第6話 竜人(中編)
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バルドたちが王都に入ると、ただちに重臣会議が開かれた。
王の面前で事の次第を説明したのは、リシオネル子爵である。
六年前、第一次諸国戦争の折にも王の秘書役を務めていた。
たぶんジュールラントが側近として育ててきた人物の一人だ。
あのころは若かった面立ちが、年輪を加えて威厳を増している。
落ち着いた物腰と理知のきらめきを宿す話しぶりは相変わらずである。
子爵は見事に端的に事態を説明してみせた。
「六月二日のことです。
十人の竜人が、それぞれ飛竜に乗って現れました。
空を飛んでやって来たのです。
一行は、門を飛び越して城の中に降り立ち、広場で飛竜を降りると、王はどこか、と尋ねました。
竜人たちを騎士や兵士が取り囲みましたが、不思議なことに竜人ににらみつけられた騎士は気を失って倒れるのです。
それでも多くの騎士が詰めかけ、あわや戦闘になりかけました。
報告を聞かれた王陛下は、竜人に会う、と仰せになったのです。
さすがにそれは側近一同でお止めしまして、結局クオル伯が王の代理として竜人にお会いになられました」
あとで聞いたところでは、このクオル伯なる人物はウェンデルラント王の従姉妹を妻としており、王族らとの折衝役として活躍してきた人物であるという。
「竜人の代表は、自分はトトルノストトの遣いカントノスカノであり、イステリヤから来た、と名乗りました。
そしてトトルノストトは神獣の宿る霊剣を求めており、この国にそれがあることが分かった。
ついては霊剣とその使い手を差し出すように。
そう要求してきたのです。
クオル伯は、わが国にはあまたの魔剣があるが、そのうちのどれのことか、とお尋ねになられました。
竜人カントノスカノは、五年前魔獣の大群が人間の国を襲ったとき、それを退けた霊剣のことだ、と答えました。
かのロードヴァン城での防衛戦ではその最終局面でバルド大将軍が魔剣を振るわれ、魔獣の残党を押し返したという話は有名でしたから、クオル伯も、これはローエン卿とその魔剣のことに違いないと気付かれたようですが、それは口には出されず、こう返答なさいました。
なんじの要求は無体であり、われらはそれに応じる必要はない、と。
そのときです。
それまで堂々と竜人に相対しておられたクオル伯が、かくんと体を落とされたのです。
私はクオル伯のすぐ後ろで見守っていたのですが、クオル伯はまるで立ったまま眠ったかのようでした。
そして活力をなくした平坦なお声でおっしゃいました。
なんじらの求めるものは、辺境の騎士バルド・ローエン卿とその佩剣だ。
ローエン卿ははるか辺境の奥地に住んでいる。
この国と縁は深いが臣下というわけではない。
ただし現王陛下が命じられればローエン卿はそれに従うだろう。
そこまで口になさると、クオル伯はその場にくずおれなさいました。
私は慌ててクオル伯の体を支えました。
竜人カントノスカノは大声を発しました。
いえ、それは声ではありませんでした。
心の中に響く声でした。
私やその場に居合わせた者たちはもちろん、王宮の中のかたがたにも、その声は聞こえたのです。
竜人カントノスカノは言いました。
『この国の王よ。
バルド・ローエンとその霊剣を差し出せ。
遠いというなら時間を与える。
来年の一月一日に、われらは再び来る。
そのときに差し出せ。
さもなくばこの城とそこに住む者を滅ぼす』
竜人カントノスカノはそう言い残し、仲間とともに去っていったのです。
その後クオル伯はご静養なさっておられます。
クオル伯のおっしゃるのには、
『竜人のまん中の目が光ったとき魅入られてしまった。
起きていることは見えているし聞こえているのだが、自分の体が自分の自由にならない。
もう一人の自分が体や口を動かしていて、そのもう一人の自分は竜人の言う通りにするのが正しいことだと思い込んでいるのだ』
とのことでした」
重臣の一人がリシオネル子爵のあとを引き取った。
「このことについて重臣会議が開かれました。
わしは、こう発言したのです。
事は竜人たちとローエン卿の問題なのだから、ローエン卿をお呼びすればよいと。
そして竜人たちが来たらローエン卿を引き合わせる。
あとはローエン卿と竜人たちが話し合ってくれればよいと」
別の重臣が発言した。
「それはできん、とわしは言いました。
バルド・ローエン卿は、わが国にとり大功ある騎士。
恩人、といってもよい。
その名望はあまりに高い。
大将軍ともなられ、歴史上唯一のワジド・エントランテともなられたかたです。
亜人どもの脅しに屈してローエン卿を引き渡したとなれば、国の面子が立たない」
最初の重臣が反論する。
「亜人どもの要求が暴力的なものと決まったわけでもあるまい。
やつらがローエン卿に面談を求めておるのだから、それを取り次げばよい。
そこから先のことは、そのときのことだ」
「やつらはローエン卿に会いたいと言ったわけではあるまい。
引き渡せ、と言ってきたのであろう!
