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不揃いな勇者たち  作者: としよし
第6章 王都に潜む影
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第一話 グラッセルの都


【プロローグ】


 娘は駆けた。

 いままで生きてきた十何年かの中で、最も速く全力で、駆けた。


 こんなことになるとは思ってもみなかった。街の反対側にある親戚の家に、おすそわけのブドウ酒を届けに行く。ただ、それだけだったのだ。

 人通りのある、灯りの多い道を選んだ。ちょっとだけ近道しようとして、裏路地を通った。

 それが間違いだった。


 娘は恐怖に駆られていた。

 怖い。追ってくるのは、一人ではない。

 暗がりの細い道を、木箱や樽にぶつかりながら娘は走った。息は上がり、足は疲れきっていた。

 少しの距離だと思い、ヒールのある靴を履いてきてしまったことを悔やんだ。

 その目には涙が浮かんでいる。


「きゃっ!」


 石畳の隙間にヒールが引っかかり、娘は派手に転んだ。

 膝から着地してしまい、痛みに顔を歪める。

 抱えていた籠が転がり、ブドウ酒のボトルにヒビが入る。


「い、いや。来ないで!」


 娘は後ずさりした。立ち上がることは出来ず、じわじわと後ろへと下がるしかなかった。

 周りの状況を把握して、娘の顔から血の気が引いていく。路地の突き当たり、袋小路に逃げ込んでしまったのだ。背後には壁が迫っている。

 娘は完全に追い詰められた。


「お願い、こっちへ来ないで……」


 娘はすがるように壁に張り付いた。

 しかし無情にも、彼女を追いかけてきた何者かはその歩みを止めることはない。


「お金が欲しいなら渡すわ! だからお願い、命だけは、どうか」


 ゆらりゆらりと何者かは近づいてくる。

 少女の懇願など、耳も貸さずに。


「いや。誰か、助けて……」


 少女の目から涙が溢れ出す。その瞳に、恐怖が映りこむ。

 夜の街に、娘の悲鳴が響き渡った。

 ヒビ割れたボトルから溢れ出したブドウ酒は紅い水溜りを作る。

 そこには屋根の上の月が、不気味に紅く映し出されていた。















【第一話 グラッセルの都】


 フリッツは石造りの堅牢な建物の前で足を止めた。

 兄・アーサーの居所の唯一の手がかりである、グラッセル兵の詰所に訪れたのだ。

 グラッセルの都を護るために志願した兵士たちが待機し、所帯を持たない若い兵士が暮らしを営む施設でもある。石を積み上げられて作られた建物は、その歴史も手伝って重みのある雰囲気を醸し出している。


 しかし門を入った中庭には、草や小さな花々が適度に生い茂り、決して殺風景ではなかった。温かい日差しが入り、どこかゆったりとした空気さえ流れている。それはこのグラッセルが長きに渡って争いがなく、平和であることを物語っていた。

 槍を持った若い兵士が入り口に待機しており、立ち止まったフリッツの様子をそれとなく伺っている。

 フリッツは、よし、と小さく呟いて番兵に声をかけた。


「お忙しいところすみません。ここで働いているはずの兄を訪ねてやってきたんですが」


 この場所にまだアーサーがいるのかどうかはわからない。両親や近所の人の話によれば過去形だが、フリッツはまだそうだとは断定していなかった。

 もしもアーサーがこのグラッセルに留まっているなら、話は早い。兄を故郷へ連れ帰り、両親との間の誤解を解くことができる。

 アーサーと話をし、両親との間になにがあったのかを把握し、元の彼らに戻す。それがフリッツの旅の目的だった。

 フリッツの用向きがわかり、やや警戒を解いた番兵は尋ねた。


「きみの名前は」

「フリッツです。フリッツ=ロズベラー。兄の名前はアーサー=ロズベラーです」


 番兵はああ、と言った。その言葉にフリッツの顔は明るくなる。

 これは脈のある反応だ。

 番兵はフリッツの顔をじろじろと見た。


「きみ、本当にあのアーサーの弟なのかい? 失礼だが、あまり似ていないようだけど」

「よく言われます。でも、本当に実の弟なんです。あの、証明するものは何も持っていないんですが、兄に会わせてもらうことはできますか?」

「その必要はないよ」


 フリッツは思わず表情を明るくする。

 都の警備を担う機関が、無関係な人間をそうやすやすと入れてくれるはずもない。なんとかして話を通してもらおうと、会話の運び方をいくつも考えてきたのだ。しかし案外あっさり話が通りそうな様子で、フリッツは内心とても喜んだ。 

