雨のち煩悩、笑顔 そして出会い
1話目から長いですが、飽きずに読んでくれたら幸いと思います。
雨が降っていた。
常に雨が降っていた。
土砂降りではなく、かといってシトシト振る雨でもなく、ただ静かに淡々と雨が降っている。
風は無く、天から降り注ぐ雨は地上に向かって一直線である。
そんな中、一人の青年がポツンと立っていた。
体の心からずぶ濡れといった様子で髪も遠めで見てもわかるくらいに濡れている。
学ランを着ているから、中学生か高校生といったところだろうか。
俯く様に顔を伏せているため、彼の表情はわからない。
そもそも、彼は私に背中を向けているので、表情がわかったら逆にすごい。
ただ、その姿は、悲しんでいるような気がしてならなかった。
私は、気にしないようにしつつも、彼のことをついつい見てしまう。
どうしようか・・・声をかけようか・・・無視しようか・・・。
私が悩んでいる間も、彼は身じろぎ一つしない。
幾つもの選択肢が浮かび上がり、やがて私は一つの選択をした。
『彼に触れてみよう』と。
ゆっくりゆっくりと私は彼に近づいた。
悲しんでいるような青年にバチャバチャと音を立てて近づく勇気は、私にはなかった。
後残り3メートル弱・・・。2メートル・・・。そして・・・1メートル。
遂に手を伸ばせば触れることができる距離まで私は近づいた。
ここまで近づいたのに、彼は私に気づくことは無い。
私は自分の手をみて、握ったり開いたりをした後、彼の背中にゆっくりと近づける。
その時―――彼が上を向いた。
あまりにも唐突すぎる行動だったため、私の手は止まり―――
「ふわぁぁぁ。よく寝た~・・・」
「・・・は?」
そのまま背伸びをする青年を見たまま、思わず言葉が漏れていた。
後ろで声が聞こえたので、俺はゆっくりと振り向いた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
誰?この子?
てか、美人だし。いや、美人40%可愛い50%で、残りの10%は何かだと思う。何かっていうのはアレだ。こう、言葉では表現できないものって奴だよ。そう、それだ。
しかし俺ってば、立ったまま眠るってどうよ?昨日、78時間テレビを一睡もしないで見たからといって、これは無いな~。学校の授業は何とか寝なかったけど、さすがに無理だったか~。雨降っても気づかないとは、自分に呆れちまうね。服もビショビショだし、心もすさまじくビショビショ。そして、目の前の美人少女(?)もビショビ・・・
「!?」
「・・・?」
俺は彼女の顔から視点を少し下げた状態で、フリーズした・・・が頭の中では状況を必死で分析中。
いや待てこれはその何だ雨が降ってますそう降ってます私はいまビショビショでもちろん服もスケスケなんですが目の前の少女もまったく同じ状況になってますがこれは一体どういうことですかしかもいくら梅雨時だからってノースリーブは不味いしまあるい膨らみが見えるってことはノーブいやいやそんなこと考えるなてかお前傘持ってねえのかよいや俺も持ってねえけどさでもこのままだと俺が変態扱いになるのかいやここは変態扱いになってもいいからこの目の前のユートピアを一秒でも長く目に刻みつけいやまてそれは良くないぞ俺とにかく落ち着―――
「あの・・・」
「!?・・・な、何でございますでしょうか?」
「あの・・・寒くないですか?」
あんたのおかげで、心は燃え盛ってますよ!しかも体の一部分も反応しそうでかなり限界ですけどね!てか、これは本当に何?ご褒美?ドッキリ?あるいは、恐いヤクザの兄ちゃんのアレか?個人的にはご褒美が良いけれど、世の中そんなに甘くない!はずだ。
「何か着たほうが良いですよ?」
あ・ん・た・が、着ろー!!何この人。自分いいこと言ったーみたいに微笑みやがって!
・・・か、可愛いじゃねえかよ。
・・・ハッ!ヤバイヤバイ、思わず赤面してしまった。って、そうか!服を着させれば良いのか。俺って頭良い!手持ちの服は持ってないけど、自分の服を着せさえすれば、今のビショビショスケスケ状態からは逃れられるはずだ!!
