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梅雨の幻

作者: かなや

梅雨の幻


雨。

雨とは俺にとって最も嫌いなものだ。

生まれてきたときも雨が降っていたらしい。覚えている限りでだが誕生日の日もいつも雨だった。

ちなみに誕生日は六月六日だ。さらに生まれた時間は午前六時六分六秒。もうこれなんかただの嫌がらせだよ。これは絶対に神様の嫌がらせだよ。誕生日が六揃いってもう死にたい。色々なものを乗り越えて死にたい。

閑話休題

小中高の入学式はすべて雨だった。

運動会の時も雨だった。(予備日がいつも運動会だった)

遠足が雨で中止になるのも当たり前。

学芸会や文化祭のときなども雨が降った。

なにか大事な予定があるときも雨。

ここまで来るとわかるが卒業式も雨。

どうやら俺は雨に呪われているらしい。

一体前世の俺はなにをしでかしたんだ。雨という天候に呪われるほどの悪行をしたのかよ。

そのせいで俺のクラスでのあだ名は「雨をよぶ者」と言われてた。

雨をよぶ者って中二病全開じゃん。

なんだよこのあだ名。

とはまあこんな具合に俺は雨が嫌いだ。いやむしろ親の敵と言ってもいい。(親はまだ二人とも健在だ)

そして俺が最も雨に濡れる日は六月つまり梅雨の時期だ。

なんだよ六月って昔は水無月て呼ばれてたんだろ。

水がない月なんだよな。

思い切り水があるぞ。

「はぁ~」

俺はため息をついた。

「起立。礼。さよなら」

そのため息を合図にしたように帰りの号令がかけられた。

ちょうどSHR(ショートホームルーム)が終わったらしい。

俺は座ったままだが。

何もなかったように立ち上がり今週は掃除当番ではない俺は教室を後にした。

そのまま俺が向かう場所はただ一つ靴箱だ。

友人と言える友人もなく。部活にも入っていない俺のいつもの道だ。

上履きから靴に履き替え、靴箱の近くにある傘立てから長年の相棒を取り出す。

相棒こと黒傘のくーちゃんは俺が小学生のときからの人間じゃない友達だ。

思い出すなこれをもらった日のことを小学生の一年生のときに大人用のくーちゃんをもらい。かれこれ十年以上この傘を使っているんだよな。

かなり年季が入っているが俺が大事に扱っているおかげか傷一つない傘だ。

「はぁ~。帰るか」

誰もいない靴箱付近で俺は一人つぶやいた。

雨の日を歩くほど面倒なものがない。

まず靴が濡れるだろう。運が悪い時は靴の中が大洪水にもなる。

あと制服も濡れる。ドブネズミみたいになるのは嫌なのに。

そしてなにより寄り道するのが面倒くさくなり。

家で暇を持て余すこと。

そしていつもは寄り道をするところを面倒という理由で真っすぐ家に向かっていた。

家から学校までは歩けば三十分。自転車なら十分くらいかかる。

そのまま傘を指しながら歩くこと十五分。

中間地点である。公園が見えた。

いつもは子供が賑やかに遊んでいる公園だが雨の日はいつも静かだ。

気まぐれからか俺は公園に足を踏み入れていた。

まあ、たまにはこういうのも悪くないと思いベンチに向かった。

この公園のベンチは屋根があるおかげで濡れることはない。ただ少しだけ肌寒いけど。

ベンチに座り俺はただ前を見ていた。

見ているものはただ雨が降る公園。

滑り台はいつもは子供たちが滑っているが今日は雨が滑っていた。

と公園を見ているとき隣から声をかけられた。

「あの。すいません、少しお話でもしませんか」

俺は突然のことでビックとしたがすぐに声の主を見て安心する。

いつの間にかそこに俺と同じくらいの女の子がいた。

制服からみると俺と同じ高校のものだった。

しかし、俺はその娘のことをみた覚えがなかった。

というのは当たり前か。学校では一匹オオカミいや害はないから羊かな一匹羊なんだからいちいちクラスのやつの顔、ましてやほかのクラスの人の名前はおろか顔を覚えているわけ

