21.遊園地終わり
「何してんだそこで?」
取り敢えず小野が居たベンチから離れた今村は茂みの裏に隠れていた白崎の下へと向かう。すると彼女は手を出した。
「……携帯。」
「あ、そっか。」
今村はすぐに納得して白崎に携帯電話を渡す。実際の白崎の本音は少し違うところにあったのだがそれは本人にも今村にも分かっていない。
「あ!今村!置いて行くなよ!」
「どこに居たんだ……?」
そんな感じで白崎に携帯電話を渡していると知った声が聞こえて来て茶髪と黒髪のイケメンがこちらに手を振りながらやって来た。今村はそれを見るやすぐに頭を働かせる。
(好機!)
「そうだな。美川あっちに傷心の小野がいるから行って慰めて来てくれ。」
「え?あ、何でだ?」
「色々あってな。」
今村は詳しい言及を避けて小野の下へと茶髪のイケメンこと美川を送り出す。そして次は白崎と蜂須賀を見た。
「あ、悪い。俺トイレに行って来るからちょっとじゃあね。」
「そう……ね。どこかしら?」
「あ、あっちに会ったと思う。」
付いて来る気満々の二人に内心表情を歪めつつ、特に蜂須賀は発言の裏も読めないとは馬鹿なのかと思うが今村は取り敢えず蜂須賀の案内に従ってトイレに移動した。
「よし、じゃあこの後は上手くやれよ?」
今村は男子トイレに入ってすぐそう言って蜂須賀を見ると蜂須賀は少し考えた後にようやく理解したらしく頷く。
「…………え?あ、そういう……」
「そういうことだ。じゃな。」
今村は蜂須賀と白崎を残して遊園地の中に戻って行った。
……と見せかけてすぐそこの茂みの裏に隠れて様子を窺い始める。
「クックック……さぁ、始めてもらおうか。出歯亀上等!」
しばらく待機していると白崎が出て来て蜂須賀と2、3会話をし、単独行動に移ろうとしているのが見えた。今村は舌打ちする。
「タコが……お膳立ては済んでるんだから真面目にやれや……」
まるでしつこい軟派の様に食い下がる蜂須賀を完全に眼中にないとばかりにあしらう白崎。二人きりであれば嫌でも意識するだろうと言った今村の考えは白崎には通じなかったようだ。
「ん~……どうしたものか……イケメンに限るっつーのも段階とレベルがっと。あいつこっちに来るな。逃げろ。」
溜息をつきながら適当にフラフラしている白崎を見て護衛代わりに蜂須賀付けろよ……と思いながら今村は退散して行った。
「……どこ行ってたのかしら?」
集合時間の少し前になって今村が集合場所へと移動するとそこには不機嫌な白崎が待っていた。その隣には蜂須賀がオロオロして立っている。
「ん~?いや、ちょっとそこまで。」
「はぁ……ここに入るときに言ったこと、覚えてるかしら?」
「んにゃ。覚えてないな。何だっけ?光より早い仮想粒子タキオンが存在するか否かについての議論だったっけ?」
思いっきり適当なことを言うと白崎は疲れたように手を額に当てた。
「…………もういいわ。」
「いや、待て思い出す……ドップラー効果は名前と意味の割に数式を知らない人が多いとか言ってた気が……」
「ドップラー効果とか一言も言ってないわよ。」
今村と白崎の話の内容が分からない蜂須賀が周囲を見ているとちょうど美川と小野がこちらに向かって来ている所だった。
「おー。美川楽しかったか?」
「まぁ、それなりに。」
美川は隣にいる小野をちらちら見ながら今村の問いに答えた。今村は内心でのニヤニヤ笑いが止まらないが表情には出さないように気を付けて全員に呼びかける。
「じゃ、帰るからその前にちょっと時間とろうか。こっからまたしばらくバスやら何やらに乗らないといけないし。集合時間ピッタリにまたここで。」
今村の言っている意味を理解した白崎はちょっと気になっていた小野を連れてトイレへと向かった。今村たちも男子用トイレへと向かう。
