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1.パイプ

 舞台はパラレルワールドの日本のようなもので携帯などが発達する前の一昔前のだと思っていただければ。あと、15歳で成人です。

「うるさい。」


 その瞬間教室は水を打ったように静かになった。元々授業中なんだから当然の事だろ……そんなことを彼、今村仁は思いつつ視線を後ろで騒いでいた生徒たちから前にいる教師の方に戻した。教師は一瞬ぽかんとしていたが授業を再開し、久し振りにまともな授業を受けることが出来た。









 まきヶ原中学校。今の季節は夏の始まり。蝉が五月蠅い。もの凄くうるさい。黙っていて欲しい。これ以上イライラさせないでくれると嬉しいんだが?帰宅中にそんなことを思っている主人公―――今村は今年で中学三年生になっていた。


 彼は中学三年生ということで普通の悩みとして進路を考えていた。


 彼が進路を考えた時、まず部活には入っておらず、推薦で高校に行くことはできなさそうだと判断し、必要以上に努力する気も全くない。そして友人もいない今村はこの学校から流れで多くの人間が行く汚い公立高校に行くという考えもなかった。


 その結果、一応親の命と学校の顔を立てるために公立高校を受けるが、私立高校の奨学金と入って成績優良者に金が入る所に行く気になり、彼は地元の三流高校を狙って中学三年生の春から真面目に授業を受けていたのだ。


(……全く……家で勉強する気はあんまりないから授業には集中して受験勉強らしきものはしておきたいのにねぇ……)


 彼が授業中、後ろの方でうるさくしていた同級生に注意したのはそんな理由があったからだった。


(やっぱり特待生狙うなら白水が一番多く取ってるしあそこかなぁ……でも黒木高校の方がランク上なんだよなぁ……)


 こんなことを考えながら少し寄り道をした後帰宅して、すぐに部屋に入って漫画を読む今村。両親は共働きで家にいない。家にいるのは今村本人と二歳年下の妹の呉羽くれはだけだ。


「兄ちゃん。ご飯。」

「ん。」


 今村は受験勉強中ということで中学一年生の妹に家事全般を任せている。


 酷いと思われるかもしれないが妹の方から申し出て来たのだから今村は気にしないことにしている。特に理由が彼氏に食べさせる前に料理のレベルアップとか言うのだからませガキに遠慮はなしだ。




 しばし無言の食事を済ませると食器は全自動食器洗いの中に入れてボタンを押しておく。そして今村は自室に帰るのだ。


「はぁ……今更こんなことやってもねぇ……」


 横になりながら数学の授業用ノートを捲り、そこにある解法と式をパラパラと眺めて勉強している態は保っておく。そして、もういいか。と思ったところで風呂に入り、歴史の暗記を少ししてから眠りについた。


















 翌日の朝。


 登校した今村の机には卑猥なものから侮蔑の言葉など落書きがびっしりとしてあった。


 仕方がないので今村は犯人と思わしき昨日五月蠅かった名前すらあやふやな誰かと席を交換する。周りの人がざわめいている中、今村はガン無視を決め込み新しい席に着く。そこに交換先の机の主が現れた。


「おい!今村ぁ!お前だろこの机!」

「……は?俺は机じゃないんだが……」


 来て早々喚く男を相手にすっとぼける。すると交換先の机の主は顔を真っ赤にして怒鳴った。


「見てたんだからな俺は!お前が俺の机とお前の机を交換するところ!」

「なら何で教室に入って来なかったんだ?」


 今村は至極当然の疑問を口にした。男は口籠ってしまう。


「そ……それは人が邪魔で!」

「そんなに混み合ってなかったと思うが?……まぁその辺はもういいや。そんな人が多くては入れないような状態で俺の事を見ていたんだな?……あれ?俺らってそんなに仲良かったっけ?」


 今村のとぼけた台詞にどこからか笑い声が聞こえる。その音に交換先の机の主は敏感に反応した。


「今笑った奴誰だぁ!?」


 怒鳴り声と今村の机を叩く音でクラスは静かになり、場が白けた。机の主は舌打ちして落書きまみれの椅子と机に座った。



 昼休み。今村が売店から帰って来て食事を終えて次の授業の準備をしようと机の中を漁っていると何かよくわからない紙切れに手が当たった。


(……手紙か……え~と?)


