15.色々準備
―――もしもし?―――
「あいよ?あぁ、母さんか。」
―――あぁ仁?試験大丈夫そう?―――
食堂での一件が終わった翌日の夜。今村の家に電話が入ったので出るとそれは外国にいる母親からだった。
「ん?まぁ……一応ねぇ……」
―――それでさ、急に用事が入ってアレなんだけど、こっちの仕事で家族を呼ぶことになっててね?仁は試験でしょ?で……―――
「あ、その辺もう父さんがバラしてるからいいよ。旅行楽しんできてね。」
からっとした声音でそう告げておく。母親の声に動揺が広がった。
「あぁ大丈夫。気にしてない。……ただ、試験で緊張から解放されて疲れが出るのに飯まで作るのは何かなぁって気分になるよね?」
―――…呉羽に言って貰って。あんまり大金は駄目よ?―――
「おっけー。父さんに代わるよ。」
これで父親からと母親から金をとれた。と歪んだ喜びを感じる今村は父親を呼ぶと自室に戻って行った。
「……どうしよっかなぁ……そろそろ柿本を潰すか……いや、もっと溜めておくべきかな?つーかそれより試験が先だよなぁ……ん~でもアレだけの低能だと試験の時に乱入して来て受験とかを台無しにされるかもしれないな……まぁ俺の志望校とか教師以外知らんが……」
父親と母親には良い言い方をすれば任されており、悪く言えば完全に放っておかれている今村は両親に志望先を一応言ってはいるものの、両親はその学校のことを全く知らない。
因みに判断基準は学費のようだった。私立は難色を示されたが、奨学金関連で返還義務なしのモノを得られる可能性が非常に高いと分かるとそれにしてもよいと判断が下りた。
「……んーまぁとりあえずチケットを使わないとなぁ……誘うなら試験前の明日か明後日か……?」
イケメン二人は学校の推薦での合格が既に決まっているらしい。白崎は中学卒業と共に自国に帰るらしい。
「でもって美川の想い人は……んーどうでもいいなぁ……こっちはもう本当にどうでもいい……そもそもあの女は多分嫌いなタイプだし、乗り気になれんしな。」
それより国の事情で引き離される恋物語の方が今村的に面白くて好みだ。しかも絵面もよく燃える。
「やっぱ期限が迫ってるし実行に移すか。さてさて一応勉強しましょうか。」
勉強するとはいっても授業中一度も寝たことのない今村は対策の授業中もしっかり聞いているので特に困るような状況にはならないくらいの勉強はしていると思っている。
「まぁ足下掬われるのも嫌だし。」
ということでこの日は寝る前まで勉強をすることにした。
「よし、君ら頑張れ。口説くのは俺じゃ無理だ。自分でやれ。」
今村は翌日の朝彼らにチケットの存在を教え、誘う口実を作っておいた。それから先は全て本人たち任せだ。もとはと言えば好意と野次馬根性なのでそこまでする義理はない。
「ここまで本当にサンキュな。何かお礼するよ。」
「じゃ飯奢れ。」
即物的に答える今村。因みにイケメンさんたちの家は金持ちなので今村の要求はその日の夜と翌日の夜に凄いレベルで叶った。
それは今の所知る由もないので話を現在に戻す。イケメンズは散った。今村は面白そうな方……と言うよりも気になる方から追いかける。
つまり、某国のお姫様の方だ。まずクラスから知らなかったが、呼び出されると不機嫌そうにしていた。
(……あれ?何か嫌なことでもあったか?まぁいいや観察観察。)
白崎は食堂での一件の所為で色々言われており、ご機嫌斜めだった上、噂の渦中の人物が来て呼び出したのでイライラしているのだ。
空き教室で二人は対峙する。
蜂須賀に連れられて来た白崎は知らないことだが、今村は知っていた。その場所は告白スポットであることを。そこでいつか誰かの面白いものが見れたらいいなと思って知ってはいたが実際に見れるとあってテンションが鰻登りだ。
「ごめんね?急に呼び出して。」
「……はぁ……誤解されると嫌なんだけど……用件は何?」
今村の方からは白崎の顔は見えない。蜂須賀のムカつくくらいの爽やかな顔が見えるだけだ。
しかし、それが却って妄想を引き立てる。それを今、今村はとても楽しんでいた。
(さぁ始まりました。実況は私が、解説も私が行います。開始早々爽やか笑顔のジャブを繰り出しましたが白崎選手これをどう躱したのか。)
超ノリノリだ。蜂須賀は流石にドア付近でニヤニヤしている今村に気付くが、今村は素知らぬ顔をしている。
「ちょっと、中学校生活最後の思い出を作ろうってね。その……遊園地にでも行こうってなってて……」
「混んでるから嫌よ。」
今村はこんなこともあろうかとかんぺを出す。「セミオープン!」と。蜂須賀は僅かにこちらを見て足りない部分を補ってくれた。
(フフフフ……これを実生活で使う日が来るとは……)
因みにこれらのかんぺには最初から今村が必要だと思った「ボケて!」や「巻いて巻いて!」とか「黙れ!」とか使いそうなものを幾つか書いてある。
今日の為に他にも多様な文言が書かれたかんぺを準備しており、ポケットが重いが、基本的に今村は制服の中に得物を隠し持っているので重量などはあまり気にならない。
「セミオープンのだからさ。」
「……思い出作りといったわよね?誰が来るの?」
「えっと、俺と美川。それに今村と……小野さんは来れれば来る。」
ぴくりと白崎の柳眉が動いた。
「今村くん……それに小野さん……小野さんって昨日の食堂にいた人よね?」
「え、あぁうん……」
「……また変なことに……今村くんは何て言ってるのかしら?」
「とても楽しみだって……」
白崎の頭の中では知り合うきっかけになった呼び出しの日の今村の歪んだ笑顔でその台詞がリピートされた。
「……監視が必要ね。行くわ。」
「よかった。」
(爽やかに軍配が上がりました!変なこと呼ばわりされたり監視されるとか言ってたのが若干気になるが気にしないことに……やべこっち来る。)
今村は脱兎の如く逃げ出した。その後は別のスポットに行く。
(……分かりやすい……純情ボーイどもめ……さぁて第2試合と行きます!途中参加ながら解説実況を行いたいと思いますよ!)
「……あの、私、受験まだ終わってないんで……前期終わっても後期とかもありますし……」
「息抜きがてらにどうかなって思って皆で企画したんだけど……」
「……皆って誰ですか?」
(ここでこいつの土壇場の力が試されるな。事実を曲げずに必要部分だけ切り抜いて知らせる。どうせ中に入っちまえば消えてやるんだから……)
「今村と……」
(バカァ!確かに考えたの俺だけども!どう考えてもそいつは俺のこと嫌いだろうが!昨日の食堂の時お前いたよな!?脳味噌大丈夫か!?)
「あ、俺と蜂須賀だ。」
「……今村?」
(ほら引っ掛かってんじゃねぇか。ボケ!もういいや。)
今村はこの後を聞かずに勉強しに教室に帰ったその後少し話し合ってから小野は頷いて行くのに賛同する。
「……行きます。」
小野は千載一遇のチャンスだと思っていた。学校以外では接点がないのに学校では柿本がいるため近付き辛い。
しかし、セミオープンの遊園地であれば来れる人物にはかなり限りがある。柿本は来れないだろう。
(……謝ろう。じゃないと何も始まらない……始まる前に終わるなんて嫌だ……)
そんなことを考えながら週末、日曜日に彼・彼女らの戦いの場が設けられることになった。