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軍師は何でも知っている  作者: タンバ
第二部 王国再建編
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第五章 遊軍5

 砦の会議室。

 そこにパウレス将軍、ノックスの幹部、ソフィア、ソフィアの護衛隊、そして俺が居た。

 集まっている理由はソフィアが何故、追われていたのか。と言う事を聞く為だ。


「私が追われていた理由を話すには、今のアルビオンについて説明する必要があります」


 そう言ってソフィアは、簡単にアルビオンの状況を説明し始めた。

 ソフィアが言うには、アルビオンは今、二つに割れていると言う。戦争賛成派と反対派にだ。

 そして戦争を仕掛ける相手は、まぁ納得と言うか、やっぱりというか、ヴェリスだ。決め手はソフィアが襲われた事。これが国の上層部に居る過激派に火をつけた。

 ソフィアはほぼ軟禁に近い状況に置かれ、つい最近までは外にも出れなかったのだという。ようやく自由になれたと思ったら、今度はストラトスの話を、隠居していたソフィアの祖父から聞かされ、録に準備もせずに、ヴェリスで開かれているパーティーに出席すると言う名目でアルビオンから出たのだという。


「既にアルビオンの上層部にはストラトスに操られている者も多いと思われます。問題は、その方たちの言っている事に、国民の多くが賛同している点です」

「このままだと戦争か……クレイ。これから我々はどう動けばいい?」


 パウレス将軍が腕を組んで考え込み、すぐに思考を放棄して俺に聞いてくる。あまりの諦めの早さに思わず苦笑してしまう。


「そうですね。まず、戦争に国全体が傾いたとして、アルビオンは直接参戦せず、まずは三つの小国と戦う事になるでしょう。当分はこの三カ国の対応かと。ただ、アルビオンとヴェリスの直接の戦争は避けなければいけません」

「勝てないか?」

「勝っても負けても問題なんです。この大陸は菱形のような形をしていて、その中央にアルビオンはあります」


 俺の視線の先に画面が浮かび上がり、大陸の全体図が出てくる。少しいびつな菱形の南側に、ヴェリスはあり、大陸中央への道を三つの小国とアルビオンによって塞がれている。それはヴェリスだけでなく、菱形の尖った四つの部分にはそれぞれ大国があるが、全てが中央に陣取るアルビオンよって大陸中央への道を閉ざされている。

 大陸五大国。ヴェリスやアルビオンも名を連ねるこの五つは、微妙なバランスで大陸に君臨している。そして、そのバランスを司っているのがアルビオンだ。


「この中央にあるアルビオンは、他の四大国にとって、邪魔で仕方ない蓋であると同時に、他の国からの攻撃を遮る盾です。そして、アルビオンはそれを理解していて、自らの魔術の力を誇る事はあっても、積極的な軍事活動に出る事はありませんでした」

「はい。ユキトが言うように、アルビオンは自らの動きが大陸に大きく影響を与える事を理解していて、これまで慎重に動いてきました」


 四つの大国には使者を出し、友好を深め、魔術を発展させ、自らの力を高めてきた。だからヴェリスも含めて、四つの大国はアルビオンには手を出せなかった。

 アルビオンとの戦いに勝とうが負けようが、自分たちが最終的に敗北するのを知っていたからだ。アルビオンに挑めば、どっちに転んでも多大な損害を受ける。アルビオンを滅ぼし、征服しても弱った所を攻められ、アルビオンに負けても、弱ったアルビオンが他国に侵略される。

 自国の利にならないから、決して自分からは動かない。それが五大国に共通していたモノだった。けれど、動いた国があった。


「ヴェリスは侵攻の口実をアルビオンに与えた。そして、それに拍車を掛けている奴がいる」


 一人はストラトスなのは間違いない。あいつが暗躍しているから、慎重なアルビオンは動き始めた。そしてもう一人、大陸統一の野望を燃やして、その為ならどれだけ犠牲が出ても構わない奴がいる。


「ヴェリス宰相ベイド・ファーン。この砦への命令書を見たら、あいつが全て関わっていた。わざと国境守備を薄くして、あいつは小国とアルビオンが攻めてくるように仕向けたたんだ。そして、自国に来ている親ヴェリスの有力者を殺し、戦争に持ち込む気だったんだろう」


 完全な憶測ではあるけれど、まぁそんなに外れてはいないだろう。今回、使者を招いたのはディオ様で、来ているのはディオ様と繋がりの強い人が多い。使者を殺害できればディオ様の力を削ぐことも出来る。