俺は急いで学ランを脱ごうとすると、目の前の少女は驚いた。
「な、何で服を脱ごうとするんですか!?私は何か着た方がいいと―――」
「いや、俺の心は一向に燃えている!!雨なんか蒸発する勢いだから、大丈夫なんだ!!」
「何を馬鹿なことを言ってるんですか!?」
「それ以上近づいちゃダメだぁぁぁ!!俺のハートが飛び火して、偉い処に飛び火しちまうぜぃ!!」
学ランを脱ごうとする俺に近づこうと少女がした時、俺の口からコンマ数秒単位で言葉が飛び出した。いや、近づかれたら見えてはいけない禁止ゾーンが見えそうでヤヴァイのですよ。
雨を吸った学ランは結構重く脱ぐのに手間取ったが、俺は何とか脱ぎ終えてそれを少女の頭にかぶせた。
「もがっ!?!?!?」
いきなり学ランを被せられてパニックになったのか、彼女はバタついている。俺はそれを見て少し微笑ましいな~なんて場違いなことを考えていた。
「俺の心は燃え盛ってるから、あんたにこの学ランを授ける!そして着てくれ!」
「いや、だから―――」
「着てください!お願いします!じゃないと、俺の心がオーバーヒートしちまいますから!!」
「わ、わかりました。」
その声を聞いて、俺は少し安心した。これで少しは正常な思考能力に戻るだろう。とはいえ、着替えを見るというのも思春期真っ只中(暴走の可能性有)の俺にとっては刺激が強すぎる。よって、ここでのベストの選択は―――
①ガン見(着替えを)
②着替えを凝視する
③嘗め尽くすような視線で彼女の肢体を―――
待て待て待てぇぃ!!そんなに俺は見たいのか!?いや、見たいですよ!?正直者万歳!!でもでも、時には正直は仇になるよ絶対。だから俺は涙を飲んで④の背を向けるを選択しよう。ああ、畜生。
「あの・・・良いですよ。」
しばらくして、後ろから彼女の声が聞こえた。俺が振り返るとそこには学ランを着た美人少女が居た。俺はここで一つの真理を知った。美人少女は何を着ても美人だ。本当にそう思う。てか、ビショビショスケスケワンピースの上に学ランって、ヤヴァクね?なんかさっきよりも、刺激が強いような気がする。
「あの、顔が赤くなってますけど大丈夫ですか?やっぱりコレを着た方が」
「大丈夫です!もともと顔が赤いんだ、俺は!」
「そ、そうですか。」
ちょっとビクリとしながらも彼女は頷いた。驚かすつもりはなかったが、これ以上俺のハートをビートさせるわけにはいかない。さて、いくら梅雨時のそんなに冷たい雨ではないとはいえ、流石にワイシャツで雨打たれるのは辛い。雨から逃れたほうがいいな。
「お、あそこに公園がある。あそこなら雨宿りできるだろ。」
「あ。そ、そうですね。」
俺が指差した方には、少し大きめの公園があった。昔からよく遊んだ場所だから、屋根がある場所だって知っている。少し戸惑い気味の彼女を先導して、屋根のあるところにたどり着いた。こんな時、物語の主人公だったら、自分の傘を彼女に渡して、自分は雨の中を走って帰るだろう。しかし、俺は傘なんて持ってない。ああ、自分はもっぱらの一般人だなぁとしみじみ思ってしまう。
でも―――
「くしゅんっ」
主人公でも無いし、煩悩ばっかりの俺だけど、隣に居る可愛いくしゃみをした彼女が、少しでも明るい気持ちになれるように俺は笑うことにした。
「可愛いくしゃみだな。」
「はぅっ。べ、別に寒いわけじゃないですからね!!」
「それ、どこのツンデレ?」
「~~~っ!」
顔をほんのりと赤く染めて俯く彼女を見て、やっぱり可愛いなと思う。そこでやはり俺は気づく。いや、気づいてしまった。
やはり、学ランは結構強い・・・と。
俺は極力彼女の方に視線を向けないようにした。今まで気づいてなかったが、意外とワンピースの上に学ランって結構攻撃力がある。それがスケスケだと、『効果はバツグンだ!』って感じ。
視線を正面にしてなるべく彼女を見ないようにしていると、静かだけどハッキリした声が隣から聞こえてきた。
「あの、何で雨の中に立っていたんですか?」
「いや、正確には寝てたんだよ。」
「や、やっぱり聞き間違いじゃなかったんだ。って、ええ!?立ちながら寝てたんですか!?」
「うん。」
「い、一体何をしたら、あんな器用なことができるんですか・・・。」
「いやぁ~。三連休に72時間テレビを徹夜で見ちゃってさ~。学校は意地でも起きようと頑張ったんだけど、限界がきたんだな。きっと。」
「3日間徹夜って、少しも寝なかったんですか!?」
おお、話し出すと結構喋るな彼女。また、結構突っ込み(?)もあるし、話しやすいな。
それから、俺と彼女は72時間テレビのことで盛り上がった。どうやら、彼女は72時間テレビを1時間も見ていなかったらしく、目をキラキラさせながら俺の話を聞いていた。もともと聞き上手だったのかも知れない彼女は、話しているこちらからしても非常に気分がよく、気づけば二人して笑い声をあげていた。そう、雨のことも服が濡れていることもすべて忘れるくらい、二人は笑っていた。
「あはははっ!面白~い!!」
「だろ?俺もあの時は眠いのが吹き飛んで笑い転げたね。」
「いや、面白いのはそれだけじゃないですよ。えと、えと・・・。」
「?。・・・ああ、そういえばまだ自己紹介してなかったっけ?」
話に熱中しすぎて、自己紹介を忘れていたみたいだ。
「俺の名前は、風林良鬼だ。リョウって呼んでくれればいいよ。」
「リョウか。良い名前だね。えっと・・・私は。」
そこで彼女はキョトンとした顔をして
「あれ?私の名前ってなんだっけ?」
パチクリと目を瞬いた。
これが彼女との出会いだった―――
お疲れ様でした。
読んでくださりありがとうございます。
誤字脱字のご指摘、ガンガンお待ちしております←(人任せ)
こんな私ですが、今後ともよろしくお願いします。