「はぁ。お前らなんか進展あったんだろうな?なかったとか言ったら……フフフフフ……」
「連絡先をもらった。」
今村の不気味な笑いを遮るように美川がどこか誇らしげにそう言ったので今村は蜂須賀の方を見て返事を促した。結果は知っているがこういうのは本人に言ってもらうべきだと思ったのだ。
「何も、なかった。寧ろ好感度が落ちた気がする……」
「蜂須賀は美川を見習ってどうやって教えてもらったのかテクニックを手早くご教授してもらえ。……まぁお前らは多分性格が違い過ぎるから役には立たんと思うが……」
でもまぁ美川は頑張っていたらしいので取り敢えず祝福しておいた。
一方その頃女子トイレでは白崎が小野と対峙していた。両者ともにトイレをする気は全くなさそうだ。
「……え……っと。白崎さん……あたしに何か……?」
白崎の美貌に射竦められた小野が愛想笑いを浮かべながら無言の白崎にそう言うと白崎は単刀直入に言った。
「あなた、よくそんなへらへらして今村くんの前に出られるわね。あれだけ酷いことを言って、本当は誤解だなんて……一度出た言葉は戻せないのよ?」
「……は?」
「しかも今村くんの高校まで知ってどうするつもりなのかしら?どうせくだらないことに使うつもりなんでしょう?」
小野は固まっていた。白崎の言い様では小野が今村に助けられた時に話していた内容を知っているかのような口振りである。だが小野にとってそれより大事なことがあった。
「く、くだらなくない……です。私にとっては大事なことで……それに、今村君は許してくれたから……」
「だから何?あなたに信用があると思うの?そうね、あまり時間もないし要件を言うわ。あなたの……」
白崎が言葉を続けようとするが小野が小さく何か言っているのに気付いて白崎は一度言葉を切った。
「……何かしら?言いたいことがあるのならはっきり言ってくれない?」
「く、くだらなくないです!私にとっては大事な初恋ですもん!こ、これから今村君が高校に行って、一緒に入学して、修学旅行で多分気付いてくれないから私から告白して一緒に大学受験の勉強頑張って……」
「ちょ、ちょっと?」
小野が暴走し始めたので白崎も混乱して怒気を霧散させてしまう。小野は興奮して顔を赤くしながら目を潤ませ早口で続ける。
「大学行って、多分今村君は頭いいからあたしとは別の大学になるかもしれないけどあたしも頑張って勉強して今村君が行く大学の近くの大学に行ってど、同棲とかしちゃって……それで、今村君が就職して3年目くらいになって落ち着き始めたのを見計らって入籍して初恋が実らないなんてジンクス無視して結婚して一緒に暮らすんです!」
一気に言い終わった小野を冷静に見て白崎は少し落ち着く間を与えたから言った。
「……それは、駄目よ。」
「何でですか!今村君が決めるならまだしも、何で白崎さんに決められるんですか!?付き合ってるとか言うんですか!?」
言い切った小野は興奮状態で白崎に食って掛かる。白崎は何故ダメと言ったのか自分でもわからないまま取り敢えず答える。
「つ、き合ってるわけじゃないけど……」
白崎のその態度で小野はもう気付いた。これはこのまま放っておくと自分の立場がマズイ。この人に勝てないのは自明の理。であれば……
「先手、必勝で……」
「な、何考えてるのかしら?言っておくけどあなた程度に負け……どこに行くつもり!?」
「告白して……先に取ってしまえば!頭と顔は敗けてるかもしれないけど胸は勝ってるもん!先に告白して2勝2敗のイーブン!」
「何言ってるの!?」
この後、白崎は帰りの席順などをダシに小野を説得してこの日は一応何事もなく一行は帰ることが出来た。




