口を開いた。


「いや、悪いが……お前らの処分に関してはもうある奴が決めておってなぁ……そいつの指示に従うしかないんだ。まぁ……そいつが許せば何事もなくなるぞ?」

「だ、誰ですか?」


 不意に与えられた光明に縋るように柿本の父が尋ねるとオジキは今までの中でも殊更深い笑みを浮かべてそれを呼んだ。


「入間んとこのガキ。教えてやんな。」

「あいよ。ハロー腐れども。元気?」


 オジキが乗って来たと思われる車から降りてきたのは柿本と同じ学校の制服を着ている男子生徒だった。その姿を見て柿本は呻くように呟く。


「い、まむ……ら?」

「よぉ。獄嬰組組長第27夫人。おめでとうだな。」

「な、なんで……?」


 その質問に今村は学校では見せたことのないとてもいい歪みに歪んだ笑顔で答えようとしてオジキに先を越された。


「そりゃ、これが入間んとこの孫だからだ。馬鹿が。お前らが、素人集めて誘拐する時に何で気付かんかったんだ?こいつの家族情報が全部不明だったのに何も思わずに関係者というだけで同じくらい面倒な奴を誘拐する馬鹿がいるとは思わんかったぞ?」

「……ネタばらし俺がしたかったのに。まぁいいや。他にもネタはあるし。」


 少しだけ不機嫌になる今村にオジキは笑いながら言う。


「まぁ許せ。獄嬰組継がせてやるから。」

「……はぁ。あ、そう言えば飼い犬始末しました?」

「あぁ、あのテーマパークの屑ならちゃんと沈めたぞ。9男の癖に何を大それたことをしておるのか知らんが……そんなことより、組の……」


 今村は話題を逸らすのに失敗したのでその話を一度置いといて未だ状況を理解したくないといった様子の二人に声をかける。


「いや~お前馬鹿過ぎてもうびっくりしたよ。毎日が記念日レベルのおめでたい頭してて頭の中ハッピーセットなの?って訊きたくなるレベル。職員室内での雰囲気、何も思わなかったの?」

「な、何がよ?」


 虚勢を張って誤魔化そうとする柿本だが感じ始めた悍ましさに体が震えるのが止まらなくなっている。


「お前さぁ、すぐに虐め発覚した時に俺と職員室行ったよなぁ?で、職員室に連れて行かれた時に校長とか俺の意見を完全に飲んだが……普通の学校で一生徒の意見を全て飲むと思ってんの?何かおかしいと思わないのか?」

「な、波風立たせたくなかったんでしょ。」

「はぁ?あれだけ世間では学校の虐め隠蔽で騒がれてるのに?ウチの学校はかなり特殊な土地に立っているのに?」

「だ、だからよ。他の、私たちに比べればあんたみたいなその辺の庶民は取るに足らな……」


 今村は尚も反抗的な柿本に一度蹴りを入れてみた。すると先程のダメージもあり胃の内容物を吐き出す。


「オイオイ、お前の馬鹿みてぇな脚力であんまり痛めつけるなよ。表面が傷だらけだと後で萎えるだろうが。」

「あーすんません。さっきのネタバラシとちゃらで。」

「全く……それ持って帰るなら別にいいが……それは俺の性奴れ……じゃないな。一応嫁になる予定だぞ?ん?何なら先に使ってみるか?」

「こんなの要りません。」


 オジキは少し考えるポーズを取った。その間に今村は話を進める。


「まぁ、確かに俺は一般人だが「天門組の若頭って期待されてんだろうが。ついでに俺もお前なら統合させてもいいと思ってんだぞ?ん?」……一般人だが!それでも粘着されたら困るだろうが。綺麗ごとしかしてない会社なんざウチの学校には居ないんだからよ。今回もリークしてすぐにマスコミが食いついたの。身を以て知ってんだろう?」

「あ、あんた……天門組……だ、だって!あんた今村じゃない!入間じゃ……」

「母親の旧姓だよ。入間は。んなことどうでもいいとして……」


 今村は柿本の理解の悪さのために説明するのに飽きてきた。もっと驚いて慌てふためいて欲しかったのだが理解できていないらしい。


「オイこぞ……いや、坊ちゃん。俺を、出所させてくれたわけは……」

「俺らの血税使って何でお前みたいなゴミを養わないといけないんだ。栄養士に管理させた栄養ある食事に安心安全で清潔な住居、それに規則正しい生活と職に通常出所させたら塀の中でしてた仕事の賃金まで払わにゃならん。その金が勿体ないから。分かる?ゴミ。蛆にも劣るその頭じゃ理解できない?」


 今村の挑発にすぐに乗った柿本の父親は今村に襲い掛かり、すぐに顔面を電気ラケットで思い切り叩かれた後に今村謹製のキラービーナイフ2世で両腕と脚を浅く斬りつけられて芋虫の様に転がり絶叫を上げる。


「虫けらはこれで殺すけど……良かったね。死なないってことは虫じゃないということだ。……まぁ知ってたけど。お前が虫とか虫に失礼だもん。お前は粗大ゴミだもんな?」

「入間んとこのガキ。そろそろ船が来るぞ。」

「おー……んじゃよろしくですね。予定通りに日本海溝の上辺りで筏を切り離してくださいよ?んで、俺も鬼じゃないんで釣竿位は支給して、あと飲み物がないのは可哀想なんでアルコール度数の高い酒を配給してあげてください。」