 親切そうな兵士で、しかもアーサーと面識があるようだし、今日はなんて幸先がいいんだろうと、思わず口元が緩みそうになる。


 そんなフリッツを見て、番兵は申し訳なさそうな顔をした。


「あいつはちょっと前に突然辞めたんだ。きみ知らなかったのかい? 故郷に知らせがいっているはずだが」

「えっ、そうなんですか」


 天国から地獄に叩き落された気分だった。

 フリッツの落ち込みようを見た若い兵士は、思わずたじろいだ。


「兄さん……」


 手がかりはこれしかなかった。ここに居ないとなると、新たな情報を集めるしか残された手立てはない。フリッツは無理やり気力を奮い立たせて、兵士に尋ねた。


「あの、どうして兄は仕事を辞めたか知っていますか」

「さあねえ。ここの仕事に満足してなかったのかもな。そんな不満は漏らしていなかったけど、あいつの剣の腕は、確かにここには勿体無かった。羨ましい話だけど、城の近衛兵にって上からお誘いがかかったんだ。でもそれを蹴って、それから辞表を出したんだよ」

「どうしてだろう……」


 フリッツの呟きに、番兵は肩をすくめた。


「さあな。どこか他のところから声でもかけられたのかもな」


 フリッツは続けて尋ねた。


「ここでの兄はどんな様子でしたか?」

「人当たりのいいやつだったよ。だれとでも仲良かったし。とんでもなく優秀だが、お高くとまったりしない、本当によく出来たやつだったな」

「そうですか。ありがとうございます」


 フリッツは番兵にお辞儀し、肩を落として詰所を後にした。


「浮かない顔だな。だめだったのか」

 詰所の門の壁に背中を預けて待っていたラクトスが、中から出てきたフリッツに声をかけた。

「うん。ここで働いてるはずだったんだけど、いなかった。突然辞めちゃったって」

「そうか」


 ラクトスは呟いた。 

 

 ラクトスは有名なキャルーメル魔法修練所に通っていたが、とある事情から中退し、今は魔法の腕を磨くためにフリッツたちと一緒に旅をしている。目つきと口が悪いため誤解されやすい性格だが、魔法に対しては非常に勤勉な青年である。

 フリッツはラクトスをちらりと見て、口を開いた。


「ごめんね」

「謝んなよ。紹介してくれってのはおれが勝手に言いだしたことだ。絶対じゃないのもわかってたしな」


 ラクトスがキャルーメルからフリッツたちに同行する際の約束だった。

 もしアーサーがグラッセルで働き続けていれば、ラクトスに仕事を斡旋してもらえないかという話だったのだ。

 もちろん、それが全ての目的でここまで旅をしてきたわけではないので、ラクトスはがっかりするようなことはなかった。しかしそれでも、フリッツは申し訳なく思った。


「これからどうするんだ。兄貴をまだ捜すのか」

「せっかくここまで来たんだ。もう少し頑張るよ」


 そう言ってみたものの、アーサーに関する手がかりは無いに等しい。これからどこをどうやって探せばよいのか、見当もつかない。

 そう思ったフリッツの心中を、ラクトスも察したようだった。


「宿に戻るか。そろそろあいつらも帰ってくる頃だろ」


 フリッツとラクトスは、来た道を辿り、都の中心へと戻っていった。

 兄であるアーサーを追いかけて、フリッツはとうとう南大陸最大の都グラッセルにまで来てしまった。

 南大陸のあちこちに散らばっている町村は、本来グラッセルを首都としたグラッセル王国の支配下にある。誰でも知っていることだが、このことを意識している者は少ない。多くの場所が町民や村人たちの自治という形をとっているためである。


 古の王が、広大な南大陸が自分の手にあまったため、集落の自治権を認めたことから現在のような形式になったとされている。しかしかつての主従関係の名残はあるため、時折人々は首都に献上品を送ったり、地方でなにかやっかいなことがあるとグラッセルの力を借りる。

 王は決してお飾りというわけではなく、グラッセルの都を統治しており、統括下における町村の治安にも目を光らせている。


 グラッセルは古き善きものが生きる街だ。

 過去には要塞都市としての役割を果たしてもいたことから石造りの堅固な建物が多い。裕福な家はちょっとした庭園を持ち、そこに溢れる花の洪水は行き過ぎる者の目を楽しませ、香りで誘う。フリッツとラクトスが通り過ぎた庭も、白と黄色の小さな花が盛りだった。   


