17.遊園地到着
「乗り換え。出来るか?」
「……馬鹿にしてるのかしら?」
今村の質問にジト目を返す白崎。下手に美少女なので今村は人目を気にしてあまり近付かれない様に視線を逸らしながら話題も逸らす。
「いや一応心配をだな……なーんかこっから本当に護衛がいない……」
そんな話題にして思ったのだが実際に視線がゼロ。いや、目の前の白髪の美少女様や茶髪の美少女、黒髪及び茶髪のイケメン集団への感嘆の視線は大量にあるが、何か軟派な気配しか感じられないのだ。
「……白崎さんよぉ……本気で護衛なしなの?」
「言ったじゃない。」
「……死にたいの?あー……まぁ何か良く分からん理屈で何かこう……うん。まぁ護衛するよ……ただしこいつがな!」
今村はそう言って蜂須賀を前面に押し出した。それを見て白崎は少し思い出すように柳眉を寄せてから答えた。
「……今村くんにボディブロウされて一撃で沈む君じゃない……この人じゃ私の護衛には弱いわよ……」
初対面の自己紹介での失敗が後を引いているようだ。そんな白崎を納得させるように蜂須賀は「※」の行為に出るため、今村の所から更に一歩前に出て白崎の手を両手で包んだ。
「大丈夫。命に代えても守るから……ってぅえっ?」
「……私にも負けるじゃない……」
手を握って至近距離で目を見て話すという但しの行為に出たイケメンは次の瞬間守る宣言をした相手によって天地をひっくり返されていた。
「おぉ……小手返し。見事!」
今村がその鮮やかな手腕を褒めるが、少々場所は選んでもらいたいな……と次の瞬間には考え直す。その後ろで小野が悩んでいた。
(うぅ……今村君に接近しないと……でもあの人……白崎さんだっけ?あの人睨んで来て怖いし……二人きりになれないかなぁ……)
そう思いながら小野が今村の方をちらりと見ると白崎は今村の手を取って何かしていた。
「……って何だ?」
「ほら。今村くんは効かない……っ。あ、ご、ごめんなさい。」
何故か手を取られて投げかけられた今村。勿論今村は抵抗する。その上反射的に反撃に出るため逆に引き寄せた。勿論思い止まって拳は入れないが、体勢を崩した白崎は今村の胸の中に凭れ掛かる。
それを受け止めて白崎のいい香りが非常に近くに漂っている状態で今村は溜息をついた。
「……そういうイベントは……あっちだろ……」
「イベント?」
今村の小声は白崎にキチンと聞きとられている。何でだろうなぁ……?と思いはするものの白崎の所為でこの場所で目立ち過ぎたとは実感しているようで追及はせずに別の場所へと移動することになった。
「……今村くん……何か企んでないわよね?」
「企む?あ、電車来た。」
白崎は何となく様子がおかしい気がする今村をじっと見ていたが電車が来たことでそれを中止し、一行は電車に乗り込む。
対面式の4人掛け、ボックスの様な席のタイプだったので、今村はとりあえず空いている席に腰かけ、それに付いて行き当然と言った風に白崎がその隣に座る。
小野は白崎と今村を見て少々悩んだが、今村の前に来て残る席は後一つとなり蜂須賀と美川の間に何かが飛んで牽制が始まる。
蜂須賀と美川が何かを飛ばし合っている間に白崎と小野も……というより、白崎が一方的に何かを飛ばしていた。
今村はその辺を全て無視して我関せずと開発されて変わった景色を面白そうに眺めていたが、白崎がかなり寄ってきたことで状況に気付く。
「……え、何コレ。何してんの?」
「……空気が悪くなりそうだから今は黙っておくわ……」
「うぅ……」
女子の方は蛇と蛙状態になっており、何がどうなってこうなっているのか全く理解できなかった。
とりあえず、白崎が小野のことを嫌いという事は理解したが……