ないか。

「はい。俺でよければ。それと申し訳ございませんがお名前のほうを教えてくれませんか」

親と先生以外の人と話すなんて久しぶりだろうか。

うまくいえただろうか。

「名前ですか。わたしの名前は露湖です。結露の露に湖の湖でつゆこといいます。あたなのお名前は」

誰かに名前を教えるこれはたぶん小学生のときがラストだったと思う。

「俺は時雨といいます。時の雨で時雨です」

俺の名前は雨に関係する用語だった。

「時雨君ですか。いい名前ですね。かっこいいです」

自分にとっては呪いの呪文のような名前がかっこいいと呼ばれ、柄でもなく照れてしまっていた。

「それはそうと露湖さんは何年生なんですか」

俺が通う学校は上履きや体操服などは学年カラーになっているが、制服には特に学年カラーがなく。こうやって放課後、学校の外などで同じ制服の人だと思って話しかけてタメ口で話していると翌日実は三年生と一年生だったということがたくさんある。

「わたしはね。三年生だよ」

俺が今、二年生だから一個上つまり先輩か、この俺が誰かを先輩という機会がくるなんて。正直もうだめだと思っていた。そんな機会くるわけがないとだけど現に今、その機会が訪れた。ならここでいうのが男だろうが俺。

「そうなんですか。だったら俺にとってあなたは先輩になるんですね。露湖先輩」

露湖さんが顔を俺とは逆方向のほうに向けてしまった。

やっぱり慣れなれしかったかな。

俺が謝ろうとしたら。

露湖さんは目に涙を流しながらこちらに振り向いた。

「ありがとう。わたしのことを先輩って呼んでくれて。実はわたし今まで後輩から先輩って呼ばれたことなかったの。それで時雨君に先輩って呼ばれてあまりにも嬉しくって涙が出てきちゃって」

なんだ。うれしかったから泣いていたのか。

なんだか安心した。

「それはそうと時雨君はなにか部活とか入っているの。わたしのイメージとしては運動部系に入っていそうだけど」

この質問にさっそく俺は詰まった。

自慢できることではないが学校での俺は孤高のボッチだ。

そんな俺が部活なんかというボッチが関わることなどないに決まっていた。

「は、入っていません」

その答えを聞いた露湖さんの表情は驚愕という言葉が相応しいものだった。

「えーどうして。時雨君見るからに運動できそうだし、それに文化部にいってもなんら違和感もないのに」

「わかりません。生意気ですがたぶんこれといった魅力的な部活がなかったからだと思います」

「だったら。しかたないね」

「えっ」

俺はその言葉に驚いた。

両親ですら認めてくれなかったこの思考をさっき会ったばっかりの先輩が理解してくれたことに。

「だって時雨君の高校生活は時雨君のもの。その時雨君が部活に興味をもたないことは無理にやってもつまらないだけ。だったらなにもやらないで時雨君流に高校生活を楽しんだほうがいいに決まってる」

うれしかった。

本当に俺の考えを認めてくれる人がいることに。

人は自分のことを認めてくれる人がいるだけでここまで嬉しく思えるんだ。

「あー。こうこんな時間わたし帰らなきゃ。じゃあね。時雨君」

そう言って露湖さんはベンチから立ち上がり傘もささずに公園から出て行った。

それから十分くらいして俺は立ち上がり家の帰路に再びついた。


その後雨はその週降り続けた。

降り続けたといっても雨は真夜中や夜明けに一時的に止み朝になると降り出という迷惑なものだった

そんな中僕はその一週間俺はずっと放課後にはあの公園のベンチに足を運んでいた。

そこには絶対に露湖さんはいて、いつも他愛ない話をしていた。

そして週が明けても雨は降っていて俺はもういつも通りあの公園に向かった。

もはや例の如くで露湖さんはそこにはいない。

いつも露湖さんは僕が来てから少し経って現れる。

結局の所僕は露湖さんのことを先輩とは呼ばずに「さん」付けで呼ぶことにした。その方が言いやすいし。

そう思いながら俺はベンチに座り、携帯をいじることにした。

別にメールの確認をするわけではない。

なんせ俺の電話帳には自慢ではないが両親のしかない。

そして俺はそんなに両親にメールをだしたりもしない。

一か月でよく携帯ですることといえばモ○ゲーと○ちゃんねるくらいだ。

おかげでポケット代が毎月馬鹿にならないくらいの金がかかっている。(先月からパケット定額に入りました)

