24.人生相談?
「……どうかしら?これで私の部屋がいつもは整頓されているということが分かった?」
「そりゃ呼びに来てる時だし片付けもするだろうな~って思った。……あ、違うな間違えた。とっても綺麗だと思います。」
白崎の部屋に案内された今村はこれで何度目か忘れたが毎回毎回しつこいなぁと思いつつ促されるままにソファに座った。白崎は若干こめかみを引き攣らせているようだが今村は気にしないで用件を尋ねる。
「……用件がないと呼んじゃいけないのかしら?」
「別にいいけど用件もないのに俺を呼んだりしないだろうが。」
性急に切り出してくる今村に白崎はしばし思案した後にこう口にした。
「……友人って特に何もなくても遊ぶらしいわよ?」
「へぇ。で?まどろっこしいのは抜きにしようか。じゃねぇと俺は延々と別の話題を喋り続けるぞ?」
「例えば何かしら?」
白崎が少し挑発的な物言いをしてきたので今村は少しだけ考えて薄っすらと邪悪に笑って見せて言った。
「……そうだな。美人コンテストとか……」
今村の言葉に白崎は驚いたような顔をし、次いで今村の方に顔を寄せた。
「へぇ、今村くんでもそう言うことに興味ってあるのね……」
「俺でもって何だ?お前俺を何だと思ってやがる。全く……」
眉を寄せる今村に白崎は軽く謝罪を入れると話を促した。
「で、今村くんはどういう人がタイプなのかしら?」
「……?変な奴だな。美人コンテストって言ったら誰がどの人を選んで票を入れるのかの読み合いだろ。自分がどう思うかの実態の話より周囲の考えを読むことが重要視される。例えば1位になった人を選べば賞金が貰えるというコンテストにおいて白崎という人がコンテストに出ていて、投票者は皆蜂須賀となれば、俺がそこに行けば何の疑いもなく俺はおま……白崎に投票すれば金が貰え……」
「……もういいわ。あと、人の名前を勝手に使わないで。……というより何で中学生の日常会話でケインズの話が出るのよ……あなた頭大丈夫なの?」
白崎は呆れの表情を作って今村を見る。今村はいつも通り歪んだ笑みを浮かべて笑っていた。
「個人的にこの辺りの話を主題に色々つまみ食いして現代における資本と実体労働の乖離の話を書けば売れる気がする。」
「……あなたが書いても誰も見ないわよ。この話はここまででいいでしょ?」
「……勝手に決めんな。まぁいいが……そうだな。事象の地平面の話でもするとするか。」
「……?事象の地平面?」
白崎は今度の話題のことは知らなかったので首を傾げた。それに代わって今村は知らないならとばかりに説明する。
「……そうだな。蜂須賀という質量のある程度大きな星があるとして、」
「だから何でそこで蜂須賀君が……超新星爆発でも起こすの?」
相当嫌いなんだな……と今村は思ったがそれはさておきと続ける。
「まぁ起こしてもいい。その際、近くに白崎という物質があったとして、脱出宇宙速度が……要するに逃げられなくなる。そして近くに寄り添ってバーン!一緒になってブラックホールになっちまえ!」
「……怒るわよ?」
「その逃げられないという距離に存在する面が事象の地平面。まぁシュヴァルツシルト面って奴だな。」
「絶対に近付くなってことね。……あ、訊きたいんだけど。あなた仮に、もし仮によ?私と蜂須賀君が付き合うとなったら、どう思うの?」
「拍手喝采。」
端的に、すぐさま返した今村の返答に白崎の顔が曇った。それと同時に白崎は自分が何を思っていたのか分からずに眉を寄せ、その様子を見た今村が訝しげな顔をする。
「……どうかしたか?お祝いのレベルが足りないとか?」
「……それ以上言えば流石に本当に怒るわよ?ちょっと別件のことについてふと思い出しただけよ……」
白崎はそうとだけ伝えてこのことは今考えない方がいい、後で考えるべきだろうというどこからか聞こえてきた心の声に従い気持ちを切り替えた。
「ねぇ、訊きたいことがあるの。」
「答えられる範囲内なら答えるよ。」
「……あなたって、何で生きてるの?」
白崎から放たれた言葉に今村は思わず吹き出した。
「どうしてそんな悲惨な顔で生きてられるのかって?確かにアンタらの見た目からすればそう思うかもしれんが俺は別に生きててもいいと思ってるし……あぁ要するに馴れ馴れしくするなって?」
「ち、違うわ!違うわよ!そういうことじゃないわよ!何でそんな考えにすぐ行くの!?私は……そう、その、つまり、生きる目的とか、人生観とか……そういうことを訊きたいの!」
今村はそんなもん訊いてどうする気なんだ?と思ったが別段隠すことでもないので普通に答えた。
「適度に面白いことを巡りつつ最終的に死ぬほど面白いことに出合って死ぬために生きてる。それが何か?」
「……そうなの。具体的に、何をするかとかは……」
「時代に合った至極一般的な職に就いて普通に働いて普通に行動しながら情報収集して急に突拍子もないことをする。仕事は自由度が高めのもの。給料はそこまでいらんな。」
「それって具体的なの?」
今村は若干首を捻ったが頷いた。白崎は納得はいかないようだったが短く息を吐くと自嘲気味な笑顔を浮かべた。
「……何を考えているのかはよくわからない甘い考えだけど……いいわね。今村くんらしい気がするわ。」
「勝手に俺を語るな。」
白崎の言葉に真顔ですぐさま反論すると白崎は一言謝罪して続ける。
「……私は、自分って物を感じられないのよ。言われた通りに何でもこなして来てそれで、そこに私がいるのかって……」
「疑問に思ってんなら答えは既に決まってんじゃねぇか。で?何?」
今村の言葉に白崎は顔を上げた。今村は何でこいつこんなに俺を見てるんだろうと思いながら続ける。
「アイデンティティの拡散だろ?自我の萌芽じゃねぇか。いいことだ。周囲とは違う自分ってのを意識して自分が何者であるかってことを考える時期だ。」
「……ふっ……」
「何鼻で笑ってんだ?お前から切り出しといて。」
「いや……そうね。あぁ……何か、馬鹿らしくなって来たわ……ありがと。知識として知ってても自分に来ると、こんなモノね……」
「まぁ何か分からんが、困ったら言いな。お前が国に帰るまでなら相談位には乗るぞ。」
今村はもうそろそろ帰りたいなぁ……と思いながらそう言った。だがそこから白崎が色々と喋って来る。それら全てに答えていると帰る時間が大分遅くなった。
そして、今村が帰った後に白崎は口元を綻ばせて物思いに耽るのだった。




