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10.殆ど化物

「……で、あなたはヤクザに喧嘩を売って来たわけね?」

「その通り。」


 今村は下校時に何故か白崎に捕まっていた。曰く校内で話すのは止めておくことにしたが、虐め問題のその後の事が気になったらしい。


 そして事の顛末を聞いて白崎は大きな溜息をついていた。


「はぁ……今村くん。あなた自分がどれだけ厄介な相手に手を出したか分かってるの?この国……この地域のヤクザといったら私の国でも問題って知ってるほどのものよ?」

「確かに大問題だ。……まぁ過ぎたことは仕方ない。」

「仕方ないで済まされる問題じゃないわよ!……最悪、私の国で匿ってあげましょうか?」


 白崎は真顔でそう提案して来た。今村は軽く笑う。


「はは……本気で打つ手がなくなったら頼むかもな。」

「……そう。取り返しがつかなくなる前にするのよ?」

「はいはい。」


 下校中。今村は自転車―――ママチャリ―――で、白崎は車なのに並走して会話が成立していた。勿論車が自転車に合わせて遅めのスピードだったが、一応40キロは出ている。


「……ところで今村くん……下校の時のスピードっていつもそれ位なの……?」

「ん?……まぁ大体これ位じゃないかな……あんまり気にしたことないから知らんけど。飛ばしたら疲れるしね。」

「因みに少し急いでもらってもいいかしら?」

「いいけど……」


 今村は白崎の要望に応えて一応全力でこいでみる。白崎が車でそれを追わせたところ、ママチャリは時速70キロほど出ていた。


「……ほぼ化物じゃないの……」


 白崎がそう呟くころには今村は疲れたらしくこぐのをやめていた。それに車体が軋んでいるらしく少しずつブレーキをかけていた。


「……あぁ疲れた。」

「……言う割には息が上がってないけど……」

「ハンドルががたがた言い始めて怖いんだよ本気は……何か良く分からない小さいのがぶつかっても痛いし、何か轢きそうだし……」


 しばらく放って置いたが速度が落ち始めた所で今村はこぐのを再開した。


「……で、何の用?」

「用がないと話し掛けちゃ駄目なのかしら?」

「……いや別にいいけど……暇なの?」


 今村は友人がいないから。とは続けない。自身にも友人はいないが本を読んだり、ゲームをしたり、愛猫をもふったり……それに受験勉強したりと忙しいのだ。


「……暇……ね。」

「……貴様さっきからお嬢様になんて口をきいているんだ?」


 運転席の人物がいきなりキレ始めた。今村はよせばいいのに挑発する。


「そっちから声かけて来ておいて何だその言い方は……現在はお嬢様じゃなくて一学生相手に喋ってんだよ。黙って安全運転してろ若禿予備軍。」

「貴様……」

「前を向いて運転。ほら大事なお嬢様が事故に遭ったら大変だ!」

「……今村くん。挑発しないで……本当に事故に遭いそうだから……」


 もの凄い馬鹿にしてくる今村を相手にして目を血走らせて睨もうとしている運転手が目の前を疎かにしそうだったので今村を止める。


「へいへい。運転手事故しそうだって。日頃から行いが悪いんじゃね?気を付けた方がいいよ?」

「貴様ぁっ!」

「因みにそこの交差点警官が小遣い稼ぎに良く出没するから要注意だね。」


 点滅信号で一時停止を越しそうになっていた車を止める今村。今村自身は進んでいく。


(あんまりやりすぎると轢かれそうだし逃げるか。)


 そして今村は住宅路に逃げて行った。



















「……さて、勉強勉強……」


 今村は家に着くとそう言って寝転がると漫画を開いた。一応歴史ものなので完全に違うとは言えない。


「……ヤクザかぁ……もうちょっと準備がいるかなぁ……」


 本の中ほどまで読んだところで今村は上体を起こした。何度か読んだことのある長編ものの歴史漫画を閉じると今村は思案する。


「今の俺は完全に非力だからなぁ……今更ながら筋トレでも始めようか……?いや、明日戦闘とかなって筋肉痛とかなってたら面倒だし…」


 ぶつぶつ呟きながら部屋をうろつきまわる今村。別にヤクザを侮って柿本に喧嘩を売った訳ではない。最悪の事態の想定もきちんと行った上での行動だ。


(……まぁ柿本自身は馬鹿だし思いっきり侮ってるけどな。)


