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不揃いな勇者たち  作者: としよし
第3章 女神の街パーリア
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第二話 作戦会議


【第3章】

【第二話 作戦会議】


 ルーウィンがしぶしぶルダの依頼を引き受け、引きずられる形でフリッツも巻き込まれてしまった。 フリッツは自分のお茶代だけ払って逃げることも出来たのだが、それでは後々ルーウィンが大変怖いことになってしまう。


 冒険者の収入源は、基本は各地のギルドで依頼を請負、その報酬を受け取るというものだ。今回はギルドを経由しない個人からの直接の依頼だが、依頼は依頼、報酬が伴えば一つの立派な仕事だ。

 ルダは自分のポケットをごそごそと探ると、サークレットを取り出した。銀で出来たもので、額に当たる中心部には翠の石が下がっている。


「銀もヒスイも本物です。市場での価格はわかりませんが、かなりの値になります。わたくしの母の形見ですの。前払いの代金として、先にお渡ししておきますわ」


 他意はないのだろう、純粋な笑みでルダはサークレットをルーウィンに手渡した。

 フリッツもそれを覗き込んだが、素人目とはいえ、かなりの品物に見える。フリッツは慌てた。


「まだ成功するとは決まってないし、なにも今渡さなくても」

「大丈夫です。あなたがたはきちんと協力してくださる方々だと、わたくし信じておりますから」


 ルダは無意識に報酬を先に渡して二人を逃げられないようにし、加えて母の形見という重い品であるということもくっつけてきた。

 報酬の前払いは相手を信じていないと出来ないことで、フリッツとルーウィンは早くも逃げられない状況に追い詰められた。


「で、あたしたちはどう動けばいいわけ? そこまで言うからには、なにか考えてあるんでしょ」


 ルーウィンは前向きに検討することに決めたようだ。依頼を引き受けることにしたのだから、四の五の言うのはみっともない。とりあえずは内容を確認しなければと、フリッツは気を取り直す。


「儀式を邪魔するって言っても、あんまり危険で派手なことはしないよね? 僧兵とこ小競り合いするとか、儀式の最中に一騒動起こすとか」

「もちろん、そんな危ない目に遭わせたりはしませんわ。ちゃんとわたくしなりに考えがありますの」


 その言葉を聞いてフリッツは胸を撫で下ろす。


「パーリア教皇の任命式というのは、信者の方々、つまりこの街の皆様を前にして、教皇候補が聖なる儀式を成功させることが前提です。それが出来なければ教皇に相応しくない者とみなされ、教皇に就任することはありません」

「要はその儀式を失敗させればいい、ってことね」


 ルーウィンが言い、ルダは頷く。


「儀式は、民衆にその人物が教皇に相応しいと示すためのものです。同時にこれは試金石でもあり、相応しくないものが儀式を行えば上手くいかないのです。本来は」


 本来は、という言い回しがひっかかる。

 ルダは続けた。


「ブルーアが儀式を行ったところで、上手くいくなどとは思っておりません。本来はなにもしなくとも、儀式に失敗して、勝手に自滅するのを待てばよいのです。しかし、ブルーアは自分が儀式を成しえないことを承知の上で、儀式が成功したかに見せかける手回しをしています」


 ルダは指を三本立てた。


「ブルーアの儀式を成功させる鍵は三つ。聖水と、神器と、生贄です。聖水はパーリアの丘の泉から湧き出たもの、神器は代々教皇に受け継がれてきたもの。そして生贄は、現教皇の御息女です」

「生贄、って」


 思いがけない言葉にフリッツは聞き返した。

 女神の街で生贄とは、またなんとも似つかわしくない言葉だった。


「彼女は今、大聖堂の塔の中に囚われています。しかし儀式に使われる身ですので、それまでは彼女の安全は保証されているはずです」


 三つの要があるということは、儀式の妨害方法も三通りあるということになる。

 聖水をどうにかするか、神器を奪うか、あるいは教皇の娘の解放か。どれかが欠ければブルーアの企みは破綻する。

 問題は、そのどれが最も確実で簡単かということだ。


「ティアラ様は厳重な警備がつけられており、彼女を解放するのは難しいでしょう。神器もすでにブルーアの手中で、助け出すのは不可能に近い。ここはやはりブルーアの手の者が聖水をとりにくるのを妨害するのが近道です。聖水は神聖なもの、取りおきは効かずその聖なる力は保ってせいぜい一日。ブルーアは儀式の一日前、つまり今日の午後から夕暮れ時前には聖水を取りに遣いの者を送るはずです。そこを狙います」

「で、時間が来るまでは待機ってことね」


 要は、自分たちはブルーアの手先が聖水を取りに来るのを妨害すればいいのだ。それがどれほど難しいことかは見当もつかないが、少なくとも他の二つの方法よりは成功させる可能性が高いだろう。

 ルダがこの方法を選んだのは得策だった。ルーウィンもそれぐらいなら、と納得したらしい顔をしている。

 二人のなんとかなりそうだという顔色を読み取って、ルダはフリッツとルーウィンの手をとってテーブル越しに身を乗り出した。


「教皇様のお命は風前の灯、ティアラ様も幽閉されています。わたくしが、いえ、わたくしたちがやらねばならないのです。今回のことには、パーリア教の未来が懸かっています。すなわちそれは、南大陸に住まう人々の未来が懸かっているということなのです」