 ストラトスはストラトスで厄介だが、自国を戦争に持ち込もうと動くベイドも厄介だ。恐らく、あいつが狙っているのは。


「アルビオンとヴェリスが膠着状態になれば、他の大国も参加し始めるでしょう。そうしたら、大陸中の国を巻き込んだ世界大戦が起こります。だから、俺たちはアルビオンと戦う事を避けなきゃいけないんです」


 そこまで説明し、俺はソフィアを見る。

 申し訳ないが、今、一番の問題はソフィアだ。ソフィアの影響力は強い。恐らく、戦争反対を大々的に告げれば、国民、軍人、文官問わず、反戦に回る者が続出するだろう。だから軟禁されており、だから外に逃がされた。外からアルビオンを止める為に、中からどれだけ叫んでも、言葉を歪められかねないからだろう。

 だが、ヴェリスに来たのは問題だ。ソフィアがヴェリスからアルビオンの行いを非難すれば、ソフィアは攫われたとか、脅されているとか理由をつけられ、言葉が届かない可能性が高い。

 そして、ソフィア救出と言う名目をアルビオンに与えてしまう。最悪なのはこれだ。ソフィアはアルビオンだけでなく、魔術師全体に影響がある。ソフィアが攫われたと言うのを信じ、アルビオンに付く魔術師が大勢出てくるだろう。勿論、ヴェリスからも。

 内乱の際に、先王のソフィア襲撃を受けて、ディオ様の軍に多くの魔術師が参加したように、今度は敵に回る確率はかなり高いと言わざるをえない。


「まず、しなければいけないのは時間稼ぎです。パウレス将軍。かなりの負担を掛けるかもしれません」

「構わん。この国の為なら幾らでも戦おう。何をすればいい?」

「国境で持ちこたえてください。ここで幾ら議論しても、ヴェリスの行動を決定する事はできません。俺はソフィアを連れて王都に向かいます。そして、これからの対応について進言します。それには時間が必要です」

「ふっ、任せておけ。ただ耐えるだけなら問題ない。全て跳ね返してやる」


 不敵な笑みを浮かべるパウレス将軍に俺は一つ頷き、ソフィアを見る。


「もしかしたら……かなり嫌な思いをするかもしれないけれど……必ず守るし、助けるから、一緒に王都まで来てくれないかな?」

「あの時もユキトはそう言って守ってくれました。私はユキトを信じます。良いですか? ラーグ隊長」

「構いません。いざとなれば我々がソフィア様を守りますので。但し、クレイ。もしもそんな事になったら……分かっているな?」


 護衛隊がソフィアを守らなきゃならなきゃいけない事態と言うのは、それこそソフィアが命を狙われるとか、脅されるとかしなきゃないだろう。そして、そうなったら、ラーグ隊長は俺に容赦はしないだろう。だが、それなら心配いらない。


「ご心配なく。例え何が起ころうとソフィアは守ってみせますので。それじゃあ、ノックスは王都に戻る。パウレス将軍。申し訳ありませんが、しばらくご辛抱を」

「ああ。ここは任せておけ。お前はお前の戦いをしてこい」


 パウレス将軍が強めに俺の背中を叩く。かなり痛い。咳き込みそうになるが、それを堪え、俺はパウレス将軍の背中を叩き返す。鎧をつけてないが、筋肉のせいであんまり効果はなかったようだが、こっちの思いは伝わったらしい。

 ニヤリと笑ったパウレス将軍はソフィアに一礼し、その場をあとにした。既にレドニアから新たな軍がこちらに向かっている。時間は無い。パウレス将軍も俺も、そしてヴェリスにも。


「すぐに俺たちも出発だ」




■■■




 国境の砦には続々と増援が集まっている。突破された場合に備えて、もう一つ手前の砦に入っていた兵士たちだ。

 兵力、兵数共に問題はない。並の相手ならば。

 アルビオンから魔術師が派遣された程度ならどうにかなるだろう。だが、アルビオンから将軍あたりが派遣されてきたら、拙い事になるだろう。

 そんな事を思い、砦を離れたのが三日前。レンからの報告もそれほどなく、問題なくソフィアを連れた俺たちは王都にたどり着いた。

 通常ならば王都の中に部隊は入れない。だが、ソフィアにもしもの事があった場合を想定して、俺は独立部隊であり、命令出来るのはカグヤ様だけである事を盾にして、王都にノックスを入れた。

 かなり強引で後で問題になるかもしれないが、兵力がなければソフィアを逃がす事はできない。最悪、海路を使ってソフィアは他国に逃がす。そうするにはやっぱり兵力が必要なのだ。


