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軍師は何でも知っている  作者: タンバ
第一部 内乱編
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第二章 姉弟4

 流石に早いな。ハルパー城とカノン城の間は馬で駆ければ二刻、つまり四時間くらいだ。

 だが、ディオ様が倒れたのは昨日の昼だ。どれだけ優れた情報網を持っているかは知らないが、伝え聞いたのは昨日の夜頃だろう。

 それで朝には軍を率いてやってきたという事は、とんでもない早さで決断し、行動したという事だ。

 神速とディオ様は例えたが、確かにそれだけのモノはある。とは言え、予想していた俺としてはそこまで驚きはない。まぁ俺は、だが。

 部屋の外からは慌ただしく走る音や怒号が聞こえてくる。早朝故に多くの者が事態に対応出来ていない。ここは時間稼ぎが必要だ。奇襲されたら堪らない。いくら堅城のハルパー城とはいえ、兵が混乱していては録に抵抗はできない。

 そこまで考えて、俺は目の前にある上質な黒い布で作られた長いコートを見る。ディオ様が作ったものだ。これを着て欲しいと俺はディオ様に言われた。背格好が俺と大して変わらないディオ様の服は、当然、俺も着れる。丈の長いコートなら尚更だ。

 問題は、黒い小袖に、同じく黒い馬乗り袴の上に黒いコートを羽織って、違和感がないだろうかという点だ。色はディオ様の提案で、一層、全て黒にしようと言って、それしか用意してくれなかった。似合う、似合わない別にして。おかげで俺はとても悩んでいた。

 とは言っても、羽織はディオ様に没収されてしまい、全てが終わったら必ず返すように言われて、俺はこの黒いコートを渡されている。上に着る物はこれしかないし、着ない訳にもいかない。


「クレイ殿! 起きていらっしゃいますか!?」

「入っていいよ」


 慌てた様子で入ってきたミカーナを尻目に、俺は黒いコートを羽織る。袖は通らないので、マントのような着方だ。

 全身黒一色。さぞや目を引くだろう。しかもごちゃまぜな服装だ。


「目立つかな?」

「指揮官が変わった服装や色を使うのは……目立つためです。その点で言えば、問題なく目立つかと思います」

「ありがとう。じゃあ行こうか。まずは挨拶をしないとだからね」




■■■




 ミカーナを伴って、俺はカグヤ様の軍が現れた正面の城壁に登った。

 多くの兵が集まっているが、部隊長以上の人間は見受けられない。奇襲を受けていたら本当に拙い事になっていたが、カグヤ様の軍はある程度の距離まで近づいた段階で停止している。


「普通に矢を射って届く?」

「届かないかと。普通の弓兵では」

「じゃあ質問を変えるよ。ミカーナは届く?」

「届かせるのは問題ありません。当てたり、射抜けと言われると難しいですが」


 なるほど。それらを考慮した距離か。向こうにも手練の弓兵がいるのか、ただ単に経験からわかるのか。それとも違う意図があるのか。

 ただの距離だが、自分より間違いなく上手の相手なだけに考えてしまう。相手にとっては大した事はなくても、こちらは悩み、考え、そして思考力を落としていく。知恵比べで負ける時はそう言う時だ。

 チェスや将棋でも相手の次の手を読み、自分の手を考え、そうしたら次はどう出てくるかと言う事を考えれる奴は強い。この読み合いに勝つ事が出来れば、チェスや将棋で負ける事はないだろう。究極的にはミスをしないようにするゲームだ。

 だが、ここは戦場で、戦争はゲームじゃない。不確定要素、チェスや将棋で言うなら、台がひっくり返るようなとんでもない事態も起きうるし、駒として扱う兵が上手く動かない事もある。また、敵の駒、兵たちが思ったよりも力を発揮する事もある。だからかなり勝算が無い限り、戦うべきではないのだ。

 もう一つ不安があるとすれば、俺の力量だ。チェスや将棋はどれだけ頭が良い人間でも負ける存在がいる。それは経験者だ。経験は何物にも勝る武器だ。一朝一夕では埋められない。