 涼しげな風が石畳を吹きぬけ、木々は人々に陰を作る。住宅街は静かで子供たちの駆け回る声だけが聞こえていたが、中央の商店街へと足を伸ばすと雰囲気はがらりと変わる。


 いくつもの店が軒先に自慢の商品を並べ、食材や衣服、古書や魔法の道具など、ありとあらゆるものが手に入る商店街が都の東西に伸びているのだ。

 時間を問わず人々が盛んに行き交い、フリッツは前を行くラクトスとはぐれてしまわないように気をつけた。田舎育ちのため人ごみは苦手だが、活気ある街の様子にフリッツも少し元気を取り戻す。

 磨かれた赤い果実の山や、樽の中に立てかけられたたくさんの剣や魔法の杖、色とりどりの玉を投げる大道芸人が次から次へと目に飛び込んで来、料亭の開いた扉から漂うスープの香りが鼻をくすぐる。


「あれ、あんたたちまだうろうろしてたんだ」


 通りかかった店の中から、満足そうな顔をしたルーウィンが出てきた。

 おそらくこの自由時間を、彼女の趣味である食事に費やしていたに違いない。


「お前、またなんか食ってたのか」


 呆れた顔をしてラクトスが言った。


「いいじゃない、小遣いはあたしの狩から出てるんだから。それはそうと、フリッツはお兄さんの務め先には行ってきたの?」

「それなんだけどね」


 フリッツはルーウィンに一部始終を話して聞かせた。


「そっか、残念だったわね。じゃあ当てのない人捜しになるわけね、あたしと同じか」


 ルーウィンはからっとした調子で笑った。 

 

 ルーウィンは師匠であるダンテを捜してフリッツたちと旅をしていた。しかしそれは彼女の嘘で、本当はダンテの仇を捜して旅をしていたのだ。ダンテは三年前に殺されており、その犯人に復讐することがルーウィンの旅の目的だ。

 彼女は一つの前の街ステラッカで、仇の一人であるカーソンに出くわしたが、彼は見逃すこととなった。

 しかしまだ旅を続けるということは、他の者に対する復讐は諦めていないということだ。


「こんな大きな都に居なかったら、いったいどこを捜したらいいのかしらね。まあ数日留まって、しばらく頑張るしかないんだけど」

「そういえばティアラは? 一緒じゃなかったの?」


 ここまで来て三人が揃い、残りはティアラ一人となった。

 召喚士であり治癒師である彼女は、穏やかで、ややおっとりとしている。しかし十年間塔に閉じ込められていたという経緯から、極端な世間知らずでもある。街で迷子にでもなっていなければいいと、フリッツはティアラを心配した。


 ルーウィンは肩をすくめる。


「さあ。ずいぶん前から別行動してるわよ」

「お前、あいつから目を離すなよ。またクーヘンバウムの時みたいになったら面倒臭いだろうが」


 ラクトスが苦々しげに言った。

 ティアラを探して、三人はグラッセルの街を散策していた。すると、通りの交差する大きな広場で、なにやら人々がうごめいている。南大陸の中枢の都であるだけのことはあり、さすがにグラッセルの通りはどこも人だらけだったが、その広場の人だかりはより一層目を引いた。


「なんだ? あの人ごみ」


 ラクトスが言って、三人はその人だかりに近寄った。


「今、古き善き都、偉大なる王都グラッセルは謎の影に脅かされている!」


 輪になっている人々の中心で、何人かの男たちが並んでいる。装備をしていることから、おそらくギルドの人間か冒険者なのだろう。その中心らしき男が、声高らかに演説をしているようだった。


「女王陛下は手を尽くしてくださっている! しかし、このグラッセルや南大陸の平和を、あの方お一人の細い肩で受け止めさせてもいいものか! 親愛なる女王陛下のために、このグラッセルの治安に、我々も一役買おうではないか!」


 男がそう言うと、人々は盛り上がった。おおーっ、と拳を天に突き上げたり、いいぞいいぞと囃し立てる。

 しかしこの街に来たばかりのフリッツたちには、いまいち飲み込めない状況だった。多くの人々が昼間から集まり、血気盛んに声を上げている。聞いている限りでは、国に対しての抗議というわけでもなさそうだ。