かの魔剣をおのれのものとし、使い手であるローエン卿に何事かを強いる心算に違いない。
だがそんなことは問題ではない。
事が周囲からどうみえるかが問題なのだ。
誰がどうみても、パルザムは亜人の脅しに屈してローエン卿と魔剣を引き渡したようにしかみえんわ。
それではわが国は信義を失う」
二人の重臣が言い合っている。
バルドは気付いた。
これは二人の意見が対立している、ということでもない。
重臣たちの腹の底にあるものを、あえて二人が代弁してみせたのだ。
初めに発言した重臣が、
「騎士リークを、これへ」
と命じた。
すぐに騎士リークが広間に招き入れられた。
「ローエン卿。
この者は、間近で竜人と飛竜を見た者です。
騎士リーク。
やつらの印象を述べよ」
「はっ。
竜人は人間より頭一つ高い身長でした。
全身は鋼をねじり合わせたようであり、特に頭部や腕は、ひどく頑丈そうにみえました。
不思議なのはその眼力です。
やつらは三つの目を持っているのですが、額にある目が光ると、近くにいる騎士も兵士もばたばたと倒れてしまうのです。
どれほどの戦闘力があるのかは分かりません。
しかし恐るべき強さを感じさせました。
飛竜は、翼を広げた横幅は左右に二十歩以上ありました。
胴体部分は、軍馬の三倍以上の大きさと重さがあるように見受けました。
頭部は打ち金のように張り出しており、巌のような質感がありました。
脚部は太く硬く、鋭い爪を備えておりました。
これが竜人を乗せて空を飛ぶさまはとてつもない脅威を感じさせました。
その重量感と速度は、思い出しても震えがくるほどです。
想像でありますが、おそらく見張りの塔などは、あの飛竜の一撃を受ければ崩れてしまうかと思われます。
突撃を繰り返されたら、この城といえど、持ちこたえることは困難かと思われます」
「控えよ!
