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不揃いな勇者たち  作者: としよし
第2章 新たな道連れ
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第十一話 決着の行方

【第2章】

【第十一話 決着の行方】


 翌朝、キャルーメル修練所の木立は何事もなかったかのように整然と並んでいた。


 幻で誤魔化しているのか、それとも魔法で本当に樹木の再生をやってのけたのかはわからない。門下生たちがおしゃべりをしながら修練所の建物に消えていくのを、フリッツは不思議な気持ちで眺めていた。

 昨晩この場所で人知れず魔法での決闘が行われていたことなど、通りを行く門下生たちは知る由もなかった。


 いくら木立が直されていても、フリッツの身体に付いた打撲や切り傷はそのままで、フリッツは顔に絆創膏を二つと頬にガーゼを当てていた。しかし左足の牙の跡はある程度消えていて、歩くのには不自由しなかった。どうやら所長が最低限の治癒魔法を直々に施してくれたらしかった。


 フリッツはルーウィンに付き添われ朝一番でガルシェとの面談に来ていた。

 事の子細を自分の口から伝えなければと思ったのだ。ラクトスは無実であり、真犯人はクリーヴであるということ。

 彼らはそれぞれの在籍をかけて決闘をしたこと。そしてラクトスが勝ったこと。


 勝手に行った決闘が果たして有効なものであるのか、フリッツにはわからなかった。だがラクトスの無実は、なんとしてでも証明しなければならない。

 しかしその証拠は一つもなく、昨晩ガルシェがその様子を見ていたなどとは知りもしないフリッツは、ラクトスの破門をどうやって止めさせたらいいのかと必死になって考えていた。その隣で、ルーウィンはのん気にあくびをしていた。

 

 しかし所長室に通されたフリッツを待っていたのは、所長の口から発せられた驚くべき言葉だった。


「どうしてですか? なんでラクトスくんが出て行かなきゃならないんです?」


 眉を下げながらも必死になって食い下がるフリッツを、所長ガルシェはまあまあと言ってなだめた。


「ぼくのせいじゃないよ。だからそう怒らないで。まずは話を聞いて欲しい」


 椅子に座るよう促され、フリッツはしぶしぶ、ルーウィンはどかっと席に着いた。テーブルには書面が一つ置かれていた。フリッツは驚きに目を見開く。

 それは退所届けだった。


「ラクトスくんが持ってきたんだ。こっちはまだ受理してないよ。彼が言うには、自分は犯人じゃないけど、容疑者が修練所にいるのは他の門下生にも周りの評判にも良くないだろうって」


 それを聞いて、ルーウィンはつまらなそうな顔をした。


「聞こえはいいけど、結局のところついに周りの白い目に耐えられなくなったんじゃない?」

「そんな……」


 フリッツは視線を床に落とした。自分がまんまと魔法で操られたために、関係のないラクトスの人生が台無しになろうとしている。

 そんなフリッツの様子を哀れに思って、所長は思わず窓の外を眺めることで視線を外した。窓の向こうにはさんさんと光を浴びる木立と、講義に向かう門下生たちが何事もなかったかのように歩いているのが見える。

 所長はそのまま言葉を続けた。


「聞くところによると、彼は今日でこの街出て行くって言っていたみたいだし。だからね、代わりと言っちゃなんだけど」


 扉が開いたような音がして、所長は振り向く。しかし、そこには誰もいなかった。


「あれれ? まったく、せっかちなんだから。最近の若者は誰も彼も、人の話を最後まで聞かない」


 ガルシェは開けっ放しになった扉を、やれやれと呟きながら閉めた。











 空気が洗われたような、ひんやりと少し肌寒い朝だった。

 ラクトスはローブから出た腕が少し粟立つのを感じながら、街道へと続く道を一人歩いていた。新緑が濃い緑へと変わっていく頃で、物事を終わらせるには丁度いい季節だ。


「ラクトスくーん!」


 遠くの方から自分の名を呼ばれ、ラクトスは足を止めた。フリッツが全力で走ってくるのが見えた。フリッツはラクトスのもとまで辿り着くと、肩で息をしていてしばらく話せなかった。額に汗を浮かべ、顔は真っ赤だ。


「よ。早いな」


 ラクトスはなんでもない表情をしているが、いかにもこのまま出て行ってしまいそうな様子だった。 魔法使いであることを示唆する黒いローブを羽織っているが、活動しやすいようにその丈は膝までのものだ。ズボンにブーツを履き、背中にちょっとした荷物を背負っている。片手はポケットに突っ込まれているが、もう片方には簡素な魔法使いの杖が握られていた。


