変身 のち 決着 時々 帰宅
さっそくですが問題です。
あなたの目の前には、動く石像が立っています。(ドラ〇エに出てくるような)あなたはどういった行動をとりますか?
①戦う(決死覚悟で)
②逃げる
③仲間を呼ぶ
まあ普通は逃げますよね。戦うなんてもってのほかです。仲間を呼んでる最中にだって、敵からは攻撃がくるのですよ。大体仲間を呼んだって意味がないことくらいわかってます。だって、干渉しないんですもの(涙)と、いうわけで私は選択肢②を―――
「砂飛礫!!」
「うぉぉぉぉ!?」
選べたらいいですよね~。俺は今、避けるので精一杯です。背中を見せたら遣られます。確実です。そう、確実なのです!!
「くそったれ!切羽詰ってるせいか、脳内変換がおかしい!」
てなわけで、そろそろ普通に戻そうか。しかし、反撃の兆しどころかマジで避けるのだけで精一杯だ。確か、この砂女の話によると、俺が触れているものには干渉できるが、触れていないものは干渉できない。できないが、触れることはできる。う~ん、なんだかややこしいな。つまり、『触れることはできるが、ダメージを与えたり、破壊することはできない』という認識で良いだろう。そこで俺は跳び荒れる砂飛礫を上手く掻い潜りながら、小石を掴んだ。
「たまには攻撃くらいさせろよな!」
「!?」
掴んだ小石を思いっきり砂女に投げつける。砂女がちょっとびくっとしたのがわかる。そして、そのまま小石は砂女の二の腕に当る。しかし―――
「ふふ・・・。馬鹿じゃない?こんなの痛くも痒くもないわ。」
強がりで言っているわけではなさそうだ。どうやら俺が触れていないと、ダメージは届かないらしい。となると、砂女と戦うには接近戦しかないってことだ。しかし、あの砂飛礫を飛ばしまくる中を前進する勇気は俺には無い。ああ、俺がダル〇ムだったら腕が伸びたのに。
「そろそろ諦めたほうがいいんじゃない?私もその方が楽だし。」
「あいにく諦めが悪いほうでね。まあ、単なる優柔不断ってヤツだけどな。」
「へえ、何に迷っているのかしら?」
「このまま負けちまおうか、それとも勝ちに行こうかなと考え中。」
「じゃあ、そろそろ行動でそれを見せてもらおうかしら。無理だと思うけどね!」
砂飛礫がガンガン飛んでくる。俺はそれを反復横跳びの要領で右に左に動きながらなんとか避ける。避けながらも、俺は東屋を支えている柱に近づいていた。
「必殺、身代わりの術!」
叫びながらも俺は柱の後ろに廻った。こうすれば正面からの攻撃はなくなるだろう。ビシビシバシっと砂が柱に当る音が聞こえる。やはり俺が触れていないから柱はノーダメージらしい。
「なるほどね。そうやって柱を壁にすれば確かに私は無力だね。」
砂女の関心したような声が聞こえる。気づけば砂飛礫の音も止んでいた。
「ふふ、どうする?降参するか?」
「馬鹿言わないで。なんで隠れてるヤツに降参しなきゃいけないのよ。」
そりゃそうだ。
「大体、あんたの狙いなんてわかってるんだから。」
どうやらバレてるみたい。
「私を攻撃するには遠隔攻撃はできない。なぜなら、干渉しないから。となれば、至近距離でしかあんたは私に攻撃ができない。柱の陰に隠れれば、私の攻撃は届かないから私はあんたに近づくしかない。でもね、攻撃されるとわかってて近づくのは愚かなことよ。」
やっばいな。やっぱりバレてる。
「てわけで、私はあんたに近づかない。だけど、このままじゃ埒があかないから・・・」
それだけ言うと砂女の走る音が聞こえる。どうやら柱を回りこんで俺を攻撃するみたいだ。