 それで俺はカグヤ様に初心者とトッププロ並の差を付けられている。この点で言えば、俺に勝ち目はない。トッププロにまぐれで勝つ初心者など居ない。なにせ、上の人間ほど油断はしない。油断が足元をすくう事も経験で知っているからだ。


「クレイ殿? 凄い汗が出ていますよ?」

「俺は今からあれと戦うのかと思うと、汗も出るさ。冷や汗だけどね」

「珍しいですね。何でも知っているのに冷や汗ですか? 一応伝えておきますが、縦に三列。百人規模の大隊が前列に二十。後方に上がる旗が前と同じと考えて、二列目、三列目に同じく二十。合計六十、つまり六千です。あれだけ整然と並んでくれると数えるのが楽ですね」

「知っていて、備えていても、俺は所詮俺だからね。小心者は変わらないんだよ。それにしても、こっちは総勢一万。城攻めに来たにしては少ないね?」


 俺の言葉を聞いて、ミカーナは額に手を当ててため息を吐く。

 それが何に対してのため息なのか、一応は見当はついたが、敢えて肩を竦めて、何?と問いかけてみる。


「何でも知っている事は否定しないんですね……」

「一応、それが俺の武器だからね。知識量は間違いなく多いよ。問題はそれを一人じゃ扱いきれないから、他人を使わなきゃいけないって所かな。所詮、俺の能力なんて良いとこ並だしね」

「そういう割には、一人で何もかもやっている印象を受けている私は間違ってますか?」

「間違ってないんじゃない? 普通に生きてたら、知識があれば大体のことはどうにかなるさ。だから一人でやる。けど、戦場じゃそうもいかない。頼りにしてるよ。ミカーナ部隊長」

「都合の良い人ですね。ですが、頼られるのは悪い気はしません」


 そう言って笑みを浮かべたミカーナに笑みを返しつつ、俺は目を瞑ってゆっくり思考する。

 城攻めをする際は、二つの選択肢がある。

 短期戦と長期戦だ。

 短期戦で取れる戦術は、圧倒的な大軍を動員した上で、城兵の生命や安全な退去を保証したり、様々な条件を示し開城交渉を行う、所謂兵糧攻め。

 それか。

 大規模な会戦、また戦争の節目の前に戦略的優位を占めるために、要衝の城を戦力の損耗を覚悟の上で強攻するか、だ。その他としては、敵が警戒していない時に奇襲をかけて城の内部に侵入し、城に籠る守勢側の優位性を奪うと言う事も有り得る。

 長期戦で取れる戦術はまず、補給路・交通路などを確保し防御設備を築いた上での、城の包囲。その次に攻城兵器、火矢を使っての城及び兵の攻撃。

 謀略的な面から行けば、開城交渉や調略を行いながら、心理的な圧力をかける事も有り得る。基本的には全てを行い、十分、弱まったと判断したら総攻撃をかける、あるいは敵が食糧不足になるのを待つのが長期戦だ。

 城攻めでは大体は長期戦になる。相手の数倍の戦力をもって、城を包囲し外界との接触を遮断する。これにより水や食料などの備蓄物資の枯渇を図ると共に、情報を遮断することができ、正確な状況判断を困難にさせ、絶望感を与え士気を低下させる事が可能になるのだ。

 メリットが長期戦の方がありそうだが、攻撃側の損耗は最小で済むが、時間がかかりすぎる。篭城側と同様に攻城側も食料補給が求められるし、城内からの奇襲に対する備えだけでなく、敵の援軍に備えて、周囲警戒の厳重さも求められる。