「ええっと、これはどういう状況ですか?」


 フリッツは隣で元気よく叫んでいた恰幅の良い主婦に尋ねた。


「あら、あんたたち冒険者かい? グラッセルへようこそ。こんな時だけど、ゆっくり楽しんでいってね」

「そりゃどーも。で、こんな時ってなんだ?」


 ラクトスが主婦に向かって訊いた。


「ここ最近、このグラッセルの治安を脅かす輩がいてね。シェリア女王陛下はよくやっていらっしゃるんだけど、どうにもこれが捕まらなくて。国を信用していないってんじゃないけど、女王様お一人にこの状況を丸投げにするわけにはいかないだろう? そこでこの街のギルドが中心になって、冒険者に声をかけてるってわけさ。こうして悪いやつを成敗する勇者を募ってるところでね」


 フリッツはつま先立ちして人垣の向こうを見た。確かに、立て看板には「求ム、勇者」と書かれている。


「なるほどね。じゃあ、あたしたちには関係ないわ。さっさと行きましょ」


 興味を失ったルーウィンが二人を促す。フリッツもルーウィンについてその場を離れようとしたが、ラクトスが動かないのを見て足を止めた。


「ラクトス、どうしたの?」

「ん、ああ。悪い」


 ラクトスは珍しくぼうっとしていたようだった。フリッツは首をかしげる。


「考え事? まさか、ルーウィンみたいに出て行っちゃおうとか思ってないよね?」


 フリッツは冗談で笑いながら言った。


「安心しろ。あいつとは違う、黙って行ったりはしねえよ。さあ、行くか」


 先に人垣から離れていたルーウィンのもとへ、二人は揃って歩き出した。


 フリッツたちが広場から通りに向かう間も、後ろのほうでは声が上がっている。悪事が横行している中、自分たちで街を護ろうだなんてなかなか元気のある街だと、フリッツは思った。

 単に行きずりの商人や旅人だけで賑わっているのではなく、このグラッセルに住んでいる人々の熱気が溢れているのだ。


 続く石畳は美しく、ところどころに緑が溢れている。今は物騒なことも起こっているようだが、きっとこの都では皆が平和に暮らしているのだろう。自分たちも、ゆっくりと道中の骨休めができそうだ。そんな暢気なことを考えながら、フリッツは歩いていた。


 しかし、不意にどこからか視線を感じた。

 ふと足をとめると、歩道の横にある、緑の茂る一角が動いたような気がした。

 止まってしまったのを不審に思ったルーウィンがフリッツに声をかける。


「どうしたの?」

「いや、今そこの植え込みがね」


 フリッツは再び植え込みに目をやった。

 突然、中から人が飛び出してきてフリッツに体当たりした。


「うわあ!」


 あまりのことにフリッツは倒れこみ、しりもちをついた。何が起こったのかを見極めようと目を開く。

 フリッツの上に女性が転がっていた。この女性がフリッツ目掛けて飛び出してきたのだ。


「……痛たた。大丈夫ですか?」

「フリッツさん!」


 目の前の見知らぬ女性は、フリッツの脚の上に乗ったまま手をとった。

 脈絡のない展開に、フリッツの頭の中は疑問符でいっぱいになる。


「……えっと、どなたですか?」


 見知らぬ女性だった。

 艶やかな紅の長い髪は巻かれており、上品な雰囲気の漂う女性だった。肩や鎖骨が見える程度に胸元が開いたドレスを着ており、深い青色に染め上げられた布地に、縫い取り去れたビーズや刺繍がきらきらと輝いている。額があらわになっており、紅い睫の下の瞳には不安が見え隠れしている。


 フリッツはやや押し黙った。彼女の瞳をじっと見る。

 この瞳とこの仕草に、どこか見覚えがある。


「まさか、とは思うけど。もしかして、ティアラ?」

「当りです! さすがフリッツさんですわ」


 ティアラは瞳を潤ませて感激した。

 フリッツも自分で言ったことが信じられなかったのだが、まさか本当に当ってしまうとは思いもよらなかった。顔はもちろん変わってはいないはずなのだが、いつもは素顔の彼女が化粧を施されていることでわからなかった。

 驚いていたルーウィンも、かがんでティアラだと認めると、彼女が起き上がるのに手を貸した。


「どうしたのよ、そんな格好でこんな場所から」

「ルーウィンさん、お話は後です! わたくし、追われているんです。まずはここから逃げなければ」

「追われてるって、どういうこと?」


 フリッツの問いに答える間も無く、建物の角から甲冑を身にまとった兵士たちがわらわらと湧いてきた。


「いたぞ!」


 あっという間に四人は兵士たちに取り囲まれてしまった。

 ルーウィンは矢筒に手を伸ばしかけていたが、ラクトスの視線を感じて、その手を下げた。ラクトスも杖を掲げようとしていたのだが、兵たちのいでたちを見て反撃は得策でないと考えたのだ。