「こうすれば、あんたに攻撃できるんだから!!」
予想はズバリ的中し砂女は、俺に砂飛礫を飛ばしてきた。俺は絶対絶命。そんなところか。
だが―――
あんたの考え、半分しか正解してねえよ。
ドムッという何か硬いものを殴るような音が響く。
「ぐ・・・。」
砂女の鳩尾に俺の拳がもぐり込んでいた。正直殴るという行為は俺にとって、かなり初めての経験だ。しかも女性を殴るのは気がひける。でも、砂飛礫をガンガン飛ばしてくる相手に対し、甘く考えてたら今頃蜂の巣にされている。かといって追い討ちをかけるほど、俺は心を鬼にしたつもりは無い。
「な、なん・・・で?」
どうやら見事に喰らったらしく、かなり苦しそうな声を砂女は上げた。その声には多少の戸惑いも感じられる。
「あんたの考え、半分は正解だったよ。」
砂女が柱を廻りこみ俺に砂飛礫を放ったとき、俺は学ランを投げつけていた。回り込むとはいえ5メートルも10メートルも放れるわけがない。そんなことをしたら砂飛礫が当らない。俺の手が届かない距離にいれば大丈夫なのだから、必然2メートルから3メートルの距離になる。ただ、届かないのは手だけだ。だから俺は学ランを投げた。
「学ランが俺の手から離れればあんたの攻撃は学ランに被害は出ない。でも、攻撃は干渉しなくてもあんたに学ランだけは届くわけだ。」
先ほどのブランコを見ればわかるが、俺が手を触れていないものに精霊の攻撃は通用しない。だが、精霊は人間界の物に触ることができる。つまり、学ランは俺の手を離れることで、精霊の攻撃を全て打ち消す壁になった。たとえ砂女の攻撃が学ランに当ったとしても、学ランが飛んでくるのを止めることはできない。当然砂女に学ランは当る。それによるダメージは無いだろう。しかし、頭から学ランを被ってしまえば多少なりとも攻撃の手は休まる。俺は瞬時に距離をつめて、砂女の鳩尾に拳を叩き込んだのだ。ちなみにこの作戦を考え付いたのは、小石を投げた時だ。あの時、小石は砂女の二の腕に当った。なぜ砂飛礫が荒れ狂う中、簡単に石が当ったのか。それは小石に当った砂飛礫は小石に干渉できなかったからだ。勢いすら干渉できないことを見て、すぐに閃いた。
「柱に、隠れたときに、学ランを、脱いだってわけね。」
「正解。」
どうやらまだ苦しいらしく砂女の声は途切れ途切れだ。俺は拳を突き入れたまま、砂女の体を左手で支える。すると、砂女はくすくす笑うように微かに震えた。
「まったく、女性を殴る、なんて、男の風上にも、おけない、わね。」
「言うな。だいたい、砂を弾丸みたいに飛ばしてくる女に言われたくねぇな。」
「だって、私は精霊だもん。それぐらい、の、アドバンテージは持っててもいいんじゃない?」
「いくらなんでもガンガンぶっ放しすぎだ。再開でもするかい?」
俺の言葉を聴いて、砂女はふるふると首を横に動かした。
「再開しても負けるわ。私の攻撃が届く前にあんたの攻撃の方が早い。」
「そうか?まあ、俺としては戦い再開にならなくて嬉しい限りだが、さっきみたいに城の姿になれば勝てるんじゃねえか?」
「・・・正直、言いたくないんだけどさ。あんたの拳、かなり痛いんだけど。そのせいで集中できないの。」
「そ、それは・・・すまん。」
「ふふ。わかれば宜しい。」
なんで俺は謝ってるんだろう。という疑問はさておいて、俺はそのまま砂女を支えながら公園のベンチに座らせた。不意打ちをされるとも考えたが、先ほどの言葉を信じることに俺は決めていた。
「人間の物理攻撃がここまで痛いとは知らなかったわ。」
「俺も正直痛いんだけどね。」