適当に何かスレでも立てるか。

と掲示板作成のメニューを開いたとき、隣りから声がした。

「へぇー時雨君って普段こんなことしてるんだ」

俺は昨日より三倍は驚いた。

なんでこの人はここまで気配を消して来るんだ。

「暇つぶしですよ。これは自慢ですが俺は一匹羊です」

「一匹羊?」

露湖さんがそれなにと聞くかのように首を傾げた。

「一匹羊とは害がない一匹の動物のことです。ほらオオカミだと害があるイメージじゃないですか。俺は害がないので羊です。メェ~」

最後に羊の泣きまねをして説明をする俺。

「あら、これまた以外、わたしの予想だと結構友達いそうだと思ったのに」

「残念ながらいませんよ。いたら昨日一人で雨が降る公園のベンチなんかに座ったりなんかしませんよ」

「分からないよ。もしかしたらその日に限ってちょっと一人で帰りたくなって、雨が降る公園のベンチに座ることがあるかもしでないじゃない」

「その可能性は天文学的数字じゃないですか」

「あはっはっは。それもそうね。だけどねこの世界にはその天文学的数字の可能性が起きることがあるのよ」

そういう露湖さんの表情はなにかを悟ったみたいだった。

「まあ。天文学的は置いといて。なんで時雨君は一匹なの」

「別に常時一匹というわけではありませんよ。ただ友人と言える友人がいないだけです」

俺が堂々と宣言すると露湖さんは笑いながらいった。

「あははは。それって友達がいない人のせりふだね」

ぐっは。

俺は精神的ダメージを2000受けた。

「うわぁ。時雨君どうしたの突然。倒れて」

この人はわざとやっているのかそれとも無意識なのか。

「いえ、何でもありません」

俺はなんか色々と重くなった腰を上げた。

「なんで、時雨君は友達がいないの?」

もはや確定ですか!俺が友達いないのまあ事実だから仕方ないけど。

最初は雨が原因だったけど。そのあとはあれ一人って色々ラクじゃんと思い始めて。

しかしそれは始めの原因があったから気がつけたことだから。

作らない理由としては雨なのかな。

「雨です」

「雨?」

やっぱりその一単語だけでは理解出来ず疑問形で返す露湖に僕はさらに言葉を付け足す。

「実は俺、かなりの雨男なんですよ。しかも呪われているくらいに」

露湖さんはただ黙って俺が続きを話し出すのを待っている。

「幼小中高の入学式は俺が入学する側の時に雨、卒業式もそれと同様です。

遠足、運動会も当日は雨、予備日には雨は降りませんが曇りでぱっとしない天気。それだけならまだいいと思います。問題はいつも俺のなにか大事な日には絶対に雨が降ることです。誕生日も覚えている限りでは晴れた日で過ごした覚えがありません。俺が予約したゲームソフトの発売日も雨。家族旅行もいつも雨。

そんなことが続きあるとき高校ではないんですけど当時のクラスメートに言われたんですよ。お前は雨しか呼ばないんだなって。

そのときの俺のあだ名が「雨を呼ぶもの」ですよ。

全く傑作ですよ。それ以来俺は卒業するまでそういわれ続けました。

雨が降るたびに嫌味を言われましたよ。

俺はなにも悪くないのに。

ただ俺は思ったんです。

俺のことをよく知っている人がいるからこんな目に合うんだと。

それ以来です俺が人との交流を避けるようになったのは相変わらず行事など、俺の大事な日などには雨が降りますが。それでも誰ひとりとして俺のことを責めたりしません。交流を避けるようにしたおかげで俺のことは一切知られず。行事のときなどはただ運がなかったな程度で処理されます。

