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世界のトップブリーダーはチーズバーガーを推奨しない

作者: 大場鳩太郎

 読書にはもってこいの天気だった。

 近所にある公園の広場まで行くと、手近にあるベンチに腰かけて、紙袋から 大好物のチーズバーガーを取り出す。

 陽気の下で、そいつにかぶりつきながら読書をする時間は、僕にとっての至福の一時だ。

 最初のページをめくりかけた時、こちらに向かって歩いてくる二人組に気がついた。それぞれリールを携えて大型のペットを連れている。

 

 ブリーダーだ。

 

 ペットは喧しいし獣臭くて嫌だ。

 通り過ぎるまで文庫もチーズバーガーもお預けにしようとしたが、彼らはすぐ傍まできたところで立ち止まり、話を始めだした。


「いやあ、おたくのポチくんは実に立派な体格ですな」

「なにこの種にしては小柄な方です。それに三世代前の旧種だから貴方のとこのペスちゃんほど色艶もよくない」

「うちのペスもこう見えて六世代も前のやつなんですよ。古くて手ばかりかかって仕方ないです」


 それは一見、互いに相手のペットを誉めるという、ブリーダーならではの退屈なやりとりにも見えた。

 しかし彼らの所有するタイプのペットは一代限りで血統証というものがなく品種改良が度々繰り返されるため、どちらかといえばジーンズやスニーカーのようにより古いもののほうが希少価値があるとされている。

 つまり彼らは互いに謙遜しているふりをしながら自慢し合っているのだ。


「まあこう見えてポチのやつは躾だけはよくできとりましてな。大抵の命令は理解できるのですよ」

「うちのペスなんて以前に空き巣を捕まえたことがありましてね。感謝状ももらいました」


 彼らはすぐに本性を現して、相手ではなく自分たちのペットがいかに優れているかについて語りだした。

 元々折り合いの悪い二人なのかもしれない。とりまく空気が次第に険悪なものへと変わっていくのがわかる。


「そんなの大したことじゃないなあ。何といってもポチのやつは牙で牛をしとめたことがありますから」

「野蛮極まりないですね。躾は本当に大丈夫ですか?」

「おたくこそ。ペットが糞の後始末をしなかったせいで通学路が塞がれたことがあったのを忘れたんですか?」


 ブリーダーたちは言い争うように互いのペットを乏すと、暫く額を擦り合わせんばかりの勢いで睨み合った。


「火を吐かせようか」

「酸を食らわせようか」


 恐ろしい啖呵が飛び交った。

 彼らは早速、戦争を始めるべくそれぞれペットをけしかけようとする。号令を飛ばし、リールを引っ張り、蹴りつけてことを起こそうと試みた。

 だが当のペットたちにはどうでもいい問題のようだった。

 それはそうだろう。ペットたちは主人のつまらないいさかいになど関心がない。さっきから彼らの心を鷲掴みにしているものはひとつだけだった。

 二匹の視線は僕の手の中へと注がれている。

 すなわちチーズバーガーに。


「まだ一口しか食べてないのになあ」


 僕はしばらくハンバーガーを見つめてからため息をついた。あきらめて二匹のドラゴン(・・・・)たちに向かってぽいっと投げ捨てる。

 それから文庫本を閉じるとジャケットのポケットにしまった。ベンチから立ち上がってズボンの尻を払ってからその場を離れることにする。

 僕はとぼとぼと公園の出口を求めてさ迷い歩く。ファミレスにでも行くことにしよう。


「勝手にやってくれ」


 そう呟いたのとほぼ同時くらいに、背後で大気を揺らすような咆哮が響いた。

 巨大なもの同士がぶつかりあう鈍い衝撃音。

 小さなチーズバーガーに群がり奪い合い、大型の獣が死闘を繰り広げ始めたようだった。

 何故だかリーダーたちの悲鳴まで上がる。思い通りにことが運んだのだから喜ぶべきだろうに。

 人間とはつくづく身勝手な生き物だ、と僕は思った。



 西暦20xx年、バイオテクノロジーの発展にともない、それまで空想上の存在とされてきた動物たちが繁殖され、ペットとしての流通が開始された。

 しかしながらドラゴンのような超大型種に関しては衛生面や安全面などで疑問視する者が多く、ブリーダー同士のいさかいが社会問題にまで発展するケースなどがあとをたたないため現在、国会では法の改正を検討している(夕暮新聞社説より)。


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