そうさせないように守るのが、貴卿らの役目であろう。
余計なことを申すでない。
よい。
下がれ」
「はっ!」
怒鳴り声を上げながら、重臣の表情はこわばっている。
白く凍り付いている、といってもよい。
いっぽう、バルドを引き渡すのは国の面子に関わると発言した重臣は、けげんそうな目でやり取りを見ている。
バルドは、ああなるほど、と思い当たった。
バルドを竜人に引き渡すべきだという意見を持っているのは、おそらく実際に竜人や飛竜を見た重臣だ。
竜人たちが大挙して襲いかかってきたら勝てない、と彼らは考えている。
無理もない。
相手は空から来るのだ。
弓矢ぐらいしか迎え撃つ方法がない。
しかもその戦闘力や破壊力は、人間の常識では考えも及ばないほどのものであるらしい。
竜人たちと戦争をしてはならない、と彼らは考えているのだ。
いっぽう、実際に竜人たちを見ていない重臣たちは、そこまでの危機感を持っていない。
亜人ごときが王城に入り込んで無法な要求をしてきたと考えている。
ここでジュールラントが口を開いた。
「ローエン卿。
御身がこんなにも早く来てくれて助かった。
なにしろ竜人などというものがこの世にいたという、それだけで驚きなのだ。
やつらが御身の魔剣を手に入れて何をするつもりなのか。
なぜ御身の身柄までが必要なのか。
何か心当たりはないか」
バルドは、どこまでをこの席で話せばよいか、少し迷った。
バルドの魔剣が不思議な光を放った事実は、少なくとも二度、この国の宮廷には知られているだろう。
一度は六年前のロードヴァン城で魔獣たちを追い払ったときだ。
もう一度は五年前のゴルト平原で物欲将軍と戦ったときだ。
なぜかこの二度は、魔剣スタボロスの放つ光が誰にでも見えた。
だからこの魔剣が普通の魔剣とは違う特別な力を持っていることは、もうこの国では広く知られている。
だが、古代の魔剣が神霊獣の宿る剣であったとか、物欲将軍の寿命と肉体と力はその剣の力を吸い取ることで得たらしい、といったことは、ごく一部の人の知識にとどまっている。
その謎はバルド自身今まさに追究しつつある謎なのであり、この場で不確かで断片的な情報を述べたてるわけにもいかない。
それは無用の欲や混乱を呼ぶことになる。
そこでバルドは、これはつい先日、ジャミーンの勇者イエミテ殿から聞いた話であると前置きして、竜人についての知識を述べた。
かつてこの大地に人が増え広がる前、竜人はあらゆる種族を支配し抑圧し、食料とさえしたこと。
その戦闘力は強力そのもので、かろうじて対抗し得たのはゲルカストだけであったこと。
だが〈偉大な王〉が竜人を大障壁の外側に追い払ったこと。
竜人の詳しい情報については、ゲルカストに訊くべきであること、などである。
中原の国々が興る前の古い古い時代の歴史を亜人が語り伝えていることに、一同は異様の感に打たれたようだ。
最後にバルドが言った。
わしがゲルカストの元に参ろう。
ゾイ氏族のエングダル殿とは懇意な仲。
事情を話し、ここに連れて来ることといたす。
まずはエングダル殿から、竜人の正体について聞いてはどうか。
まだ時間はある。
竜人にどう対処するかは、それを受けて相談されてはいかがか。
会議はこの提案をもっともなことだと受け入れて閉会した。
バルドは一行を連れてロードヴァン城に向かった。
5
ロードヴァン伯爵デュッセルバーンに快く迎えられ、バルドはここで二泊した。
ミスラの街や、パルザムの王宮などより、この辺鄙な城のほうがずっと居心地がよいのは不思議なことだ。
いや。
もう辺鄙な城とは呼べない。
すさまじいばかりの繁栄ぶりだった。
始めこの城がゴリオラ皇国のものとなり、デュッセルバーンが封じられることになったとき、関心を示した貴族はほとんどなかったと聞いている。
あまりに皇都から遠く、資源に乏しく不毛な地であったからだ。
防衛拠点としては重要であるかもしれないが、ただそれだけだと思われていた。
しかし貿易中継点としての働きが明らかになるにつれ、商人が立ち寄るようになり、やがて大商人たちがここに代理人を置くようになった。