「ま、待って。どうして出て行くの? 昨日きみは勝ったのに! そもそもきみは犯人じゃない。ここを出て行く理由なんて何一つないんだよ!」


 フリッツはすっかり息が上がっていた。後からルーウィンはさほど息も乱れていない様子でやってきた。


「まあ、おれも色々思うところがあってな」


 ラクトスは顔色一つ変えず頭を掻く。


「お前ら、旅してるんだって? 人捜しの北上の旅、だったな」

「うん。そうだけど、今はそれより、きみの」

「おれ、同行するわ」


 突然の提案に、フリッツは驚きを隠せなかった。


「え、ええ?」

「えー。あんたがついて来るの?」


 フリッツは目を白黒させていたが、ルーウィンは心底不満げな声を漏らした。二人の反応にはお構いなしに、ラクトスはフリッツに訊ねた。


「お前の兄貴、グラッセルで兵士やってるんだって? 強いのか?」

「う、うん。兄さんは凄く強いよ」

「って言っても、最後に会ったの十年くらい前でしょ」


 ラクトスはしばらく右手を顎に当てて考えていた。そしてわざとらしく、今思いついたというようにポンと手を打った。


「よし、お前兄貴におれのこと紹介しろ。それでおれを、グラッセルの宮廷魔術師に推させるんだ」

「ええ! そんな無茶苦茶な」


 突拍子もない要求に、さすがのフリッツも声を上げる。


「言っとくが、お前等は突然ひょっこりやって来て、おれの経歴に傷をつけたんだぞ。責任持って何とかすんのが当たり前だろうが」

「大げさな。あたしたちが来る前からもう沈められかけてたじゃない。それに、フリッツの兄さんがまだグラッセルに居るかもわかんないのよ」


 その手がかりを頼りに、とりあえず北上をしているフリッツだ。確かにアーサーがグラッセルにいるとは言い切れなかった。不確かなことに、簡単に口約束は出来ない。


「その時はその時。自力でなんとかする。とりあえずグラッセルまで馬車に乗るか、冒険者雇うか考えてたんだが、どっちにしろ金がない。むしろお前らに無償で魔法使いの力を貸してやるって言ってるんだ。ありがたく思えよ」


 金にうるさいはずのラクトスから「無償で」という言葉を聞き、フリッツは目を丸くした。


「お金なしで北への旅に着いて来てくれるの?」

「騙されちゃだめよ、フリッツ。そんなうまい話が転がってるわけないでしょ。絶対なんかあるわよ、こいつ」


 ルーウィンに言われ、ラクトスは眉根を寄せる。


「そんなに言うんだったら、別にいいんだぜ? 疑われるのはもうこりごりだしな」

「待って待って! 行かないで」


 行ってしまおうとするラクトスの袖を掴んでフリッツは踏ん張った。


「一緒に来てくれるのはすごく嬉しいんだけど、家族は? どうするの」


 フリッツは問いかける。ラクトスの家庭はフリッツの憧れそのものだった。

 あんなに仲のいい家族から好んで離れたいわけがない。おまけにラクトスは長男で、家計は火の車だという。フリッツの考えを察したラクトスは軽く微笑んだ。


「おれが修練所をやめたことで、家計もだいぶ余裕が出来た。きょうだいの誰かが修練所に通いたいとか戯言ぬかしはじめるまでは、なんとかもつだろ」


 ラクトスはフリッツに向き直った。


「勘違いするなよ、これは交換条件だ。おれは命は賭けないし、お前等がいったいどのあたりまで北上するのかはわからないが、危険だと思ったらその場で降ろさせてもらう。だがパーティを組む以上、出来るだけお前らにおれの力を貸してやる。どうだ?」


 ラクトスは不敵な笑みを浮かべた。

 フリッツにはそれがとても頼もしく思え、大きく首を立てに振って頷いた。一方ルーウィンは腕を組み、まだいぶかしんでいる様子だ。


「ずいぶん勝手な条件じゃない」

「まあな。でもお前たちも手ぶらでこの街から出るわけにはいかないだろ? もっとも、ここで断られたらおれの立場もあったもんじゃない」

「ま、それもそうか」


 ルーウィンがそう答え、フリッツは目を輝かせた。このそっけない返答も、ルーウィンの肯定だとフリッツにはわかったのだ。


 仲間が増える、それも魔法使いだ。

 ラクトスのことがまったく怖くないといえば嘘になるが、根はいい人間だと知っている。なにより昨晩の戦いで見せた彼の実力は相当なものだった。こんなに心強い仲間が出来るとは思ってもみなかった。

 フリッツはさっそく右手を差し出して笑った。


「これからよろしくね」

「ああ、任せとけ」


 ラクトスもその右手に応えた。

 ラクトスという魔法使いを得、旅の仲間は三人目となった。

 そしてフリッツたちは、さらなる北上を目指すのだった。





                                   【第二章 新たな道連れ】



第2章、ここまでお読みいただきましてありがとうございました!

もしお時間よろしければ、次章も覗いていただけると大変嬉しく思います。


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少女とギルド潰し
   ルーウィンとダンテの昔話、番外編です。第5章と一緒にお読みいただくと、本編が少し面白くなるかもしれません。
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