 どちらも簡単ではない。だから、孫子では、防御に徹する守備側を攻略することは容易ではなく、攻城は下策で最も避けるべきと言及されている。 

 カグヤ様は大兵力を連れてくる訳でもなく、奇襲を用いてもこなかった。では、何をしに来たのか。

 これは簡単だろう。


「一騎、こちらに来ます」

「降伏勧告か、それとも交渉の使者か……どっちにしてもこっちの混乱には拍車が掛かるね」

「悠長に言ってる場合ですか? 最高責任者はあなたですよ?」

「まぁ、何も考えてない訳じゃないから、安心してよ」


 そう言いつつ、俺は前に出て、城壁の一番端に向かい、胸の高さほどの塀に登る。

 黒一色の奇特な格好をした男が塀に登ったのだ。さぞや目立つだろう。目立つためにやっているのだが。


「そこで止まっていただこう! ご要件を!」

「将軍補佐役のアンナ・ディードリッヒだ! そちらと交渉の席を設けたい!」


 肩口で切りそろえた栗色の髪が馬上で揺れる。遠目故に顔の細部は分からないが、器量よしといって良い女性な気がする。問題はそこじゃない。俺の目の前に浮かび上がった画面に映し出された数値だ。

 軒並み八十後半だ。九十代もある。まいったな、ディオ様並だ。万能の補佐役と聞いていたが、こっちのどの将軍より数値だけ見れば優れてる。


「交渉の席につかぬと言ったら?」

「……貴殿は何者だ?」

「ユキト・クレイ。ディオルード殿下の軍師を務めている者です!」

「なるほど。貴様が噂の軍師か。して、返答は?」

「どんな噂かは知りませぬな。まぁ答えは返しておきましょう。交渉につく気はありません」


 どよめきが、城から上がった。既に城壁には多くの兵が集まり始めている。多くの兵が今の俺の言葉を聞いたのだ。そしてどよめいた。ディオ様が倒れた今、多くの兵がこの戦に勝ち目がなくなりつつある事を感じていると言う事だろう。

 だから交渉は望む所の筈だが、俺の役目はカグヤ様を引き付ける事。この城に残る人たち、全てに土下座しても足らないが、俺はこのまま戦闘に持ち込ませてもらう。

 人死も人殺しも、ましてや戦争なんて冗談じゃない。殺される可能性も、親しい人が死ぬ可能性もある。それなのにする意味があるのか迷ってしまう。いや、ずっと迷ってきた。俺はまだ戦争の恐ろしさを知らない。死の恐怖は知っていても、人を殺す恐怖、他者が死ぬ恐怖は知らない。それらに耐えながら行うのが戦争だ。

 けれど、譲れない。多くの何かを犠牲にしても、成し遂げたい事がある友が居て、その友の一世一代の大勝負は俺に掛かってる。ディオ様は俺に賭けたんだ。怖気づく訳にはいかない。

 それに、この後は約束がある。役目を果たし、手柄をあげなければ会う事もできないんだ。

 ユーレン伯爵の城で三人で昼食を取った時。あの時が一番幸せだった。俺はもう一度、三人で集まる機会を作るんだ。


「交渉を固辞する理由は何だ?」

「交渉に応じて、暗殺されては堪らないからだ」


 俺は出来るだけ挑発的な笑みを浮かべる。ただ、そんな必要はないほど、向こうは俺の誘いに乗ってきた。


「我らはそのような卑怯な真似はしない!」

「あの王の下にいる者たちを信用できるか! 至上の乙女を奪わんがために自国の村を人質に取るような者たちが居た! 彼らが仰ぐ王と、貴様たちが仰ぐ王は同じ人物だ! 我々はディオルード殿下の下、この国に秩序と平和をもたらすために戦っている! 誰かが理不尽に泣かぬように! この国にも頼るべき光があるのだと! 多くの虐げられた者たちのために戦っている! それを反乱と呼び、邪魔をする貴様らを……カグヤ・ハルベルトを、俺は信用などしない!!」