「やめとけ、王家の紋章が入ってる」


 ラクトスはルーウィンに耳打ちした。ルーウィンも黙って頷く。

 甲冑の肩の部分に、グラッセルの紋章が刻まれていた。六枚の翼の上に王冠を戴き、周りを蔦が取り囲んでいる意匠だ。兵たちの装備も物が良いのは一目でわかった。それにここはグラッセルのお膝元。偽者の兵士がこんなにも堂々と横行しているわけがない。


「本物の、王家の兵士なの?」


 フリッツはティアラを背にしながら、上ずった声を出した。


「悪いがおれの乏しい想像力じゃ、いったいぜんたい何が起こってるのかさっぱりわからないんだが。おい、ティアラ。これはどういうことだ?」


 ラクトスが苛々と口元をひくつかせているのを見て、ティアラは項垂れた。取り囲んだ兵の後ろから、男が現れた。体格の良い中年で、その風格には威厳がある。他の兵たちとは鎧も異なり、彼は別格なのだとわかった。

 男は恭しくティアラに跪いた。


「女王様、勝手に出歩かれては困ります。さあ、我々と城へ戻りましょう」


 その言葉に、フリッツたちは耳を疑った。

 ティアラはフリッツに隠れながら、顔だけを覗かせる。


「約束が違います! わたくしは、ほんの少しこの街に留まっているだけだとお伝えしたはずですわ」


 ティアラが怒って声を大きくするので、男はあたりをきょろきょろと窺った。勇者を募う集まりの人々が、こちらに気がついてしまったようだ。

 なんだなんだと、向こうでざわめいているのが聞こえる。


「まあまあ、ここで話すのも何ですし。続きは城でゆっくりと。今人目が集まっては、ことが大きくなりますゆえ」


 男はティアラに向かってそう呟いた。

 ティアラは眉根を寄せて少し考えていたが、仕方ないといったふうに差し出された男の手をとった。それを見て、男はあからさまにほっとした表情を浮かべた。

 続いてフリッツたちに視線を走らせる。そして周りの兵たちに聞こえないよう、小さく呟いた。


「きみたちか。彼女の旅のお仲間というのは」

「えっ、はい。ティアラ、どういうこと? なにがなんだか」


 フリッツは困惑してティアラの顔を覗きこんだが、彼女もまた不安そうな顔をしている。


「連れて行け」


 男が言うと、兵たちはフリッツの手首に手際よく縄をかけた。


「ええ! どうしてですか?」


 フリッツはあっけなく両手の自由を奪われ、背中の錆付いた真剣も、腰に挿した木製の剣も奪われた。続いてラクトスとルーウィンにも兵士は迫っていた。

 ルーウィンの弓を奪おうとする兵に、彼女は声を荒げた。


「ちょっと、何すんのよ!」


 ティアラが本当に申し訳なさそうな顔で、ルーウィンを見つめた。


「ルーウィンさん、お願いです。しばらく、我慢していただけませんか?」

「……なんなのよ、もう」


 ティアラに懇願され、ルーウィンは諦めて大人しくなった。

 ラクトスは抵抗もせず、早々に手首に縄をかけられている。


「ここで逆らってもバカ見るだけだろ。こうなりゃ大人しく連れて行かれるしかないな」

ラクトスがにやりと笑ったが、フリッツは深々とため息をついた。眉は情けなく垂れ下がっている。

「ぼくたち、どうなっちゃうの?」


 ラクトスは肩をすくめた。


「さあな。こいつらが王家を騙ったニセモノじゃなけりゃ、おれたち城に招待されるみたいだぜ?」

「良かったじゃない。どうせぶち込まれるなら、そのへんのじゃなくて、王室御用達の牢屋に入れられたほうが気分いいわよね」


 ルーウィンが苦々しげにラクトスに毒を吐いた。


 ティアラは黒いマントを羽織らされフードを被り、人々の目に触れられないようにして先ほどの男と共に先頭を歩いた。フリッツたちは縄をかけられたまま、周りを兵たちが取り囲んで連行された。

 兵たちの何人かがギルドの集会に口出ししているらしく、解散するように命令しているのが、遠くのほうのざわめきから聞こえてきた。


 こうして王都グラッセルに着くなり、四人は早々に厄介ごとに巻き込まれることになった。





第6章の始まりです! よろしくお願い致します。

お読み頂きありがとうございました!

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少女とギルド潰し
   ルーウィンとダンテの昔話、番外編です。第5章と一緒にお読みいただくと、本編が少し面白くなるかもしれません。
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