「はっ!それは贅沢な飲み物だなぁ……まぁ、いいだろ。」


 気付くと港に静かに大きな船が来ている。そこから海賊のような風貌の男が降りて来るとのた打ち回る柿本の父親に鎮静剤を適当に打って連れて行った。


「……超適当だったんですけど……」

「パパぁっ!パパぁっ!放しってよ!このっ!」

「おーおー活きのいい……」

「んじゃ、なるべく可愛がってあげてくださいねー……この前の奥さんとか3日で死んだでしょ。」

「人聞きの悪いことを言うな俺が殺したみたいだろうが……それに5日はもったからな?」


 今村が高級車に乗り込むとオジキは組員の女性に運転させている乗用車が来たのを確認して柿本に麻酔を打たせた。

 それを確認しつつ今村は家へと向かって運転手に車を発進させた。












「待ってたわよ……」


 今村が家に帰りつくとそこには仁王立ちの白崎が待っていた。今村は家族がいない中で一人での祝勝会の食事である寿司を持ってその場に立ち尽くす。


「何でいんの……?」


 思わず漏れた今村の呟きに白崎は怒りを露わに詰め寄って来る。


「あなた、割と最低なことしたの、気付いてる?」

「まぁ、俺が最低なのは気付いてるが……」

「あ、あれ?白崎さんと……い、今村くん……」


 この場に更にややこしい人物が付与された。白崎は完全に無視を決め込み今村は寿司の保存状態が気になりつつも白崎を気にする。

 そんな空気をあえて無視したのか分からないがその場に来た小野は二人に尋ねる。


「あの、柿本さん、知らないかな?」

「さっきも言ったけど、知らないわ。それより邪魔だからどこか行ってくれないかしら?」

「で、でも白崎さん、大分前に学校終わってからずっとここで立ってるって言ってたから何かわかるかもって、思いまして……」


 小野はしどろもどろになりながらそう言うが、白崎は無言で圧力を加えて小野を退場させようとする。そんな中今村が笑っているのに二人は気付いた。


「柿本?遠い世界に行ったよ。クック……まぁ、高校も合格取り消しになって好きな人は別の人に告白、ついでに父親は失踪……仕方ないことだ。」


 例によって今村は笑った後は小声でかなりの早さで言ったのだがそれも両者聞きとって首を傾げる者と怒りから呆れに変わる者に分かれた。 


「何で、柿本さんが美川君のこと好きだったの知ってて、美川君が私に告白してくれたの知ってるの?」

「……今日はそういうことをする予定だったのね?だからって……」


 呆れても怒り冷めやらない白崎に小野が尋ねる。


「ど、どういうことなの?」

「……何をやったのかは知らないけど……そうね、この地域での言い方ってなると今村くんの家は〝「や」のつく自由業”とだけ言っておきましょうか。そして多分それに準ずることを……」

「白崎?怒ってるのは分かるが、それ以上は……」


 今村が笑いながら目だけ笑っていないのを見て白崎は黙る。


(やのつく自営業?八百屋さん?)


「あー……確か、小野さんは俺と同じ白水高校だったよね?俺の家のことはおいといて距離は、付けないでいてくれた方がいいんだけど?」


 今村が高校でちょっと面倒なことにならない様に小野にそう頼んだが、小野は一気に顔を赤くして何を思ったのかどもりながら叫ぶように言った。


「わ、わ、わかったわよ!い、今村!」

「……いや、まぁ……いいんだが……」

「じゃあね!」

「……あぁ……」


 そして全速力でどこかへ駆け抜けて行った。今村はアームレスリングの世界王者が顔を真っ赤にしながら赤子の手を捻ろうとして微動だに出来ず、赤子が幼い顔で溜息をついた後に机ごと王者をひっくり返した映像を見るような顔で小野を見送って呟く。


「何だアレ。」

「……たらし。」

「あ?……それはまぁいいとして、白崎は何の用?」


 今村が尋ねるとほぼ同時に白崎の付き人がフライトの時間が迫っているので早く用件を済ませてほしいと丁寧に車から降りて来て白崎に告げた。

 白崎は今村を睨んだ後に溜息をついて俯く。それを変な奴だな、さっさと帰ればいいのにと思いながら見ていると白崎が一歩前に出た瞬間、急に動いた。


「っ?」


 顔を突き出して頭突きか?と同時に頭を突き出して迎撃しようとしたところで白崎が顔を横に向けたので今村は目標を失いそして口に結構な衝撃が走る。


(いってぇ……)


 両者の歯の感触を挟んで結構痛かった今村だがそれは兎も角、今の状況の意味が分からずに反撃どころか行動すべてを停止する。それを待っていたかのように白崎は今村の首に手を回した。


 そして少し、体感時間では長い気もしたがある程度時間が過ぎた所で白崎は今村から離れる。


「……諦めると、思わないでよね?」

「何が……?」

「私が、あなたを、よ。帰ってきてみせるわ。またね私にとって最高で最低な今村くん。」


 今村が何を言ってるんだこいつと思いながら白崎を見ていると白崎は車に乗っていなくなった。


「……いや、マジで何だったんだ?」


 楽しかった一日で最後によく分からないことが起きたが、今村にとっては中学校生活全体がそんな物だった気もした。


 口を擦りながら空を見ると既に日が傾き始めており、今村は妹が帰って来る前に寿司を片付けないとな……と思いつつ家の中に入る。


 寿司をテーブルに置くと、制服を着替え、今日と言う日が暮れる中で彼は中学生を終えた。





 完結です。読了ありがとうございました。

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