「貴様ぁ……!」


 よく分からないが、さぞや憎悪に満ちた目で俺は睨まれている事だろう。アンナ・ディードリッヒにも、俺の声が届いたであろう前衛部隊の兵たちにも。

 これは戦闘になったら確実に狙われるだろうけど、そうしてもらった方が助かる。助かるなら、もっとやっておくべきだろう。


「ミカーナ。ディオルード殿下って叫ぶ用意をさせて、出来るだけ大勢に」

「はい、わかりました」

「ユキト・クレイ! 我が主への無礼は許さん! 猟犬どもと我々は別だ!」

「今、この時! 分かれるべき勢力は二つのみ! 我々は誇りを持って戦うディオルード殿下の臣下だ! 我々は誇りを胸に、誰にも恥じる事なく! 敬愛する主君の名を叫べる!! ハルパー城に居る全ての者たちに聞く! 諸君らの主の名は何だ!?」

「ディオルード殿下!!」


 俺の周り、ミカーナが声を掛けた者たちが大声を上げる。最初は小さくてもいい。上げるべき内容が周りに伝わりさえすれば。


「この国を救おうとしているのは!?」

「ディオルード殿下!!」


 次は城壁に登っている兵たちが大声を出した。既に体が震えるくらいの声だ。だが、まだこんなもんじゃない。


「諸君らが剣を捧げたのは!?」

「ディオルード殿下!!」

「誇り高きヴェリスを取り戻さんとするのは!?」

「ディオルード殿下!!」

「かの王を打倒せんとするのは!?」

「ディオルード殿下!!」

「もう一度聞こう! 諸君らの主の名は!?」

「ディオルード殿下!!」


 一万の声が一つになる。武器で床や鎧を叩く者、武器を高く掲げる者、近くにあったディオ様の軍旗、小さな星が大きな星を形成する五星旗を大きく振る者、拳を掲げる者。共通するのは皆が声を上げている事だ。

 しばらくの後、ようやく落ち着いたハルパー城を見て、俺は告げる。


「我らは叫べる。自らが、主君が正しいのだと。だが、貴様らは叫べまい! 自らの主君が正しいと思うならば!!」


 俺の狙いに気づいたのだろう。アンナが馬を翻す。だが、声の方が速い。


「主君の名を叫んでみるがいい!!」


 しばしの静寂の後、大きな声がこちらに届き始める。カグヤ殿下。と。

 数では劣る筈なのに、こちらに負けないような声量を出したカグヤ様の軍は、地面を武器でリズムよく叩きながら、カグヤ様の名を呼び続ける。

 それが俺の狙いだとは知らずに。


「カグヤ殿下!!」

「カグヤ殿下!!」


 誇らしげに叫ぶ兵たちには申し訳ないが、その忠節を使わせてもらう。


「主君の名を叫べと言われ、一介の将軍の名が出てくるとは……黒鳥旗の下に居る兵は主君の名も知らぬと見えるな! この場で叫ぶべきは国王の名の筈だが?」

「彼らにとってはカグヤ様が仰ぐべき主君だと言うだけだ!」

「まるでカグヤ殿下が独立した存在に聞こえるぞ? 第三の勢力として独立でもするのか?」

「世迷いごとを! カグヤ様は謀反など起こさん!」

「では兵の言葉は何だ!? 彼らは認めている! 今、この時、報じるべき主君はカグヤ殿下なのだと! しかし、カグヤ殿下は立つことはない! 兵も、民も、国全体が望んでいるにも関わらず! カグヤ殿下は父に逆らう勇気を持てないでいる! 貴様らが一番分かっている筈だ! 貴様らの一番上に居る者は、天の下で誇らしげに名を叫ぶ事の出来ない国王であると! それを討つべき貴様ら主君は……意気地のない人間だと!!」


 静まり返るカグヤ様の軍を見て、俺に満足感はない。こちらを睨みつけるアンナは気付いていない。こちらに向かって駆けてくる影がある事を。それ故に兵は騒がないのだと。


「ユキト・クレイ! 貴様は!」

「アンナ。もういい。私が話す」


 言葉少なにアンナを制止した黒髪の女性が、馬を前に進める。顔がよく見えるほどの距離まで近づいた女性は、限界まで張り詰めた弦を弾いた時のような、よく通る声で名乗った。