「ソフィア様を保護したあとに、色々と好き勝手動くために独立部隊の権限を欲しがったんだね。ちょっとびっくりだよ」


 俺を出迎えたディオ様は開口一番にそう言って、笑顔を見せた。

 そんなディオ様に俺は素直に頭を下げる。裏切るつもりは毛頭なかったが、それでもソフィアを守る為に、独自の戦力が必要だと考えていたのは事実であり、その胸の内をディオ様にも話してはいなかった。


「申し訳ありません」

「いいさ。お互い様だしね。さて、ソフィア様。お久しぶりです」


 馬車から下りてきたソフィアにディオ様はそう言って微笑み掛ける。


「ディオルード様。お久しぶりです。受け入れてくださった事、感謝いたします」

「まだそのお礼は早いかと。それは今から王城の最上階で話し合いますから」


 隠さずにそうディオ様は告げるが、ソフィアは気にしてないのか、それではまた後ほど言う事にしましょう。と言って返す。

 ソフィアは俺を信頼してくれているのか、それともディオ様やカグヤ様を信頼しているのかわからないが、全く動じていない。

 これから起こる一番高い可能性の出来事は、アルビオンと似たような待遇を受けると言うモノだろう。そして、ヴェリスの都合の良い発言をヴェリスの都合の良い時に言わされる。

 それをすれば恐らく、少しは戦争の激化は免れるだろう。本当にわずかだろうけれど。だが、それにソフィアが満足するとは思えない。ソフィアはたぶん、周りの考えとか意思を別として、本気で戦争を止めに来ている。


「ユキト。カグヤ様はお優しい方ですか?」


 唐突にソフィアがそう聞いてくる。ディオ様の手前、下手な事は言えないのだけど。まぁその質問なら正直に答えても大丈夫か。


「愚かなほどにお優しいですよ」

「ふふ。もしかして負けた事を根に持っているのですか? 少し言葉が厳しいですよ?」

「そんな事はないと思うけどなぁ……」


 確かに負けたけど、俺はそれを根に持ってはいないと思う。強いていうなら、俺の中にある、あの人ならこれくらいできるだろうっていうラインが、カグヤ様の場合は結構高い。勿論、ステータスを見ての判断だけれども。


「でも、それなら安心です。お優しい方と仲良くなるのは得意なんです」

「待ってください。未だにディオと呼んでいただけないのは、僕が優しくないからですか?」


 前を歩いていたディオ様が驚愕の表情を浮かべて振り返り、そう言った。ディオ様は何度か、ディオと呼んでくれませんかと頼んでいる。それをソフィアは全て断っている。


「ディオルード様をそうお呼びする事は一生ないかと」

「何故ですか!?」

「ユキトを戦場に連れて行きました。これは絶対に許しません」


 ソフィアはそう言ってディオ様からプイっと顔を逸らす。

 ガーンと言う効果音が付きそうなほど、ディオ様は目に見えて落ち込んだ。いや、両手と両膝をつけているから、恐らく目に見えている以上に落ち込んでいる筈だ。


「ユキト。私の願いは平和、平穏。ただ静かに、ゆっくり大切な人たちと過ごしたいです」

「俺も、似たようなモノだよ。ゆっくり寝て、本を読んで、のんびり……大切な人たちと過ごしたい。理想は、ユーレン伯爵の城での生活なんだけどね」


 そう言って俺は少し照れ笑いを浮かべる。流石にちょっと恥ずかしい。

 だが、ソフィアはその言葉に満足したのか、満面の笑みを浮かべている。


「なら、私は願います。平和を。だから、ユキトが叶えてください。私の願いを形にしてください」


 そう言ってソフィアは従者に持たせていた青い肩掛けを華麗に羽織る。

 それがスイッチだったのだろう。視線が変わった。一度、見た事ある視線だ。

 村を人質に取られた時に見せたモノだ。


「ディオルード・アークライト殿下、ユキト・クレイ総隊長。これより疾風(ヴェントゥス・プロッケロースス)のソフィア・リーズベルクが、ヴェリスの国王、カグヤ・ハルベルト陛下に謁見を申込みます。ご案内してくれますか?」


 ストラトスの支配から抜け出したカグヤ様を見た時にも思ったが、狸に化かされた気分だ。

 しかし、どうして女の子はこうも簡単に自分を切り替えられるのだろうか。まぁカグヤ様はちょっと違うんだけど。

 不思議だ。

 俺は優雅に笑みを浮かべて礼をするソフィアを見て、心の底からそう思った。


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