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不揃いな勇者たち  作者: としよし
第12章 帝都の罠
169/357

第一話 ディングリップ帝国(☆)

挿絵(By みてみん)


完結済み作品『この箱庭よりも大切な人に』の作者様、蒼山様から頂きました!


こんなかっこいい登場人物居たかって? 何をおっしゃいます、こちらは主人公・フリッツ=ロズベラーですよ!

 普段は眉が下がっているだけなんです! キリっと上げればこのイラストのように、きっとかっこよくなる……ハズ!

 皆様、戦闘シーンの際にはどうぞ、この素敵なフリッツが雄々しく戦う様を思い描いてください!


 蒼山様、重ねてお礼申し上げます。ありがとうございます!

 完結までにはこのイラストに負けないくらい立派な勇者になれるよう、フリッツ共々頑張ります!



「ボクが目を離した隙に、ずいぶんダメになったんだね」


 漆黒竜団ブラックドラゴン本部、地下空間。

 長い髪を緩く編み込んだ少年が、歩く。


 いや、少年かどうかは定かではない。長い睫に薄い唇、細い体躯を見れば少女のようでもある。幼さが残る面立ちであるが、流れる髪も眉も産毛も、白い。だが時とともに色が抜け落ちたようには見えなかった。

 

 編んだ髪を左右に揺らしながら歩く姿は、まるで無邪気な子供のようだ。しかしその足元には、幾つもの死体が転がっている。

 いずれも黒ずくめに、黒い腕輪を嵌めていた。先日の侵入者騒ぎの際、犠牲になった者たちだ。


「これだけを一人で殺したんだ。けっこうな量を背負ったんじゃないかな。カレ、見込みがあるよ。スカウトしようか、ねえ」


 少年の背後には、黒いマントに身を包んだ男の姿。通称、ボスと呼ばれる人物が椅子に座っている。

 ボスは、何も言わない。まるで糸の切れた人形のように、ぴくりとも動かなかった。

 少年はくすりと笑う。


 死体の腕輪から、黒い靄が溢れ出した。

 それらは生き物のようにざわりと動き、宿っていた肉体を離れていく。何人もの死体から同じように湧き出た靄は、やがて一つにまとまり、大きな黒い塊となって奥へと吸い込まれていった。

 暗闇の向こうで、何かが蠢く。


「そうか、まだ足りないんだね。ディングリップ帝に、またねだってみようかな」


 グチャリと、水気を含んだ生々しい音がする。少年の言葉に、動きを持って返事をしたのだ。

 するすると伸びてきた身体の一部に、少年は愛おしげに頬を押し当てる。生き物の生臭い匂いが、鼻につく。生暖かい、温度を感じる。張り巡らされた血管の中を、体液が通う。

 偉大なる存在は今日も、なんとか命を取り留めている。


 その循環音に耳を澄ませ、少年は静かに瞼を開いた。

 雪のように白い睫に縁どられた瞳は、人に在らざる、赤い色。


ごうをもっとちょうだい、って」











 北大陸唯一の都、ディングリップ。


 北大陸に住む人間の約九割以上が暮らす都市であると同時に、ディングリップ帝の治める国家である。

 冬になれば激しい寒波に襲われ、荒野にはモンスターが跋扈する。そんな険しい環境の北大陸において、人間が唯一繁栄を誇る場所だ。

 中心部にはディングリップ帝の居城が聳え立ち、それを取り囲むように貴族が住まう豪華絢爛な街並みが築かれ、その外側に中流階級の人々が暮らしていた。

 

 ディングリップの街並みは、なかなかのものだった。平屋建てなどは滅多になく、たいていは二階以上、中には七階建のものもある。

 背の高い建物が通りを挟んでズラリと並び、まるで空が狭くなってしまったかのような錯覚を覚えた。空き地のような余分なスペースは無く、限られた土地の中に所狭しと家を築き、多くの人々が生活しているのだ。