「カグヤ・ハルベルトだ。まずはディオが無事かどうかを聞いてもよいだろうか?」


 実際に竹取物語のかぐや姫が居たら、こんな人なのかもしれない。

 烏の濡れ羽色と言うに相応しい綺麗な黒髪は後ろで結っているが、それでも滑らかな美しさは変わらず、黒真珠のような瞳は、湖のように深く澄んでいる。まるで何もかもを見透かされそうな印象を他者に与える目で、じっと見られた俺は、懐にある扇子を握って落ち着きを取り戻す。

 凛とした美しさはソフィアには無い美しさで、勝るとも劣らないのだと、ディオ様は語っていたが、正しくその通りだ。薄青色の和服のような服と藍色の袴を着て、白い肩掛けを羽織る姿は、陳腐かもしれないが、女神のようで、戦場において異質過ぎる。

 見慣れてる筈の黒髪黒目で、日本人によく似た人なのに、見た事もない人種のように違う。存在感が計り知れないのだ。

 出てきたステータスに目を見開く。

 戦闘力が百三十台。おそらく最大は百五十だから、最強クラスの人間なのは間違いない。しかもその他の数値も九十や百ばかりだ。ディオ様が何一つ勝てないと言うだけの事はある。


「もう一度聞くが、私の弟の容態を教えてもらえないだろうか?」

「あなたと戦うのがとても負担になっていたようです。命に別状はありませんが、今は休んでいます」


 嘘ではない、嘘をついてしまっては見抜かれそうで、事実を口にした。そうさせる何かをカグヤ様は持っている。


「そうか……。安心した。感謝する。ユキト・クレイ」

「……それほど心配なら何故戦うのですか……?」

「……私はそなたの言う通り、父に逆らう気概を持ってはいない。だから、できることは戦を早く終わらせる事だけなのだ。そして……最も早く戦を終わらせる方法は敵の大将を捕らえる事。私にできるディオへの贈り物は、命を取らぬように私自らが捕らえる事だけだ」


 真っ直ぐだった瞳が初めて揺れた。この人も思い悩んでいるんだろう。親に刃を向けるなんて最大の親不孝だろう。何より、子供が親に歯向かうには、とても勇気が居る。誰でも出来る事じゃない。

 道理を守らんとすれば、例えどんな親でも親は親だ。刃を向けられれば守るのも子の務めと言えるだろう。

 そうやって悩む人だから、ディオ様は立ったんだろう。


「残念ながら既にこの城にはディオ様は居ません」

「だが、この城を無視すれば、そなたは容赦なく我々の背後を狙うだろう。だから無視は出来ない。犠牲は出したくはないのだ。降伏をして欲しい」

「……それが……答えですか!? 誰もがあなたが立つ事を望んでいる! 正義はこちらにある! そんなのは誰の目にも明らかだ! 暴虐の父を助け、茨の道を進む弟は助けないのですか!?」

「……すまない」


 顔を伏せるカグヤ様に苛立ちが募る。この人が勇気を持って一歩踏み出せば、全て終わるのに、何故、前に進まないのか。力がありながら、何故使わないのか。

 覚悟を決めたディオ様とカグヤ様が重なる。片方はとても頼もしく、片方はとても儚げだ。恐らく、ディオ様にもそう見えたのだろう。だから守りたいと。だが、俺が抱く感情は別だ。

 この人を助けるためにディオ様は全てを掛けている。なのにこの人は。


「俺の友は全てを掛けてあなたを守ろうとしていた! それを踏みにじろうとするなら……友の姉といえど容赦はしない! 降伏などもってのほかだ! 戦を終わるのは国王が死ぬ時だけだ!!」

「……ディオの友なら尚更傷つけたくはない……」

「俺はあなたの敵だ! 意気地のないあなたと語る言葉などもうない! どうしても語りたいのなら、国王を討って、全てを終わらせてからにしていただこう!!」


 そう言って俺は背を向けて城壁に居る兵に視線を向ける。


「防衛準備! 戦を始めるぞ!!」

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