本当に平和そのものですよ。あそこでは誰ひとりとして俺の誕生日を知りません。俺が楽しみにしている日を知りません。

もうあれ以来辛い思いをしていません」

そこで俺は一旦言葉を切る。

気が付くと俺は雨に対する恨みを全てぶちまけていた。

しかも一度爆発した思いは止まらない。

「それで俺は気が付いたんです。

 自分には一人でいるのが性に合っていることに」

結局の結論は自分が一人でいることを肯定するものだった。

一人でいることはなによりも楽なものだ。

他人のことなんて考えなくていい。

考えるのは自分のことだけでいい。

これほど楽なことはない。

だけどそれは寂しい考え方でもあると俺は理解している。

それでも俺はその考え方を肯定する。

そうしなければ俺は今までの自分の人生を否定することになる。

「だったらなんで時雨君はわたしとお話してるの

 昨日はまあ仕方なかったけど。

 じゃあなんで今日もここに来たの?」

露湖さんが返したのは俺の校庭に対する否定ではなく疑問。

予想外の切り返しに言葉を詰まらせる。

と同時に返す言葉を見つけられずに黙る。

「わたしと。ううん。誰かと話をしたかったからじゃないの」

更なる核心へと迫る言葉されど俺はなにも返すことが出来なかった。

出来なかったのではない出来ないのだ。

それが俺の決めた生き方だから。

「もっと言えばわたしと友達になりたかったじゃないの」

俺にはもうなにもいうことが出来なかった。

自分で理解してしまった。

次発する言葉が自分の人生を否定してしまう言葉だということに。

それ故に俺は何も言わない。

どれくらい時間が経っただろうか。

俺はあれからなにもしゃべっていない。

ただずっと同じことを頭の中で考えていた。

その考えていたことは何度繰り返しても同じところにたどり着く。

俺はもう露湖さんには会わない覚悟で立ち上がり逃げようと考えた時、俺は温かく柔らかいなにかに包まれる。

「大丈夫だよ。わたしは時雨君の今までの生き方を否定したりしない。だからね。時雨君。わたしの友達になりなさい」

それは命令。だけど俺にとっては最も嬉しい命令。

ありがとうございます。露湖さん。


それから一週間が過ぎた。俺はあれから毎日あの公園に通っている。

目的はもちろん露湖さんだ。

それから露湖さんに関して分かったこともあった。

露湖さんがいるときは必ず雨が降っているといことだった。

晴れ、曇りの日には絶対にいなかったのが一週間で分かったことだ。

そして俺にはこの一週間で変化も起きた。

「おーい。時雨」

俺を呼ぶ声に振り替える。

一応補足を入れるとここは学校のしかも自分の教室だ。

「なんだ。芳樹」

そう俺にも学校で友達が出来たのだ。

向こうがどう思ってるかは知らんがな。

芳樹との交流が出来たのは露湖さんの友達になりなさい命令が出た次の日のことだった。

あれは移動教室からの帰りの出来事だった。

教室にたどり着く少し手前の所で財布が落ちていた。

忘れ物かと思い職員室に足を運ぼうとした時、手から財布が落ちた。

折り畳みの財布だったため落ちた拍子に開いてしまった。

たまたまという形で財布の中を見ることになった俺はその中に身分証明書があるのを見つけ。

持ち主に心の中で詫びを入れてから拝見させてもらった。

そしてその身分証明書の人物が芳樹だった。

一応クラスメートの名前は曖昧な程度に理解していたから、直接届けることにした。

それ以来からか「お前と話していると楽しい」という理由からよく休み時間に話すようになった。

「この前の数学Bのノート見せてくれないか。 

 実はそん時寝ちまってな。最後の所全然書いてなかったんだよ。

 しかもさっきどっかからか、宿題が出てる聞いたし」

「構わないよ。ほい」

そう言って、俺は芳樹にノートを投げ渡す。

それを芳樹はキャッチし早速ノートを広げて自分のノートに書き写し始める。

最後の部分は量が少なかったおかげか短時間で移し終えていた。

そして次の数学Bの授業では運がいいの悪いのか芳樹は宿題の所を指され見事正解をもらっていた。

授業が終わりすぐに芳樹は俺の机の前にきた。

「助かったぜ。時雨。お礼といちゃなんだがもしなんか困ったことがあったら俺に聞けよ。普通じゃ出回ってない情報も教えるぞ」

とりあえず知りたいことも困ったこともなかったから俺はまたの機会にさせてもらった。


「さって。今日も俺が先にきたのか」

公園に来た俺はもう俺専用になったベンチに座った。

露湖さんについて分かったことは雨がふったときにしか会わないのともう一ついつも俺よりあとからでてくることだ。

まあ後者はどうせ俺を驚かせて楽しんでいるだろう?