 通りは広く、人の量は多いが活気はそれほど無いようだった。街中で陽気な挨拶が飛び交うことは滅多にない。

 道行く人は足早に、淡々と歩き去る。ネコがゆったり道を横切り、鶏があたりをとことこ歩くなどという光景はまったくなかった。


 だが整然と建物が立ち並ぶ様子は壮観であると言える。ガス灯などが整えられ、道路も舗装され美しい。

 中心部を見上げれば、小高い位置に貴族の邸宅や荘厳なディングリップ城が聳え、この北の大地で人々がたくましく暮らしてきた歴史が窺える。

 しかし、どこか寂しく忙しなく感じるのもまた事実だった。



 穏やかな午後。

 水色の空には薄く雲が泳ぎ、日差しも柔らかだ。歩いているのは赤茶けた大地ではなく、整えられた大通り。人々の雑踏にさえ安心してしまう。

 モンスターの影におびえることもなく、常に柄に手を添えていなくともよい。人の住む場所はやはりいいものなのだと、しみじみ思う。


 フリッツは包帯や薬などを抱え、マティオスと共に宿屋へ帰る途中だった。

 やがて荒野と都とを隔てる門の前に差し掛かる。イッカクに跨り、転がるように逃げ込んで来たことが思い出された。


「そういえば、あの時どうやって話をつけてくれたの?」


 数日前、荒野で漆黒竜団ブラックドラゴンに追われ、間一髪でディングリップの門をくぐり抜けた。最近になってようやく手元に入国許可証が届いたが、あの時はまだ許可が下りておらず、すぐに門を通れない状況だったのだ。

 フリッツの問いかけに、マティオスは微笑む。


「ああ。こう見えても、おれは結構色んなところに顔が効くんだ」

「フォーゼル様!」


 門から中年ほどの男性が駆けてきた。門兵の制服を着、襟元に階級章が光っている。マティオスはちらとフリッツに視線をやり、男性に会釈した。


「ああ、どうも。あの時はありがとう、お蔭で助かったよ」

「そのようなお言葉、恐れ多い。先日の私どもの無礼、何卒お許し頂きたい」


 中年男性は息を切らせ、うっすら額に汗を浮かべている。遠目にマティオスの姿を見つけ、急いでやってきたのだろう。


「気にしないで。あなたたちは、外からの侵入者を防ぐのが仕事だ。責務を果たした、それだけのこと。腹を立てるなんてとんでもない、感謝の気持ちでいっぱいだ。どうぞ、戻ってください」

「また何かありましたら、遠慮なく仰ってください。それでは、失礼致します」


 男性は敬礼をすると、足早に門へと戻って行った。それを見届けて、フリッツはマティオスを見上げる。


「もしかして、マティオスって偉い人なの?」

「偉い人が、自らの身を危険に晒して漆黒竜団ブラックドラゴンに潜入すると思うかい?」


 フリッツが首を横に振ると、マティオスは苦笑した。


「少しばかり父の名が知れていてね。この前はその恩恵に預かったってわけさ。種明かしはこんなものだよ。どうだい、格好悪いだろう?」

「さっきの人のあの言い方だと、門を開けてもらう時にかなり交渉してくれたってことでしょ。それにあのまま自分だけ逃げることも出来たのに、マティオスは約束を果たして、ちゃんとぼくらを助けに戻ってきてくれた。みんな感謝してるよ」