さっきまでは戦闘による興奮によって痛みを忘れていたが、俺の右手がジンジンと痛みを訴えているのがわかった。相手は砂の塊。それもかなりの密度だから自然と硬くなっている。そこに俺はパンチをしたのだから痛いのは当たり前だ。
「精霊界は物理攻撃なんて使わないからね。こういう痛みは初めて。体の奥にズシーンってくるような、なんかこう、体に残るような感じ。」
「・・・・・・」
なんかちょっとだけエッチな感じがしたけど、俺は気にしないことにした。コレを中二病っていうんだろうか。しかし、俺のそんな考えを知ったのか砂女はニヤリと底意地悪い笑顔を見せて口を開いた。
「そうなるとコレって初体験になるのよね。痛かったし、いきなりお腹に突き入れるなんて」
「なんでそうなる!?どんだけ鬼畜なんだよ!大体、いきなりそっちの話に飛ぶのは話の流れ的におかしいだろ!?」
「あははははっ!」
俺の突っ込みに砂女は笑う。痛みは多少引いたらしく今では普通に話していた。そして彼女は胸元を正すと、そこから首飾りを取り出した。かけられているペンダントの色は真っ赤に燃えるような『赤』だった。
「どうする?これ。」
「は?どうするってなんのことだ?」
「だから、私は戦闘に降参したから首飾りを破壊するかってこと。あんた、首飾りの色『青』でしょ。」
言われてちょっとドキッとしたが、学ランを脱いでいるためワイシャツから首飾りが透けている。傍からみても青く輝いている石はワイシャツ越しに見ても、キラキラと輝いていた。
「私、赤だからさ。しかも負けちゃったから『人間界』に入れるか、精霊界に変えるかはあんた次第なんだけど。」
「・・・・・・」
白だったら俺と同じ青に染めればいい。だが、赤の色がついた物は変えることはできない。ここで精霊界に返しておかないと、砂女は敵として前に現れるだろう。だが―――
「いや、壊さんよ。」
俺の言葉を聴いて、半ば予想していたのか砂女は苦笑した。
「良いの?私を残しても、次に会う時が会ってもは必ず敵だわ。」
「ああ。それでも良いよ。」
「なんで?」
砂女から純粋な瞳で見つめられた。俺は彼女から学ランを取り羽織る。
「子ども達がさ、嬉しそうだったろ?あんたもそれが楽しんでいるような気がした。それだけだよ。」
「・・・・・・」
砂女の表情がしばし止まっていたが、やがて嬉しそうに微笑んだ。
「わかった。ありがとうとは言わないよ。だって敵同士だから。」
「まあ、そりゃそうだな。」
「でも、一つだけ約束するわ。人間界に居させてくれる代わりに、あんたが首飾りをしてることは秘密にする。そうしないと、『赤』はあんたをリンチするだろうから。でも自然にバレちゃったらどうしようもできないけどね。」
「助かる。・・・ていうか、精霊からリンチ喰らうのは流石に嫌だな。」
盲点だった。確かにこのままにしてれば俺の首飾りを破壊しようと『赤』の精霊が押し寄せてくるだろう。それだけは避けなければ、俺の心と体が持たない。
「最後に私の名前は『サンディ』よ。あんたのことだから私のこと『砂女』とか呼んでたでしょ。」
「げっ。バレてる。俺はリョウだ。そう呼んでくれ。」
「リョウ・・・ね。次にやる時は負けないからね。」
その言葉を聞いて俺は微笑み返すと立ち上がった。
「それじゃあ、またな。」
その言葉を聞いて、砂女もといサンディは本当に驚いたらしくぽかんとした表情を見せた後、ニッコリと微笑んだ。
「うん。またね。」
嬉しさが混じったサンディの声に対し軽く手を上げて答えた。そして二人の精霊が待つ自宅へと足を伸ばすのであった。