パルザムからの物資もさることながら、パルザムを経由してロードヴァン城に持ち込まれ、そこからゴリオラ皇国に持ち込まれる品々は、あきれるばかりの高値で売れた。
香辛料、織物、貴石宝玉、特殊な木材とその加工品、多種多様な酒類などは、徐々に皇都になくてはならない品となっていった。
また、ゴリオラからは珍奇で希少な毛皮、武器、薬草を始め、やはり南方で高値で取引される品が輸出された。
取引がある一定の量を超えたとき、ゴリオラの貴族や大商人たちは、ロードヴァン城に大量の商品を持ち込んで、そこで取引相手を探すようになった。
商隊は数週間あるいは数か月そこに滞在し、パルザムの商人たちにそれを売りさばく。
そして自分たちもパルザムからの商品を仕入れて皇都に帰るのだ。
以前ならそんな長距離を移動しての商売では、大した利益は出なかった。
売れるという約束や見込みが立った品だけを運んだのである。
だが今は取引の量がけた違いに増加しており、しかも両国の商人の出入りも盛んであるから、ほとんど待ち時間なしに商売が終わる。
今やロードヴァン城は一大貿易都市となりつつある。
便宜を図ってくれと頼み込んでくる貴族たちに、デュッセルバーンは条件を出した。
人が欲しい、と。
各貴族たちからは、農民たちが贈られた。
気の利いた貴族は、腕の良い職人を移住させた。
今や、農民と職人を合わせた人口は二千二百人に達しているという。
その人数でさえ、膨れあがる一方の需要に追いつかないのだ。
広大なロードヴァン城が手狭になり、隣接して二つの街を建設する計画が進んでいるのだという。
実のところ、軍事拠点としてのロードヴァン城は、以前のような重要性を持っていない。
だから皇都としては自立のめどが立てば援助は打ち切る予定だった。
しかしここまで商隊の往復が盛んになると、やはり護衛としての騎士団を充実させないわけにはいかない。
マイラオ城に細々と再編される予定だったゴリオラ辺境騎士団は、本拠をロードヴァン城に置くことに変更され、以前の三倍の規模で今編成されつつあるという。
その辺境騎士団は直接ロードヴァン伯爵デュッセルバーンの支配下にあるわけではないが、強い影響力を持つことになる。
いずれにしても新設される辺境騎士団がロードヴァン城を拠点とした防衛戦力である以上、ロードヴァン城の軍事力は飛躍的に高まることになる。
つまり、国から援助を受けなければ立ち行かない辺鄙な防衛拠点に封じられたはずのデュッセルバーン伯爵は、今や強大な軍事力と経済力を持つ諸侯にのし上がろうとしているのだ。
ちなみに、ロードヴァン城の西側と南側の広大な地域は、ガイネリア国の勢力圏となっており、ここを通過するには一定の通行税を払うことになっている。
この額は年額で決定されかかっていたのだが、ガイネリアの貧相な外務大臣は、
「年間いくらと決めてしまえば、ロードヴァン城の経済に大きな負担になるかもしれません。
ここは、ロードヴァン城が商人の方々から徴収した税金の年額の千分の一を頂く、ということでいかがでしょうか」
と言い出した。
当時の見込みでは、ロードヴァン城で徴収できる税金は通行税だけで、それも年間微々たるものでしかなかった。
このまったく無欲な提案をゴリオラもパルザムも満面の笑顔で承認したのだった。
だが今やその千分の一という金額は、恐るべき金額となった。
なにしろ、商売のほとんどはロードヴァン城で行われるのだ。
しかも恐ろしく高額な取引が。
ロードヴァン城では、入城税のほか、取引高に応じた税を徴収した。
千分の一税の金額は、次第にデュッセルバーン配下の会計官を青ざめさせる額に膨らんでいった。
今ではガイネリアの巡回騎士隊は、このロードヴァン城を補給基地にしている。
宿泊施設や食料その他をもって、千分の一税の一部にあてているのだ。
この税収は小国であるガイネリアにとっては非常に大きな収入である。
ガイネリアの都は好景気に沸いているという。
そしてガイネリアからみれば、この広大な地域を勢力圏に収めたのは暴風将軍ジョグ・ウォードの働きによるものだ。
ジョグの声望は天井知らずに上昇しているらしい。
ロードヴァン城を出たバルドたちは、ゲルカストの居留地に向かった。