 購買で売っているピンク色の封筒に入った手紙を読んで今村は吹き出しそうになるのを抑えて内容を覚えた。


(放課後屋上のカギを外しているから屋上ね。確か……野球部のトンボがいい感じに壊れてたよな。)


 差出人の名前には白崎菫。北の国からの留学生で学校一の美人からのもので内容はラブレターだったようなので今村は頭の片隅にそんなことを考えて午後の授業を楽しく受けた。


















 そして放課後が来た。


 今村はにこにこしながら屋上に向かう中央階段に向かい、その途中で偶々白崎菫と出会う。この国で見たこともない見事な白髪。他の誰かと見間違えようがない美少女だ。


 ……だがまず見たことがなければ見間違えるとかそう言うレベルの話じゃない。そんな美少女は今村の屋上へと続く階段へと進むのを見て話しかけてきた。


「……あなた屋上に行くつもり?」

「……そうだけど?」


 急に見ず知らずの他人に声を掛けられて今村は折角楽しみな所なのに……と思いつつ歩を止める。そんな今村に対して美少女は頷いた。


「そう……ならあなたが今村くんね?」

「……え~と……どちら様で……?」

「白崎菫よ。言っておくけど私はあなたのこと好きじゃないから屋上に行っても無駄よ。」


 真正面からそう言って来る白崎に急に何を言ってるんだろうこの人と思いつつ今村は少し考えて昼間にあったラブレターの名前に使われてた人だと思い出してから頷いて言った。


「……あぁ、はい。じゃあそういうことで。」


 今村はそう言って屋上の階段へ向かう。白崎は一瞬目の前で何が起こったか分からなかったがすぐに我に返った。


「ちょ……ちょっと!人の話を……あなたでしょう?私の名前を勝手に使った悪戯のラブレターを貰ってゴミ箱に捨てたって言うB組の男子って!」


 何でそこまで知ってるんだろうと今村は思ったがあんまり気にしないことにして頷いた。


「あ~……まぁそうだけど……屋上には喧嘩をしに行くんだよ……受験勉強でストレス溜まってたから丁度良かったんだ……まぁ大丈夫。告白を受けるとか勘違いするほど自惚れてない。」


 そんな今村の返答に白崎は呆れたような顔になって答えた。


「分かってたの?……相手は4人よ?創作物じゃあるまいしあなたが勝てるわけないじゃない。あなた自分を客観的に見てみなさいよ。十分自惚れてるわよ?私の名前を使われて怪我をされると……」

「あーあー……他人ひとがどうなるか勝手に決めんなよ。とりあえず待ち合わせの時間に遅れるからじゃあね。」


 今村は煩わしそうに手紙の差出人のことを無視して屋上に上がった。




「お待ちどうさまっ!」


 到着と同時にズボンのポケットからいい感じに短いパイプを取り出してドアを開けた瞬間に腹に拳を入れようとしてきたガラの悪い男の側頭部を横薙ぎに殴りつけた。


 そして今村は呆気に取られた集団に対して笑いながら宣言しつつ動く。


「はいは~い……さあさあ皆さん。行きましょう!」


 今村は最も近くにいた男の腕を取ると関節を極めつつそのまま捻じって地面に叩きつける。男は肩を外して悶え苦しんだ。


「て……てめっ!」


 その光景を見てようやく我に返った残り二人のうちの一人が今村に襲い掛かって猛然としたタックルをしてくる。

 しかし、今村はそれを大した力も入れずに方向を逸らすことで自分の勢いで体勢を崩させると頭を持って膝蹴りで蟀谷こめかみを打ち抜き気絶させた。


 次いで残った男が今村の背後から逃げようとしたところにパイプを投げて動きを止める。そして振り向きざまに胸ぐらを掴みそのまま大外刈りで倒すと馬乗りになって胸骨を思いっきり拳で突いた。


 咳込む男に今村は唾が飛んできた顔を顰めて喉の横、頸動脈を圧迫して気絶させた。


 そこまで終わってちょっとだけ痛めつけた後に顔を目の前の男の服を剥いで拭い、今村はそれを適当に投げると手で汗をぬぐう動作をして立ち上がった。


「終ーわりっ!さて、事後処理。」


 今村は全員の服を脱がせて一人一人全体と顔のアップを昨日帰りがけに買った使い捨てカメラで撮って服を着せるともらった手紙の裏に



 全裸撮ったから。ばら撒かれたくなかったらみんなは階段から落ちたことにしておいてね~



 と書いてその場を後にした。




ありがとうございます!

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