 フリッツの答えに、マティオスは目を瞬かせる。


「あの件の発端は、すべておれなのに?」

「でもきみについて行ったルーウィンもいけないんだし。マティオス一人が悪いわけじゃない」

「そう言ってもらえると、少しは気が楽になるよ」


 マティオスはフリッツを見返した。


「でも、これからどうする? まだアーサー=ロズベラーを諦めないのかい?」


 フリッツは思わず俯く。

 ルーウィンが大怪我を負ったため、最近はそのことだけで頭がいっぱいだった。だが彼女の体が良くなりつつある今、今後の身の振り方を考えなければならない。


「もう一度会って思ったんだ。もう兄さんには、何を言っても無駄かもしれない」


 二度目の再会。

 言葉が全く伝わらなかった。アーサーがなにを考え、なにをしたいのか。どうして自分の前に現れたのか。フリッツはアーサーを何一つ理解することは出来なかった。

 そして躊躇いなく剣を交えた。アーサー相手では敵わないという思いはあったものの、兄だから戦いたくないという気持ちは無かった。あの時はあまりにも必死だった。

 それが理由ならいいのだが、もしかすると自分は、もうアーサー=ロズベラーを兄だと認識していないのかもしれない。


 そして自分の発した言葉。いつも邪魔ばかりするという、恨み言のようなあの台詞。

 知らなかった。自分の中にあのような醜い感情が隠れていたとは。


 フリッツは拳を、強く握った。

 アーサーとは、フリッツにとって自慢の兄であったはずだ。優しく頼れる兄であったはずだ。再会を待ち焦がれた、相手であったはずだ。

 またしても、わからなくなった。自分がどうするべきなのか。それどころか、今度は自分自身のことさえわからなくなりそうだ。

 北大陸に来てまで迷いの生じる自分に、ほとほと嫌気がさす。


 難しい顔をするフリッツに、マティオスは言った。


「アーサー=ロズベラーのことはよく知らないけれど、彼を説得するのは難しいと思う。何を考えているのか、まったく読めない。昔から、ああだったのかい?」

「ううん、違う。昔の兄さんはもっと……」


 ふと、思う。

 もっと、どうだったというのだろう。過去の輝くばかりの兄の姿は、確かなものだと言えるだろうか。まだ幼かったフリッツにさえ、偽りの姿を見せていたのだろうか。

 それとも、今の兄の姿こそが偽りなのだろうか。


「わからない」


 道に敷き詰められたレンガに目を落とし、フリッツは呟いた。


「アーサー=ロズベラーを追いかけないなら、きみの目的は無くなったってことだね。船が出るのを待って、南大陸に帰るのかい?」


 マティオスの問いかけに、フリッツは首を振る。

 父親と母親の呪縛は、フリッツには解くことが出来ない。おそらく、何十年かかっても。

 このまま帰っていいわけがない。


「兄さんのこともだけど……別に気になってることも、あって」

「ルーウィンちゃん、かな?」


 フリッツは頷いた。


「このままほっとくなんて、出来ない。きっと体が回復したら、また機を見て復讐を果たそうとするに決まってる。無理に連れ帰ったところで、どうせまた行ってしまう。そもそもぼくには、ルーウィンの行動をとやかくいう権利なんかどこにもない」


 フリッツは、隣を歩くマティオスの顔を見やった。


「マティオスなら、どうする?」

「難しい質問だね。それに彼女に関しては、おれなんかよりフリッツくんのほうがずっと上を行っているよ」


 フリッツはため息を吐いた。自分がどうすべきか教えてくれるのではないかと、少し期待していた。


「ぼくなんか駄目だよ。まるで役立たずなんだから」

「傍にいてあげる。それだけでいいんじゃないかな」


 マティオスは蒼銀の髪を揺らし、優しく目を細める。


「きみは素朴で真面目で、優しいじゃないか。こう見えておれ、嘘はつかないよ。フリッツくんは間違いなく善良で、そして魅力的な人間だ。ほら、口角あげて。そんなに沈んだ顔をしていると、せっかくの幸運が逃げていくよ」