「よっほー。時雨君」

噂をすればなんとやら。

いつものごとく気がつかないうちに露湖さんが俺の隣にいた。

さすがにこう何回も経験すると慣れてきて普通に対応ができる。

「こんにちは。露湖先輩」

「ぶー前までは驚いてたのに。もうノーリアクションだよ」

そう言って露湖さんは不貞腐れてしまった。

「すいません。さすがにこう毎回されると慣れてしまって」

「まあ別にきにしてないんだけどね」

気にしてないんだったら、不貞腐れるような態度をとらないで欲しい。

こちらも対応に困るから。

「それで最近学校どうなの」

俺はあの一件以来こうして露湖さんから人と話すアドバイスをもらっていた。おまけに報告もしている。

「ええ、最近はよく人と話すようになりました。ですけどまだ友人と言える人はいませんけど」

「すごいじゃない。この前まではクラスの人と全く話せていなかった時雨君がもう人の話せるなんて」

「俺は人見知りの子供ではありません。ただ今まで人と話そうとしなかっただけです」

「まあそんな謙遜しないで」

「それほめ言葉じゃないですよね」

「あははは。バレた」

「ばればれです」

俺は「は~」とため息をついた。

なんだか露湖さんと話しているとすごく疲れる。

いや悪い意味ではなくて、なんかこう言葉ではいい現わせないものなんだが。

うーん。考えても無駄か。

それはそうと露湖さんには大変お世話になっている。

人と話すことの楽しさを再び教えてくれた。あと人と話すきっかけを作ってくれたのも露湖さんである。

ここは一つお礼をしたい。それにこんな言葉もある親しき仲にも礼儀ありと。

けど俺と露湖さんはそこまで親しいかと聞かれたらこれはまた微妙なところである。

しかしここでこの話を出さなければこれ以降は言い出せにくくなる。

俺の中にもう迷いはなかった。

「露湖さん。このたびは露湖さんのおかげで俺は人と話せるようになりました。ありがとうございます」

「どうしたの。突然改まってそんなこと言って。ハハン。さてはまた何か悩み事もしかしてクラスの子と話せるようになって好きな子でも出来たの」

「いえ、そういうわけではないんですけど」

「え~じゃなに」

「ですから俺は感謝の気持ちを込めて露湖さんになにかお礼がしたいのです」

俺のその言葉を聞いた露湖さんはポカ~ンとしてしまった。けれどすぐにいつもの状態に戻った。

「別にいいのよ。お礼なんて感謝されたくてやったわけでもないし」

一昔前の俺ならここで会話を終えていたと思う。

けど今の俺は昔の俺じゃない。

「それでも。俺はお礼がしたいです。可能なお願いならなんでもします」

俺の必死さが伝わったのか露湖さんは少し考え込む姿勢に入った。

「そーね。なら時雨君に次会う時に校舎案内をしてほしい」

校舎案内。

「えっ。たったそれだけでいいんですか」

俺の確認に露湖さんは元気よく首を振った。

「うん。それがいい。でもただの校舎案内じゃつまんないから。夜の校舎案内でお願いね」

このとき俺の中で一つ決意をした。

なにがなんでも成功してみせると。


絶対に成功させて見せるとは思ったものの現実はそこまで甘くはない。

この学校は五時以降にドア、窓がすべて閉められるらしい。おまけにセ○ムのセキュリティ付き。

一応今日朝早く学校に来て、どこか窓の金具が緩んでいるところはないかと探したがどこもハズレであった。

ただいま俺はその過酷現実を知り自分の机で絶望していたところである。

打つ手はないのかと。

まだ決意して一日であったが俺は絶望の渦に包まれていた。

「は~」

と少し大きめなため息を吐いてしまった。

「よ、時雨どうした。大きなため息して」