 誰に聞かせるという事もないことを自身の中で言って、今村は椅子に座った。


「あーねみぃ。そう言えば最近色々あって寝不足気味だなぁ……」


 本を読み、うろうろしてそして座っただけなのに眠気が体を襲ってきた。今村は欠伸を思いっきりすると今日の活動を諦めた。



















 そして翌朝、学校に言った今村は自身の机の中に紙が入っているのを見つけてその内容を見て顔を引き攣らせて笑った。


「おぅ……これは流石に予想外……」


 そしてすぐに柿本の方を見ると、彼女はしてやったりという表情を浮かべていた。


(こいつアホ極まりない……マジで馬鹿すぎる。一遍どころか百遍は死んだ方がいい。あまりにも馬鹿すぎて俺の予想を越すとは思ってなかった……)


 手紙の文は要約すると


 白崎の身柄を拘束した。人質の命が惜しかったら今夜、誰にも知らせることなく以下の所に来い。



 というものだ。


 白崎がフェデラシオンという別の国の偉い人物で、仮に傷つけたら国全体の外交問題になるという事を分かっていないのだろうかこの馬鹿は。流石にそれ位は分かっていて欲しかったところだし、第一人質のセレクトが微妙だ。

 あんまり仲良くない(今村の体感)。まぁ友人がいないから仕方ないという事もありそうだが……


(……これが救いようもない馬鹿だというのは別として、白崎は偉いくせに護衛も付けてなかったのか……?フェデラシオンも馬鹿なのか?)


 情報統制の下、あまりにも仰々しい護衛を付けると文化交流が出来ないというのは分かるが、いくら厄介な集団としても国賓が一介の町ヤクザ相手に負けて連れて行かれるということはどうなのか。


(……はぁ……とりあえず確認だな……)


 今村は中休みを利用して白崎が本当に来ていないかどうかを確認することにした。……が、その必要はなかった。


 学校側でも結構な問題になり、その日は臨時休校となったのだ。勿論表向きの理由は伏せられていたが、今村は唯一白崎と交流を持っていた人物としていろいろ話を聞かれた。


 帰り道では美川と蜂須賀に詰め寄られる。


「おい。何か知らないのか?」

「知らないって言えって。」


 誰も周囲にいないことを確認した今村はこっそり蜂須賀に事実を打ち明ける。手紙はそのまま置いて来た。


「んなっ!」

「大声出すな。誘拐犯は盗聴したがってるんだから…」

「分かった……それで俺に言ってくれた理由は……?」

「お前があいつのことを好きだから。とりあえず俺は助けるけどその後、嫌われる。そん時にお前がケアすればいいと思ってな。」


 今村は愉しげに笑った。それを見て蜂須賀がムッとした顔になる。


「お前、白崎さんに何かあったらどうするつもりなんだよ!」

「……はぁ、大声出すなって……白崎はある程度自分で何とかしてるはずだ。あいつは結構やる奴だし……それにあんまりにも馬鹿だったが、ヤクザを運営してる奴は流石にそこまでイカレてないだろ。もしイってたらとっくの昔にお縄だ。」


 周囲に全く目を向けられていないなら捕まっている。それは間違いない。


「……で、俺は何をすれば……」

「放って置け。これが終わってからお前の役目がある。」

「じゃあお前は一人で……」


 今村はその言葉には答えず、自転車のスピードを上げた。その足には付いて来れず、蜂須賀たちは置いて行かれ、今村は一人で進んでいく。


(……ま、最悪この国で2番目の武装集団の力を借りるけどな……)


 そんなことを思いながら……




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