砂の侵略者
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と内容に関する、記録の一篇。
あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。
岩を砕けば砂になる。
おおよそ、子供のときに教わることじゃないかと思う。自然の中では長い時間をかけて風化したり浸食を受けたりして、削られていったものが川の流れによって運ばれ、より小さくなっていく。
長い時間の中では組成も変わったりして、天然ものの不思議を感じられることもある。
一方、岩を人工的に砕いて砂にすることも可能だ。自然に任せるより短時間で用意、調整が可能で工業にもすぐ適用できるようになる。
一刻を争う競争環境だ。自然のようにのんびりとはしていられない。いかに効率よく求められるブツを用意できるかが勝負だろう。
いいように使われて、用意されちゃって……というのは、余裕ある立場だからこそめぐらせることができる考え。現場としては自分の飯がかかっている以上、こなすことが最優先になるだろうさ。
その砂たちは、あまりに細かい。細かいからこそ、奇妙な異変に、気づけることもあるかもしれない。
僕の以前の話なのだけど、聞いてみないか?
小さいころの僕の友達に、紙やすりを持ち歩いている子がいた。
僕たちも図工で紙やすりを使ったことはあったけれど、いつもキープしている子なんていうのははじめて見た。
その彼は、時間さえ見つけると小石などを拾って、やすりをかけていたんだよ。
まあ、使ったことのある道具の何かしらにはまって、いろいろなものに試してみる気持ち、わからなくもない。
しかし彼の場合、石を削っていい形に整える……といった、本来のやすりに期待されていたことを好んでいたわけじゃなかった。
石などを削り、そこから出てきた砂の部分を集める。このことを繰り返していたんだ。ポケットティッシュ一枚一枚に乗せては、器用にそれらをくるんでいく。
それぞれに色の違うマジックで印をつけていて、どこか本格的な空気がする。少なくとも行き当たりばったりでやっている感じはしなかった。日によっては、石以外のものも削っているように思える。
彼に尋ねてみると、「砂の侵略者」がいないか確かめているのだという。
人間の工作員などが、様々な侵入方法を持つように、他の連中もあの手この手で、ここへ近寄ろうとしているかもしれない。ひょっとしたら、悪さを企んでいる恐れも。
そいつらが「砂」になるかもしれないから、調べものをしているんだというのが彼の言い分だったんだ。
正直、妙な熱病にかかったもんだと思ったよ。砂がもともとは岩石だったことは理科で習ったばかり。彼がやすりで用意する砂なども、一瞬前までは石であったものが細かく砕かれたものだ。
最初から砂であるならともかく、石とかを削って得るとはどういうことだろう。それつまり、侵略者なるものが石であるということじゃないか。
そんなものを、いちいち気にして過ごしていくなんてばかばかしい……と思っていたんだけど。
ある日の昼休み。
彼がまた手にした石をやすりにかけていた。グラウンドに転がっていた、ほんのり紫色をした小石。その手のものなら、以前に僕も何度か見かけたことがあったよ。
常に新品同然のクオリティを保っている、彼のやすりにかけられて、石の角がほんのちょびっと丸くなり、その身を文字通りに粉にする。
その砂の部分も紫色……と思ったとたん。
ぽつんと、雨粒が一滴。ティッシュにとった紫の砂の上へこぼれた。
いつの間にか雲が湧き出していて、その黒々とした身体からしずくを垂らしたんだ。けれども、それを浴びたとたんに砂はたちまち煙をあげた。
あっという間のことだったよ。
煙が雲に届いたかと思うと、雲全体が紫色にたちまち染まっていってさ。飛び上がりそうなくらい、でっかい雷鳴を響かせた。
それだけでグラウンドに出ていた僕たちは、本能的に昇降口へダッシュしていた。途中で彼が話したよ。「どうやら、侵入者だったくさい」てさ。
そこから、ほんの3秒間だけ。音を立てて雨が降り、そしてあがった。
ぱっとグラウンドを見た感じでは、おかしなところはない。けれども校舎わきに置かれていた、二宮金次郎の像。
その手にした本だけが、あの紫色に染まりきってしまっていたんだ。さいわい、メッキのように表面だけだったらしく、空が明るくなったあとに出てきた先生たちによって取り除かれてしまったよ。
あの先生たちのよどみない動き。思ったより侵略者の存在は、知られているのかもしれないな。