まるで図ったかのようなタイミングで芳樹が話しかけてくる。

面倒くさいし適当なことでも言うかと思ったとき俺は思い出した。

確かコイツは自称だが普通に出回ってない情報も持っていると言っていたなと。

なら一か八かで聞いてみるか。

「実はな昨日さ、英語の宿題出ただろう。それをうっかり学校に忘れてな。慌てて取りに行っただが学校はどこも鍵がかかってて結局あきらめたんだよ」

俺は話を即興で作りそれで芳樹から情報を得ようとした。

「それは災難だったな。そういえばこの前のお礼まだしてなかったよな。

 とっておきの情報を教えてやるよ」

よし。俺は心の中で喜ぶ。

「実はな。ここの学校の一階の女子トイレの窓の金具が緩いんでいる。だから思いっきり力を入れて蹴れば開く

あと注意としては警備員の人には気を付けろ。ばれたらもうそこは使えないからな」

「ありがとう。助かる。今度からはその方法で侵入させてもらうよ」

いい日だ。快晴の空。そして今日は六月六日。

「それはそうと時雨。その英語の宿題見せてくれないか」

その後俺が英語の宿題を見せたのは言うまでもない。

せっかく良い感じだったのに全て台無しだよ。


流石、梅雨そして雨男である俺。

次の日にはもう雨が降ってるよ。

だが今回に限ってはそれは嬉しいことだ。

俺はすでにいつものベンチに座って露湖さんが来るのを待っていた。

親にはもう連絡して遅くなる旨を伝えている。

あとは露湖さんだけだがまだ来ていない。

いつもならもう来ているくらいだが。

用事でもあるのだろうと思い俺は暇つぶすのであった。

露湖さんがきたのは六時くらいだった。

夜の校舎案内をするには丁度いい時刻だった。

「今日はずいぶんと遅かったですね」

「ごめんね。時雨君」

「まあ。あまり気にしてないですけどね。それより行きましょう」

「えっ?どこに?」

首はを傾げ頭の上にはクエッションマークが浮かんでいるようだった。

それに俺は笑いを堪えながら言った。

「お礼でですよ。夜の校舎見学」

その言葉を聞くと露湖さんはさらに鳩が豆鉄砲を食らったような顔する。

「時雨君。それはなにかの冗談かな?」

「冗談ではありませんよ。さあ行きましょう」

俺は強引だが露湖さんの手を掴み一つの傘を二人使う方法で学校に向かった。


「はぁはぁ。予想以上に疲れた」

今、俺と露湖さんは校舎の中にいる。

俺はこの中に入るのに予想以上に疲れてしまい。

肩で息をしていた。

「だ、大丈夫時雨君」

俺のこの状態をみて露湖さんが本当に心配そうな声で聞いてきた。

彼女は俺が内側から校舎のドアを開けて入ってきため俺があそこでしていた死闘の内容を知らない。

「ええ。大丈夫です。さあ行きましょう時間はあまりないですから」

「うん。そうだね。もうあまり時間がないから」

最後の言葉はどこか寂しげな感じがしたがすぐにいつもの露湖さんに戻ったため特に追求はしなかった。

夜の学校見学は楽しいものだった。

おいしいイベントもあり、警備員さんに見つかりそうになったところもあったが俺たちはなんとかゴール地点である。屋上に辿りついた。

運よくかその頃に雨は止んでいた。

「楽しかったね」

「警備員に見つかりそうになりましたけどね」

「でもあの時は本当にびっくりしたよ。だっていきなり時雨君がわたしのこと押し倒すだもん」

「仕方ないじゃないですか。ああするしか方法がなかったんですから」

「それもそうだね」

と言うとお互い笑いあった。

「それはそうとありがとうね。今日はわたしのためにここまでしてくれて」

「いえ」

そう言って俺は少し考えた。

なんで自分がここまでのことをしたのかを。

確かに俺は露湖さんに感謝をしているが普通ここまでするだろうか?