 フリッツは半信半疑ながらも、無理に頬の筋肉を上げてみた。眉は困ったように下がったまま、口元だけは笑っているという、なんとも奇妙な表情をしているはずだ。

 しかしマティオスはそれをからかうことなく、微笑んだ。


「やっぱりフリッツくんはそうしていたほうがいい。笑っているのが、一番だ」


 手放しで褒められ、フリッツは不本意ながらも顔を赤くする。


「……なんだかマティオスに口説かれる女の人の気持ちがわかった気がするよ」


 自分にしかない、絶対の長所を褒められずとも良いのだ。誰もに当てはまるような大ざっぱな事柄でも、笑顔で肯定されれば悪い気はしない。

 何より本人まで、自分はなにかしら価値のある人間かもしれないと、その気にさせる説得力がある。

 そんな折、街角から華やかな女性の一団が現れた。きゃあきゃあとにぎやかに声を弾ませ、若い女性たちはどんどんこちらに近づいてくる。


「マティオス! やだぁ、久しぶりね!」

「こんにちは。久しぶりだね」


 マティオスがにこりと微笑むと、女性たちから甲高い悲鳴が上がる。間近でそれを聞けば、かなりの破壊力である。フリッツはキーンと痛む耳を抑えた。

 女性たちは我先にとマティオスに詰め寄る。


「最近顔見せてくれないから心配したのよ。寂しいじゃない」

「ねえ、どこに行ってたの? みんなあなたの居場所を知らないって言うんだもの。南大陸行の船に乗ったっていう噂もあったし」

「そうそう。野蛮な南の女にとられるだなんてごめんだわ! でも良かった、こうして帰ってきてくれて」


 マティオスはあっという間に囲まれてしまった。フリッツはその横で、どうしたものかわからず身を縮める。鮮やかなフリルや豊かな胸元が迫り、様々な香水の香りが押し寄せる。

 すると、潰れそうになっているフリッツに気付いた女性が声を上げた。


「やだ、この子イモかわいい! マティオスの弟、じゃないわよね?」

「い、いもかわ……?」


 聞き慣れない言葉に、フリッツは眉を寄せる。男相手にかわいいも何もという思いと、どうも素直に褒められている気がしない。

 マティオスはフリッツの肩に手を置いた。


「彼は友人さ。こんな弟が居たら、さぞかし幸せだろうけどね」

「やだぁ小さい! ねえ、あなたいくつ?」

「……じゅ、十五です」

「若ぁい!」


 小さい。

 フリッツにとっては凶器とさして変わらない言葉に、頭を殴られたような衝撃が襲う。哀しきかな小心者のさがで、幼子に問いかけるような質問にも涙目になりつつ律儀に答えてしまう。

 女性たちは悪いことを言ったという認識はなく、きゃあきゃあと騒ぎ立てた。


「ねえボウヤ、ちょっと遊んでいかない? お姉さんがイイコト、教えてあげる」

「へ?」


 長い睫に囲われた瞳からバチンと音が出そうなウインクを飛ばされ、フリッツは素っ頓狂な声を上げる。マティオスは微笑んだ。


「いいね。最近元気なかったし、景気づけにちょっと寄って行こうか」

「ええ?」


 マティオスの言葉に、女性たちは黄色い悲鳴を上げた。静かな通りが爆発したように湧き、さすがに周りの通行人も何事かと目を見張る。


「きゃあ嬉しい! みんな、マティオス来るわよー! 二名様、ご案内ー!」


 華やかには違いないが少しばかり化粧も濃いと思っていたら、どうやら彼女たちはそういう商売の人らしい。

 やたら高いテンションのまま連れて行こうとする女性たちに腕をとられ、フリッツは慌てふためく。


「ちょ、ちょっとマティオス! まずいよ、助けて」

「なにがまずいんだい?」

「なにが、って」


 マティオスは女性の一人の腰に手を回し、首を傾げる。口をぱくぱくさせるフリッツを安心させるように微笑んだ。


「皆優しいから、とって食われたりはしないよ。大丈夫だって、おれもついてるしね」

「だから、そういう問題じゃ……!」

「もう、カタいこと言わないの! 男の子でしょ、楽しみましょうよ!」


 盛り上がった女性の力は、凄まじい。モンスターの群れにも匹敵するに違いない。

 抵抗も虚しく、フリッツは夕暮れ時の華街の一角に引きずられていった。









 すっかり夜も更け、時刻は真夜中を過ぎた頃。


「そこに直れ」


 ドスの利いた不機嫌な声が、宿屋の一室に響いた。

 ラクトスは腕を組み、仁王立ちしている。その前には正座をするフリッツとマティオスの姿があった。フリッツの眉はしゅんと下がり、一方マティオスはいつもどおり飄々とした表情だ。

