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22.お誘い

 インターフォンが鳴った。


「あー頼んでたピザが来たんで……」

「……本当に頼んどったのか。お前は大物だな……まぁいい。奢ってやる。これだけあれば足りるだろ。」

「どーも。んじゃここまでで。頼んどきますよ。」

「そうだな……仕方ない。お前と話してれば行きたくもないパーティーをサボれたんだがっと冗談だ。怒るな。」

「まぁピザ取って来るんでちょっとここで待っておいてください。」


 今村はそう言って玄関の方へ貰った金を持って向かい、扉を開け……


「……何で?」

「パーティーに、来てくれるかしら?」

「嫌です。」


 予想外の人物が居たので扉を閉めようとしてドアの間に高そうな黒い革靴を捻じ込まれた。


「今村くん?招待状送ったわよね?参加証明書の返還がされてないってことは当然了承とみなしてるわよ?」

「見てない。俺今忙しい。」

「チワーッス。ピザーラキットです。」


 玄関先の攻防をしているとピザが届いた。配達員の人は玄関先に黒塗りの大きな車、それに見たこともない白髪の美少女を目の当たりにして混乱しつつも職務を果たす。


 今村は何かもう色々と面倒になって来たので玄関を開けて配達員に用意してあった金を出す。


「……釣りなしで準備してあるんで。」

「ハイちょーどッスねーありがとーございましたー。」

「……本気でピザ頼んでたの。」


 白崎が護衛の人を放っておき、勝手に玄関口へと侵入しているのを今村はもういいやと思いながらピザを居間に持っていくと居間には先程の客が携帯を弄っていた。


「……ん?」

「……人と会うっていうのも本当だったのね……」


 互いに気まずい状態のように思われるが今村は速攻で白崎にしか聞こえない声量で告げる。


「勝手に来たお前が悪いからな。話し合わせろよ?終わってお前が帰ったら誤魔化すから。」

「?わかったわ。」

「あー、入間んとこの子倅。それは?」


 客は白崎を指さして今村に尋ねる。今村は完全に嘘をつくモードに入っており横にいた白崎が見ても作っているようには見えない妙な焦りを見せた。


「あー……バレちゃったから言いますけど、俺の女です。じいちゃんには……というか、全体的に内緒の方向で。」

「っっ!か、彼の彼女の白崎です。」


 そんな今村の言葉に驚きつつも白崎は頬を朱に染めて何とか今村の嘘に乗っかった。途端に客はいやらしい笑みを浮かべる。


「はぁ~それが、お前のか。成程確かに美人だな……俺のモンにしたいくらいだ。こりゃ確かにウチの娘との縁談断るわけだ。……これが、理由だよな?」

「まぁ、そうですね。」


 念を押すかのような客の言葉に今村は全く表情を変えずに頷く。白崎は状況の整理やら情報の整理で忙しく頭を動かしているが彼女を差し置いて話は進んでいく。


「……ん?そう言えば見たことある……あぁ、今日のパーティーの主賓か。入間の子倅のコレなら俺も行っとかにゃあなるまい。全く、爺さんと違って手が早いなお前。俺にそっくりだ。ウチに来たらどうだ?」

「まぁまぁ……機会があればってことで。」

「機会なら作れや。……まぁいい。その子に飽きたらウチに連絡入れてくれりゃあいいことあるし、小遣いにもなる。じゃな坊主。」

「よろしくお願いしときます。」


 今村がそう言うとその男は今村の家の車庫に向かって歩き出し、黒塗りの胴の長い車に乗り込んだ。


「じゃ、入間によろしくな。」

「多分今日のパーティーにいると思いますけどね。」

「カッカ。お前からも言っとけってことだよ。出せ。」


 運転手にそう言って車を発進させると今村は車庫のシャッターを下ろす。白崎は今村に尋ねる。


「……さっきの人は?」

「爺ちゃんの知り合いだよ。この前あの人の飼い犬・・・に噛まれかけたからちょいとその話に来てた。」


 言いながら今村は居間に戻りピザの梱包を開ける。ウェットティッシュで手を拭うと2ピースをサンドして口に運ぼうとして白崎の視線に気付いた。


「あんだよ?喰いたいのか?」

「……ピザ。好きなの?」

「まぁまぁ。特段大好物ってわけじゃないが偶に無性に食べたくなる。」


 今村はチーズを伸ばすこともなく次々と食べて行く。


「それじゃ好きな食べ物って何?」

「……醤油と……」

「そうじゃないわ。料理でお願い。」

「……フォアグラ丼とか?伊勢海老のグラタンもいいし鮟肝も好きだな。スズキとかカワハギとかホッケの焼き魚、刺身類も好きだし牛も好きだし鳥も…」

「じゃあ嫌いな食べ物は?」


 今村が好きな食べ物であればかなり数を上げそうなのを見て取った白崎は別の話題にスライドさせる。


「……匂いのキツイ物。後、水を吸い過ぎて柔らかくなり過ぎた米。酸っぱいサラダのソース扱いで変な味付けされたヨーグルト。それに虫とか……」

「……食べるの?虫を?」


 白崎が引いているが今村は苦笑して否定する。


「まぁ今は食わんよ。食い物が無くてどうしようもない状態なら食べるが……あんまり食いたい物じゃない。キモいし。」

「……よね。」


 食べ物がなくなったら食べるのか…と思ったが白崎は流すことにした。そんな喋りながらの食事だがすぐに今村はピザを食べ終えた。そして白崎は切り出す。


「……それじゃ、食休みしたら来てくれるかしら?」

「……何時から?」

「3時間後よ。用意もしないといけないから食休みは今から30分間までにしてくれるかしら?」

「いや、先に行けよ。俺は遅れながらも行けたら行くから。」


 今村はウーロン茶を飲んで時計を見やりながら白崎に返答するが白崎はにっこりとどこか怖い笑みを浮かべて拒否した。


「……来ないでしょう?」

「いや、善処するって。かなり前向きに検討する。機会があれば行くよ。」

「それ、断りの文句よね?彼女・・に向かってそれはないんじゃない?」

「……あーそうだな。さっき言ったばかりなのにもう行かないとかな…まぁ言い様はいくらでもあるが……それにしてもお前ももうすぐ帰るのに卒業までの後2週間じっと潜んでるのも嫌だろうし……」


 今村は折れた。そこでふとなぜここまでするのか疑問に思うが態々訊くことでもないし、自意識過剰になるのもいけないと思考を斬り捨て、早速白崎の言う通りに少し休んでからパーティー会場へと向かうことにした。




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