入れない夜の校舎の入り方を探したり、それを実行したり。

いくら自分が変わったからってこんなリスクの大きいことはしない。

つまりその中で俺は一つの答えを見つけた。

単純なことだった。

俺は露湖さんのことが好きなんだ。

だから俺は無理なことをしたんだ。

彼女の願を叶えて笑顔をみたかったから。

ならこの思い今伝えよう。

俺の思考はそこにたどり着いた。

唐突すぎるかもしれない。

けれど今伝えたかった。

もう俺の中に迷いはない。

「露湖さん」

「なに?」

彼女はいつもの笑顔で俺に振り向いた。

その笑顔に俺は顔を赤くしたと思うが。

俺はこの気持ちを伝えるために一回小さく深呼吸をして伝えた。

「俺は露湖さんのことが好きです」

突然の俺の告白に露湖さんはただ唖然とするばかりだった。

「えっ、えっ。わ、わ、私のことがす、す、す、す、好き」

「はい」

俺の返事に迷いはなかった。

その返事を聞くと露湖さんはくるりと回るといつも笑顔で言った。

「告白の返事の前にある女の子の話しをするね。

その女の子は学校が大好きだった、学校にいる友達も部活動も大好きだった」

俺とはまさしく逆の人だなと思った。

それはまるで露湖さんみたいな人だと思った。

「だけどある時その女の子に悲劇が起きたの。その女の子はいつも通りの時間に家を出た。

それはいつもと変わらない登校風景だった。学校前の横断歩道で少女は不幸に会っちゃうの歩行者信号は青だった。それにも関らず車が女の子に目掛けて来た。女の子は突然のことになにもすることが出来ずに轢かれちゃうの。すぐに病院に運ばて治療は受けたけど彼女の意識は戻らなかった。けど彼女の意志は存在してた。初めのうちは来ていた学校の友達のお見舞いも次第に少なくなり遂に誰も来なくなったの。少女は思った。誰かに、誰かに会いたいと。だけど彼女の意識は戻らずにただ意志だけは存在してたの。そんな少女に奇跡が起きたの。少女は雨が降っている時だけは実体を持った幽霊として行動が出来るようになった。そこでその少女が初めて出会った人はいつも一人でいる男の子に話しかけたの。その男の子は少女が話しかけたら楽しそうに一緒にお話しをしてくれた。そして少女はまた彼とお話をしたいと思う。けど結局なにも約束は出来ずにその少女は帰ったのそして次の日も雨だったから少女は外にいた。もしかしたらと思い少女は昨日男の子と話したところに向かった。うれしいことにその子はそこにいたの昨日と同じ場所に少女はまたその子とお話をした。それが楽しくて仕方がなかった。誰かと話すのが」

その話はまさしく俺と露湖さんのことだった。

俺の頭の中は混乱し始める。

露湖さんが幽霊。

となるとつまり露湖さんは……。

そのことを受け入れられずにいた。

しかし露湖さんの話はまだ続いていた。

「でねその少女は少し欲張ってみたんだよ。その男の子にお願いしたの夜の学校に連れて行って欲しいと。さすがにこのお願いばかりは無理だなと少女はあきらめてたけどその男の子はそんな無茶なお願いも叶えてくれた。その男の子はお礼だといっていたけどその女の子にはそれ以上に感じれた。そしてね。その男の子は女の子に告白するんだ「好きです」って。でもその女の子にも時間があってもう今日までしか会えないのだから答えが決まっていてもどう答えたらいいか分からなかったの」