(……小野が向こうに行けばいいのに……そう言えばこいつ何で来たんだろ……?来ないだろうなと思ってたんだが……)
今村は目の前の小野を見て訝しげな顔をするが、彼の頭の中にある情報は美川の想い人、ついでに敵対可能性が比較的高いが、現在は無害な人というだけでそれ以外の情報はない。
要するに過去、正当防衛という名の何かでいつの間にか助けていたという事実は覚えていない。
(……ま、いっか。とりあえず何気に俺じゃなきゃ軽く傷つくこと結構言ってるし一応軽度の敵って位置だな。)
そう割り切ることにして今村は目的地まで今日、自宅で読んでいた本の中にもし自分がいたら……という何とも思春期らしいことを考えることにした。
「さて、着いた。こっからすぐのはず……」
「……今村くん。多分こっちよ?」
「あ、そう?」
今村は何となくで進もうとしたが白崎に案内されて楽な最短距離での移動を始めた。因みに今村は遊園地へと歩を進めていたが白崎は近くまでバスで行くルートを選んだという違いだ。
目的地まで蜂須賀は白崎に果敢に話し掛け、美川も小野に積極的に話し掛けるが女性陣は話題自体には乗るものの、そこまで積極的には話さない。
「……しつこいわ……薄っぺらい会話、あまり好きじゃないのだけど……」
「ごめん……」
蜂須賀は白崎の一言で斬り捨てられ、美川は小野が気を遣って話を膨らませるという残念状態に陥ってしまったところでバスは目的地に着き、大きな遊園地のシルエットが見えた。
「おぉ……思ってたより凄い。」
「……何で誘った側の今村くんが知らないのよ……調べたけど結構大きなところでフリーフォールとかジェットコースターとかお化け屋敷とか恐怖系のものが推しどころらしいわ。後は観覧車……」
(……何気に楽しみだったんじゃねぇかこいつ……?)
今村は先行して歩いていた後ろにすぐに追いついて来た白崎を見てそう思う。その奥で美川が小野と表面上仲良く話しているのを見て何だか微妙な顔になるが中に入れば仲良くなるはずだろうと適当なことを思いつつ、入場する。
「……えっと?中に入れば個人行動よね……」
「おう。じゃあな。」
「待ちなさい。」
軽く言ってすぐに外から見ていたジェットコースターの方に行こうとした今村の腕を白崎が掴む。
「……何?」
「集合時間とかいろいろ決める必要があるでしょう?何も言わずにどこに行こうとしてるのかしら?」
「……各自が……適宜で……解散!」
今村は適当な所で離脱する予定だったのでその辺はどうでもいい。が、周りにとっては当然どうでもはよくない。
「え、ちょ……それはちょっと……セミオープンの閉園時間は18時らしいから17時に集合にしない……?」
(……こいつも何気に楽しみだったっぽいな……成程、珍しい物に釣られて来たんだな。受験大丈夫かね。)
小野の提案を聞いて今村は食べ物メインで調べていた自分との差を知る。しかしまぁいいやと割り切ることにしてとりあえずその案を受け入れた。
「じゃー17時に入場門前に全員集合ね。今村くん行くわよ?」
「……何で俺がお前のお付きになってんの?俺は勝手に遊ぶよ?」
「じゃあ、私はそれに勝手について行くわ。何かあったら手を貸してくれないかしら?」
「……何かあれば……なぁ。何もないと思うけどなぁ……」
辺に抵抗すると怪しまれるであろう白崎の言葉を受けて今村は離れないのであれば集団でも別にいいかと目的地を変更した。
「……それで?どこに行くのかしら?」
「お化け屋敷~」
今村は明るいノリでそう言って先頭を切る。そして後ろにいるイケメン二人組とこの美少女二人組の面白いハプニングを期待することにしておどろおどろしい雰囲気を出している大きな建物目掛けて進みだした。