 フリッツだけに関して言えば、まさにヘビに睨まれたカエル状態だった。


「……誘わなくてごめんね」


 マティオスが小声で言って、悪かったというように片目を瞑って見せる。

 その仕草に、ラクトスの苛立ちは頂点に達した。


「違っげえよ! 金払って女遊びなんざ死んでもゴメンだ!」

「払ってないよ。彼女たち、おれからは料金とらないんだ」

「そういう問題じゃねえ!」


 マティオスに吐き捨てると、ラクトスはフリッツに向き直る。


「いいかフリッツ。別におれは、それが悪いと言ってるんじゃない。お前ももう年頃だ、女に興味を持つのは当たり前。むしろそうじゃないことのほうが不健全だといえる。だが」


 ラクトスはテーブルを強く叩いた。


「お前は未成年だ。真夜中回ってから帰ってくるのは違うんじゃないか。第一、満足に稼いだこともないうちから、そんな場所に行くのは気に食わねえ。行くならしっかり、地に足着いた方法で稼いでから行って来い」


「……あいつ、金で女買うのが生意気だって言ってるだけよね」

「……女性と遊ぶことに関しては否定しないのですね」


 部屋の戸口には寝ぼけ眼のルーウィンとティアラがいた。隣の部屋の騒ぎに眠りを妨げられ、様子を見に来たのだ。


「おれとフリッツくんが一緒に行ったのも気に食わないんだよね」

「だからてめぇは話を混ぜっかえすなよ!」


 マティオスが余計なひと言を挟み、ラクトスの額に青筋が走る。


 背中を丸めたフリッツは、ちらとルーウィンに視線をやった。

 寝間着姿のルーウィンは大欠伸をし、耳をぼりぼりと搔いている。ほっとしたような、虚しいような、よくわからない感情がフリッツを襲った。


 その間にも、ラクトスとマティオスのやりとりは続いている。


「だいたいなあ、てめぇはいつまでここに居るつもりなんだよ!」

「いつまでって、きみたちがこの街から出て行くまで?」

「てめぇはここの出身なんだろ? なら自分の家があるだろうが! とっとと帰れ!」

「そんなこと言っていいのかい? そもそも部屋代、今おれが払ってるんだけど。ここと隣と、二部屋分ね」


 途端に、ラクトスの表情が固まった。

 ディングリップ入国時、ルーウィンを負傷させたことに負い目を感じ、マティオスは宿代の支払いを買って出た。都の宿代は高く、何日も滞在するとなってはばかにならない。

 ラクトスはばつが悪そうに頭を掻くと、あさっての方向を見た。


「……まあ、なんだ。あんまり夜遅くにフリッツを連れ回すなよ」

「うわ、だっさ。退くんだ、そこ」

「お金の力って怖いですね」


 外野のルーウィンとティアラの言葉は聞こえなかったことにして、ラクトスは窓の外を見ているふりをした。


「心配かけてごめんなさい」

「悪かったね。もうしないよ」


 フリッツはしょんぼりと、マティオスは微笑みながらそう言った。

 ラクトスも大人しくなったところで、ルーウィンは声が出るほどの大あくびをする。


「まったく、夜中になにかと思えばくっだらない。ティアラ、行くわよ」

「フリッツさん。思春期は色々多感で大変かと思いますが、ご自分を見失わないでくださいね。わたくしでよければ、相談に乗りますから」


 女性二人は早々と隣の部屋へ戻って行った。バタンと閉じられた音が、どこか虚しい。

 フリッツはガクリと肩を落とす。ルーウィンはまったくの無関心、かたやティアラには優しく諭され、男として立つ瀬がなかった。


「いっそのこと、二人からも罵られた方がよかったね」


 マティオスが爽やかな笑顔と共に言い、フリッツは深くため息をついた。





※イモかわいい……イモ臭い(田舎臭い、おのぼりさん)。だがそれがいい、かわいらしいの略。




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少女とギルド潰し
   ルーウィンとダンテの昔話、番外編です。第5章と一緒にお読みいただくと、本編が少し面白くなるかもしれません。
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