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12.手当

「さぁて……じゃ、」


 解散するつもりで今村がそう言うと若干まだ距離を置いていた白崎がそれを遮った。


「その怪我、うちに来れば手当てするわよ。」

「いや、いい。帰る。」


 それを普通に拒否しようとして白崎に回り込まれる。


「行きましょ。私を巻き込んで少しでも悪いと思ってるなら私の家に来なさい。携帯を……「持ってない」……近くの公衆電話に向かいましょう。すぐに車も呼ぶわ。」

「……まぁ……いいけど。」


 何か巻き込んで悪いと思ってる奴への対応じゃねぇよなぁ……などと思いながら今村は流されることにした。





















「……ここよ。」

「はいはい。お邪魔しますよ。」


 案の定、白崎の家はもの凄い豪邸だった。しかし、今村は特に気にした風もなく普通に促されるままに入って行く。その姿を何となく嬉しく思いながら白崎は今村に言った。


「あなた……将来大物になるわよ……」

「別になりたかねぇな。面白ければコンビニのバイトで十分。まぁ親にキレられたから無理だが……」

「別に将来の就職先の希望がないならいいわよ。フェデラシオンの貴族院に連れて行くから。」

「……やたら押してくるけど何?ブラックで人がいないの?」

「詳しくは知らないけど貴族院自体は楽なんじゃない?一部はもの凄く忙しいみたいだけど……ここよ。」


 就職先の斡旋をされながら今村は部屋の一室に連れて行かれた。その光景に部屋を案内した白崎も固まり、今村はそんな白崎に気付かずに普通に訊いた。


「……お前の部屋?広いね。」

「……私の部屋だと思った理由を聞いても……?」

「スゲェ散らかってるから。」


 白崎は蟀谷こめかみを引くつかせつつも正解と告げた。


「……言っておくけど、いつもは綺麗なのよ?」

「HAHAHA。面白いジョークじゃないか。」


 口の端を引くつかせる白崎。白い歯が見えて見る人が見れば可愛いと言えないこともないだろう。


「……おそらく、私が誘拐されたから、手掛かり探しの為に部屋を探って、こんなことになってるのよ?」

「まぁどうでもいいや。……まぁでも流石に下着の類はしまっておいた方がいいと思う。」


 今村は白崎にそう告げた。その途端白崎の顔が真っ赤に染めあがり、今村の視線の先から盗られるといけないという理由で自身の部屋に収納されている下着を素早く目の届かないところに隠す。


「~っ!今村くん。あなた最低でも卒業までに私の部屋に10回アポなしで来なさい。」

「……遠い。」

「それなら私の車に乗りなさい!送迎するわ。」

「それに何の意味があるんだよ……面倒じゃんよ……」


 今村は血を流しながらテンションを落とし始めた。ついでにアドレナリンが切れてだんだん痛いな。と思い始める。


「……とにかく、このまま引き下がるのは何か嫌だから来るように。手当てするわよ。」


 白崎は棚の近くをごそごそし始めた。今村はやたら広いベッドに腰掛けようとして現在海水まみれなので汚したらダメか……と所在なさ気に部屋に突っ立っていた。


「……ん?日誌……?」


 そして今村は視線をなるべく下着が見えそうになっている体勢の白崎から外すために色々巡らせていると面白そうなものを視線に収める。


「……っ!」


 それもすぐに白崎が来て投げ捨てた。そして早口に捲くし立てる。


「あれは日々の日誌よ。貴族の嗜みで日々起きていることをメモをしているの。それに何が起きたか、約束事などのメモをしてるの。」

「へぇ。」


 実際は最近、今村との会話日記みたいになっている。仕方がないのだ。友人がいないから。それにこの国に来て学んでいることは別の研究ノートに書いているし。


「あー……見つからないなら帰るけど……」

「駄目よ。これじゃ私部屋が汚いという誤解をされるためだけにあなたをここに連れてきたことになるじゃない!」

「……へいへい。」


 何か色々どうでもよくなってきた今村。車の座席シーツは汚すしジャージでない今村の制服以外のあまり多くない私服も血塗れでなんか遣る瀬無いのだ。

 そして先程海水の影響を受けてなかなか止まらなかった血が止まった。だが、雑菌を流すためにまた水にさらすという。


「……何かなぁ……」

「あったわ。さ、シャワーに入って。海水でぐしょぐしょでしょ?」


(……なら部屋に入れる前に入れろ……まぁ言い出さなかった俺も俺だが……)


 その後、今村は嫌味なほどの金持ち思考のシャワールームに行ってシャワーを浴びた。







「上がったわね。」

「……お前もか。」


 何故かサイズぴったりのバスローブを身に着けて風呂場の前のホールのような所で待っていると同じような姿で白崎も出て来た。


「当たり前じゃない……というより今冷静になって考えると何で先に部屋に行こうとしたのかしら……」

「治療が頭の中で優先事項を占めてたんだろ……」

「……そういう事にしておくわ。」


 そして二人はまた部屋に戻った。


「はい。頭を下げなさい。」

「……何でお前が……」


 やってもらう立場なのでそれ以上は何も言わなかった。今村は慎ましいが一応ないわけでもないある部分が真ん前に来るように視線を固定されて頭を見せた。


「……あなたの頭凄いわね。凹んでもないし……ただ表皮が切れてるだけで済んでるみたいよ……」

「……医学の心得でもあんのか?」

「えぇ……」

「……禿げないか心配だな……」


 割と切実にそう考える今村だったが、白崎は面白かったらしい。体が震えていた。


「くっ……ふふ……そうなったら……大変ね……」

「おい、笑い事じゃねぇ。結構深刻な問題だ。別にお洒落とかそんなんはどうでもいいがこれは困るんだよ。」

「植毛技術が発展してることを祈りましょう?」


 今村はイラッと来たが黙って治療を受けることにした。白崎が近く、風呂上がりの良い香りが漂ってくる中無言で行われる治療に今村は耐え、そして治療が終わった。


「ふぅ……これで大丈夫だわ。」

「ありがとよ。」


 今村が顔を上げながら言うと白崎は大きく目を瞬かせた。


「何鳩がデザートイーグルの弾を目前1ミリに控えたような顔してんだ?」

「……それ死ぬ寸前の顔よね。じゃなくて…お礼を言われたから……」

「礼知らずじゃねぇしな。礼ぐらい言うさ。」


 今村は笑顔と言うには無理がある気がする歪んだ笑みを浮かべて言った。


「さて、じゃこの辺にして帰るわ。」

「……そうね。送るわ。」


 白崎は運転手(この前の人物とは違う)を呼んで今村を駅前まで(自転車でそこまで来ていたらしいので)送った。


「……それじゃ、また明日。」

「あいよ~」


 そして今村はいつもより力弱いものの自転車の出すスピードではない速度で消えていった。




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