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君と私の歩む先  作者: さくらもちのも!


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2/3

約束をしようか

ゆらゆらと揺れる灯りが二人を照らす、そんな夜。

テーブルに並べられた数多の料理に目を輝かせた。

「いいのかい、こんなに……」

「いいに決まってるでしょう」

 貴方のために作ったんだからと照れくさそうに笑う少女。出会ってほんの数時間しか経っていないのに、ずいぶんと懐かれたものだ。

カタリと音を立て、彼女も椅子に掛ける。バンパイアも同じ食べ物を食べるのかと不思議そうに眺めると、

「なに?バンパイアだって人間と同じ食べ物を食べることもあるのよ」

「それにあたしは、血を飲めないし……」

 少し気まずそうな顔をした彼女に慌てて謝れば、いいのよと優しく微笑んだ。

 

 

――じゃあ、食べようか。

 そう声を掛けると、彼女は途端に慌て出した。

「や、やっぱり何か買ってきましょう……」

どうしてだ? 思った言葉が口から溢れた。ぶわりと顔どころか、全身を赤く染めた彼女に首を傾げた。

「だ、だって……」

「どうしたんだい」

 なるだけ優しく問いかけたつもりだったが、とうとう彼女は俯いてしまった。

「お、美味しいかわからないもの」

「そうなのか?」

 こくりと頷く彼女に、なら――

「食べてみればわかるな」

 あっと驚いた声を上げる少女を横目に、つやつやと輝くオムレツを大きく箸で切り取って、口に運んだ。途端に口の中で広がるとろとろとした卵の食感に、ケチャップとバターを混ぜたソースが、卵の主張を程よく抑え、咀嚼するたびにソースと卵が舌の上で絡み合って、今までに食べたどんなオムレツよりも美味しかった。

 名残惜しいが、ごくりとそれを飲み込んで

「おいしい……!」

 そう言いながら、思わず額に手をやり、空を――室内に居るので天井を――見上げながら感動に浸っていると

「本当……!?」

 少女が瞳をきらきらと輝かせ、じゃああたしも……と一口パクリとオムレツを口にした。

 

 そこからは早かった。お互いにこれが美味しいだの、あれも美味しいだのと、楽しそうに言葉を交わしながら、あっという間に食べ終わってしまった。

「美味しかった……!」

 二人同時にそう言って、おかしそうに顔を見合わせて笑った。

 

 

 夕飯を食べたあとは、二人で揃って歯磨きをして、それから風呂に入ることにした。

 たまには皿洗いは風呂の後でいいか。まずは彼女を綺麗にしなくてはな。なんて、ちょっと言い訳じみた言葉を自分に掛けて。

 

 

 

 数時間前――。

 バンパイアの子供――もとい、バイオレットを連れ帰ったあと、まずは風呂に入らせた。けれど、汚れは完全には落ちなかった。悩んだ末に、夕飯の後に私が風呂に入れることにした。

 バイオレットの擦り切れた、服と言っていいのかわからない服の代わりに――できれば新しい服を用意してやりたかったが――私のお下がりのTシャツくらいしかなかったので、それを与えた。

 そういう小さな事で、今日が誕生日かというくらいに喜んでくれる彼女の様子に、彼女が今までどんな生活をしてきたのかが窺えてしまって、思わず抱きしめてしまった。――彼女の辛さなど知りもしないのに。


 

 ――カラン

 バイオレットが風呂に居る間、中途半端に放置していた喫茶店の作業をするかと思っていた矢先に、ドアからよく見知った顔がのぞいた。

『やあ、お嬢ちゃん』

 にこにこと笑うフランクじいさんは、杖をつき、歳を感じさせるよろよろとした足取りで店内に入ってきた。

『やめてくれ、もうそんな歳じゃない』

 それとももうボケたか、じいさんなんて揶揄い半分で言えば

『どう頑張っても歳の差は縮められん』

 そうじゃろう? と茶目気たっぷりにウィンクしてきやがった。子供扱いするなと言いたいところだが、彼の言うことは尤もである。納得などしてやらんが。

 

 

『さて、本題に入ろう』

 彼はパチンと指を鳴らし、スッと表情を消した。年寄りのくせにやけに指を鳴らすのが上手いな。

 私たちを照らす陽光が雲に遮られて、冷え冷えとした空気が足元に訪れる。

 

 

 ――お前さんは一体なぜ、あの子供を拾ったのかね

 思った通りの質問だ。

『なに、ただの子供さ』

 ぶわりと世界が暖かな、けれどどこか先程の冷たさを含む光につつまれた。

 二人はただぽとぽとと、言葉を日だまりに落として、そうして――

 

 

 

 

「ちょっと!」

 怒った様な顔をしたバイオレット。何かあったか? と聞けば

「どうして一緒にお風呂に入るなんて言い出すの!?」

「一人じゃ大変だろう」

 あくまで善意で言ったのだが、彼女にとっては予期せぬ発言だったらしい。

「あたしは女の子よ、男の人とお風呂に入れるわけないじゃない……!」

 怒りからか頬をはち切れんばかりに膨らませた顔で睨む彼女に、合点が言った。

 ――どうやら、君は勘違いをしているみたいだな。

 その言葉を聞いたバイオレットは、はあ!? と目を釣り上げて、そんな見え透いた嘘をつかないでちょうだいとさらに頬を膨らませてみせた。まるでフグの様だ。いや、彼女に言えはしないが。

「私は女さ、二十八のね」

 その時の彼女の顔は絶対に忘れられないだろう。あんなに驚いたと如実に物語る表情があるものか!


 驚きの事実をうまく処理できないのか、風呂に入っている間はびっくりするほどおとなしかった。寝てしまったのではと何度も確認したほどだ。

「バイオレット」

 なあに? そう目で返答をする彼女はずいぶん眠そうだ。

「今日はもう寝ようか」

 彼女を抱き上げ、ベッドへ運び、寝かしつける。

 すると、ねぇと呼びかけられた。どうした? と返答をすれば、寝たくないなんて実に子供らしい言葉を溢す。

 ――寝たら、全部夢だった、なんて嫌よ

 今にも泣き出しそうな顔を見て、一瞬動きを止めた。だがすぐにぎゅうっと抱きしめ、

「私もそれは嫌だ」

 だから、一緒にいよう。いつまでも――。

 そう伝えれば安心したように、瞼を閉じた少女。母親の真似事の様に拙いキスをその額に贈った。

 

 

――ふと、ベッドで寝ているバイオレットが気になった。もう寝ただろうか。気になって部屋に確認しに行けば、小さな寝息を立てて、ぐっすり眠っている様だった。

 よかったと思ったことで気が抜けたのか、出てきたあくびを噛み殺し、ソファへと戻る。

「(今日は大変な一日だったな)」

 なんて、並の感想しか思い浮かばなかったが、訪れる眠気に身を任せた。

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