 ルダの目は真剣そのものだった。

 フリッツはその勢いに少したじろぎ、ルーウィンはなんでもないように尋ねる。


「そのブルーアって神官が教皇になると、どうなるの?」

「宗教戦争が起こる可能性があります」


 またまた飛び出した過激な言葉に、フリッツはその耳を疑った。


「あの方は非常に好戦的です。パーリア教はいま、現教皇とグラッセル公の不可侵条約で安定しているのです。グラッセルの宗派と争いが起こるばかりではありません。あなたがたがそうであるように、この大陸にはどの宗教にも属さない方がたくさんいらっしゃいますわ。その方々をどちらかに引きこむための、そんな泥沼のような争いが」


 フリッツが身を引き、ルーウィンが微妙な表情で話を聞いていることに気がつき、ルダは思わず顔を赤らめる。


「すみません、ちょっと話が飛躍しすぎましたわ。憶測で言うことではなかったですね、ごめんなさい」


 ルダは自分の茶をすすると、一息ついて落ち着きを取り戻した。

 フリッツはパーリア教の敬虔な信者というわけではないが、神様といわれればすぐにパーリアの女神を思い浮かべる。

 パーリア教は南大陸の人々に最も親しまれ、暮らしや文化に影響を与えている宗教だという事実は間違いない。その指導者を間違った人物が務めることになれば、悪い方向に転がるのは目に見えている。


 しかし、ルダの言っていることは話が飛躍しすぎているように思えた。

 ブルーアという人物を知らないためなんとも言えないが、仮にも聖職者だ。フリッツからすれば多少欲があっても立派な神官様であり、そんな人物が争いを起こすなどとはにわかに信じがたい話だ。


「事実、街角には多くの僧兵が待機しています。ブルーアは着々と戦力を集めているのです。最近は怪しげな方たちと連絡を取り合っているようですし、不穏な動きも見せています」

「ふうん。なるほどね」


 フリッツは隣でルーウィンの生返事を聞いて、彼女がルダの話したことを鵜呑みにしていないのがわかった。疑っているというほどではないが、そんな大事になるはずないと考えているのがありありとわ表れている。正直、フリッツでさえもルダの話は半分以上が妄想だと思ってしまうほどの域だった。

 

 しかし彼女の瞳に嘘偽りはなく、その顔は真剣そのものだ。恐らくなにか勘違いをして、そのように思い込んでしまっているのだろう。

 しかし依頼を受けてしまった以上、フリッツたちはルダの気の済むように動くべきだ。


「まずはぼくたち、どうしたらいいかな」

「そうですね。ではさっそく聖水への参道へ向かいましょう」


 ルダはそう言うと腰を上げ、しっかりと伝票を手に会計へと向かった。









 茶店を出たフリッツはルーウィンに耳打ちをした。


「どうする? なんかすごいことになっちゃったよ」


 ルダの依頼内容から多少のことは覚悟していたが、彼女の話を聞けば聞くほどその話は重みを増していく。最初は聖水の採取を妨害するだけの話で、実際フリッツたちがこなす仕事はそれなのだが、生贄や宗教戦争など話が飛躍しすぎている。

 しかしルーウィンはさして深く考えていないようだった。


「適当につきあって適当に終わらせましょ。どうせ世間知らずの小娘のやること、それにこんなたった一人の行動で今のこの街の流れが変わるとは思えないわ。とりあえず現実を突きつけときゃ、あの子も嫌でも気がつくでしょ。世の中きれいごとじゃ回っていかないってことをね」

「だよね。神官さまを引き摺り下ろすなんて、そんな大それたことできないよね」


 二人がそんな会話をしているとは露知らず、ルダは振り返った。


「よろしければ、街を見てもよろしいでしょうか」

「はあ? あんたさっきまで追われてたんでしょ」


 ルーウィンは眉目を寄せたが、その反応はもっともだった。

 ルダは恥じ入るように下を向く。


「そうなのですが。恥ずかしながらわたくし、もうここ数年修行で篭りきりで、この街の様子をよく知らないのです。ブルーアが実権を握るようになってから本当にこの街は変わってしまったのか、わたくしのこの目で確かめておきたいのです。お願いできないでしょうか」


 ルダは二人に哀願するように手を取った。こんなに清楚で可憐な少女にお願いされては、普通の少年ならばくらくらしたことだろう。

 しかしフリッツはルダの目線が自分と同じ、ひいては自分と女性である彼女の身長が変わらない現実を突きつけられ、静かにショックを受けていた。


「ちょっとくらいならいいんじゃないかな。頭巾を変えたりして、追われていたときと少し格好を変えてみたら? 人ごみもあることだし」


 フリッツは精一杯の笑顔で答えた。




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少女とギルド潰し
   ルーウィンとダンテの昔話、番外編です。第5章と一緒にお読みいただくと、本編が少し面白くなるかもしれません。
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