露湖さんが言葉を続けないのを察するところその女の子と男の子の話……俺と露湖さんの話は終わった。

不思議と俺はその話が嘘じゃないと思った。

雨が降っているのに傘を持ってないさらに制服には雨が当たって濡れた後が一切ない。

ほかにも上げればキリがないくらいある。

だけど俺が一番気になったのはただ一つ。

時間がもうないとい所だ。

俺は何を口にすればいいのか分からなかった。

何度も口を開けたり、閉じたりしていた。

そのとき露湖さんの体に変化が起きた。

彼女の体が透け始めたのだ。

「お別れの時間だね。いいわたしのことなんて忘れてすぐにいい娘見つけるのよ」

彼女は寂しげな声で泣きながら言う。

もう手さえ掴むことが出来ない。

俺にはどうすることも出来ない。

それでもと手を伸ばした時----

「ありがとう。じゃあね」

その瞬間露湖さんが消えた。

俺はなにも出来なかった。

あまりにも展開が早過ぎてついていけなかった。

不意に自分の頬に熱い何かを感じ手を触れる。

それは紛れもない俺の目から流れている涙。

露湖さんはもう消えたそれを悲しむ涙だった。


あの屋上での出来事以降、雨の日に露湖さんは現れなくなった。

梅雨は明け初夏といえる季節に入った。

俺は結局あの屋上での出来事を信じられずにいた。

例え雨の日に会えなくてこの公園のベンチに座っていれば彼女に会えるんじゃないかと思っていた。結果は分かっての通り雨の日も晴れの日も露湖さんは現れなかった。

ただここに通うのが日課となったのか俺の放課後の予定はいつも公園のベンチに座るものとなった。

さすがに何もしないのは暇なので今は、文庫本を読んだり暗記ものの勉強をしたりしている。

「あっ、お兄さん。ボール取ってください」

本を読んでいるとベンチから離れたところで遊んでいる子供たちいた。

俺はボールを手に持つとそれを子供たちのいるほうに投げて渡した。

「そってもう少し読み進めるか」

とベンチに座りなおそうとしたとき本の間からしおりがヒラヒラとベンチの下に落ちていった。俺は仕方なしにベンチの下に潜りこみしおりを拾った。

しかしそこであることに気がついたベンチの金具のと板の間に封筒が挟まいることに。

それを俺は興味本位に抜き取った。

改めてベンチに座りなおして、封筒を見た、そこには宛名のところに俺の名前があった。

俺はそれに驚き慌てながら封筒の封を切った。

そこには一通の手紙が入っていた。


時雨君へ


これが君を見ているということはわたしはもうこの世にいないと思います

可笑しいよね。幽霊が遺書みたいの書くなんて

これはわたしが最後の力で書いたものです

まずわたしの話相手になってくれてありがとう

そしてわたしの我儘も聞いてくれて本当に嬉しかったよ

それとあの時有耶無耶にしちゃった時雨君への告白の返事はね

わたしも時雨君のことが好きだよ

でもねぇ、わたしのことなんて早く忘れてほかの子と付き合ってね

そして最後になります

さっき言ったことと矛盾しちゃうけどわたしのことを忘れないで


露湖より


俺は読み終わった手紙を丁寧に折り畳み封筒の中に戻した。

忘れませんよ露湖さん。俺はアナタのことを。それと高校生の間はほかの子と付き合う気が起きません。すいません。

俺は心の中で今は天国にいるであろう露湖さんに向け思った。

さて今日は早いがもう帰るかとベンチから腰を上げた時、声がした。

「あーー。わたしの遺書読んでる」

その声に俺は耳を疑った。

だって

その声は

死んだはずの露湖さんにそっくりだったから。

もうしかして本当の幽霊になって俺に会いに来てくれたのと馬鹿げたことを考えたりしていた。

それいぐらいに驚きの出来事。

「わたし死んでないのに。読まれちゃったよ」

その少女いや露湖さんは俺が手に持っていた封筒を強引に取り上げ何か後悔していた。

いや待て、「わたし死んでない」。

とういうことは露湖さんは

「露湖さん」

「何よ」

ちょっと不貞腐れた感じに露子さんは答えた。

俺はそれに気にせず彼女を抱きしめた。

「よかった。よかった。生きてたんですね。生き抜いてくれたんですね」

「ええ、そうよ」

彼女は優しく俺の頭の上に手を乗せた。

「それはそうとそろそろ離してくれない。ここ公園だし」

「えっは、はい」

俺の頭の中に今の状況かを理解した。

なんかみなさん俺たちのこと生温かい目で見てます。

「それよりどうして。生きているんですか」

かなり失礼に聞こえる質問かもしれないが俺はそれ以外にどう答えたらいいか分からず結局そう聞いてしまった。

「うわっ。すごい失礼それにちょっと傷つく。まあ簡単にいえば奇跡が起きた。ううん。それ以外に考えられない。わたしは奇跡的に意識不明から脱出して、リハビリを人の二倍以上頑張った。だって早く時雨君に会いたかったし」

すごい。

ただそれしか思い浮かばなかった。

「ねぇ時雨君お願いというより我儘聞いてほしいだけどいい?」

俺はそれに迷いもせずに答える。

「どんな我が儘でも付き合います」

「ありがとう。もう一回告白してくれない」

それは俺も思っていたこと。

俺はもう一度露湖さんに会えたらしたいこと。

あの日の告白のやり直すこと。

叶わぬ思いだと思っていただからすっといえるこの言葉が

「俺は露子さんのことが好きです」

答えはすぐに返ってきた。

「わたしも時雨君のことが好きです」

梅雨の幻は終わり、あとに残ったのは初夏の太陽が照らす真実だけ。


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