最初に出会ったゲルカストとは話が通じず、戦闘になりかけた。
しかし何とかエングダルの客だと理解してもらえ、バルドはエングダルと久々の再会を果たした。
その夜は宴会となった。
族長代理の勇士ヤンゼンゴが、メリトケが、そして多くのゲルカストが同席した。
ヤーツという家畜は、なるほど非常な美味だった。
エングダルは、
「ザイフェルトとかいう、あの男は来られなかったのか」
と訊いた。
バルドは、死んだ、と答えた。
とてつもない敵と戦って見事に死んだ、と。
エングダルは、
「そうか」
と言い、無言で月に杯を捧げた。
6
一晩飲み明かした翌日、バルドは用件を切り出した。
事情を聞いたエングダルは言った。
「竜人は古き約定を破った。
人間には関わらない。
大障壁の内側には、できるだけ立ち入らない。
それが〈偉大な王〉と竜人とのあいだで交わされた約定だった。
その約束をして、やつらは滅びを免れたのだ。
やつらが約定をたがえるというなら、わしたちが糺す。
バルド・ローエン。
パルザムの王都に、わしらを連れて行け」
エングダルの率いる五十人のゲルカスト精鋭が同道することになった。
勇士ヤンゼンゴは残念ながら留守番となった。
メリトケは五十人のうちに選ばれて得意顔をし、ヤンゼンゴに殴り倒されていた。
一行はいったんロードヴァン城に入った。
ここからパルザムの王都に向かうには、どうしてもいくつかの街を経由しなくてはならない。
時間が惜しいので、ミスラ経由ではなく直接王都を目指すのだから、寄らなければならない街は増える。
また、ガイネリアの支配地域を通らなくてはならない。
案の定、ロードヴァン城を出てからすぐに、ガイネリアの騎士団と出くわした。
いくつもの分隊に分けて広く巡回しているようだ。
それにしても、この広い砂漠の中でよくも的確に見つけたものだ。
ジョグ・ウォードが指揮するようになってから、ガイネリアの騎士団は獣じみた嗅覚を持つようになったとでもいうのだろうか。
初めはどうしてこんな所にゲルカストの集団がと驚いていたが、幸い相手はバルドの顔を知っていた。
ロードヴァン城の防衛戦に参加した騎士たちが大半だったから、これは無理もない。
ひどく懐かしい様子で敬意に満ちた態度を取ってきた。
またパルザム王直々の身分証明書を持っていたから、これは難なくやり過ごせた。
問題は街に入るときだ。
パルザム王の発行した通行証はあるが、これはエングダル一人を対象としたものであり、五十人ものゲルカストの軍団を想定してのものではない。
また、いずれにしても各都市には自治権があり、不穏な者の通行は簡単には許してくれないだろう、とバルドは考えた。
これは杞憂に終わった。
街に着くなり、タランカが、
「これは王都に向かう勅命の一行なり!
指揮官は元の連合元帥バルド・ローエン卿!
友誼を結ばんとするゲルカストの勇士五十名をお連れするものなり!
速やかに通行許可あられたい!」
とやったのだ。
どこの街でも衛視の一存では済まず、責任者が出て来たが、バルドの名は意外に売れていたようで、
「ば、バルド・ローエン卿が、ゲルカストを案内して都に。
なるほど!
さすがはローエン卿」
などと妙な感心のしかたをして、王の名で出ていた通行証もろくに改めず、通してくれた。
それでも無人の荒野を行くようなわけにはいかず、王都に帰着したときには、すでに十月だった。
7
ただちに重臣会議が開かれた。
エングダルは竜人について知っていることを言い、最後にこう言った。
「竜人は、他の種族を見下している。
やつらが、いにしえの約定を破り、人間族に手出しをするとすれば、それは何のためか。
魔剣を欲しがるのは、何のためか。
決まっている。
力を得るためだ。
得た力で何をするのか。
決まっている。
再び他の種族を支配し、君臨するためだ。
やつらは他種族の心を操る不思議なわざを使う。
これに抵抗できるのはわれらゲルカストぐらいのものだ」
重臣会議の意見は決せられた。
バルド・ローエン卿とその魔剣は、竜人に渡さない。
たとえ武力に訴えてでも。
2月4日「竜人(後編)」に続く