寄り道信者と寝坊小僧
夜。
ルーカスはルナリアの寝顔を見つめていた。
「…今回は長かったな。女神の娘よ」
薄茶色の長髪が風に揺れ、優しい光を帯びた瞳が静かにルナリアを追っている。
⸻
翌朝、やっぱりルカは起きなかった。
昨日はいいことをしてくれたから、今日はそっとしておこう。私は朝食を食堂で済ませる。美味しいけれど、昨日の味が忘れられない。また食べに行きたいな。次に来たときは何を頼もう――そんなことを考えながら、街の探索へと足を運んだ。
キリアーゼの街には、多くの店が食料品を扱っている。お腹が鳴る。最近やたらと空くんだよね。小腹が空いたし、質問がてらどこかのお店に寄ろう。
目に入ったのは一つの屋台。看板には「ポテト」の文字。じゃがいもって、どうやって食べるんだろう? 気になって声をかけた。
「お姉さん、ここは何を売っているの?」
「いらっしゃい。ここはじゃがいもを使ったものを売ってるよ。蒸したじゃがいもにバターをかけたものと、揚げたものが人気だね」
「じゃあ、バターのやつください」
「はいよ。銅貨四枚だ」
意外と高いけど、許容範囲かな。
「そういえば、この街は食料品のお店が多いけど、どうして?」
「隣の領地が広大な農場を持ってるからさ。優先的に卸してもらってるんだよ。お兄さんは旅人かい?」
「うん。次の目的地をどこにしようか悩んでて、何かおすすめある?」
「それなら…三ヶ月後に隣のカルダン王国で王女様の誕生日を祝う大きなお祭りがあるって噂だよ。最終日にはなんと花火も上がるらしい」
「…お祭りか。いいこと聞いた、ありがとう!」
お姉さんから商品を受け取り、近くのベンチに腰を下ろす。熱々のそれにかぶりつく。熱い……けどほくほくの芋とバターが絶妙に絡み合って美味しい。この街は、美味しいものが多いな。ギルドの食べ物も美味しかったし。
蒸かし芋を食べ終わった私は、ギルドへと戻った。
「ただいま」
「おかえり」
ルカはようやく起きたようだ。
「そうだ、ルカ。次の目的地が決まったんだ」
「どこ?」
「カルダン王国の王都へ行こう!」
「わかった。ここから南に行って、馬車なら一ヶ月くらいだな」
「遠いね…歩いたらどれくらい?」
「身体強化の魔術を施せば三ヶ月以内には着くだろう」
「歩いて行きたいな。色んなものを見たいし」
「わかった。なら明日にはここを立ったほうがいい」
「食べ物とか買っとかないとね」
「昼飯食べたら買いに行くか」
私たちはお昼ご飯を済ませ、買い物へ。街のあちこちで食料品が揃い、困ることはなかった。
「これで明日には出発できそうだな」
「うん。名残惜しいけど、あくまで僕は旅人だし。あと、明日は朝寝坊しないでね」
「考えとく」
「もう!」
⸻
出発日。
ルカは相変わらず朝は苦手らしい。
「ルカ、早く起きないと歌うよ?」
冗談で言ったつもりが、意外と効果があったらしく、ルカは飛び跳ねて起き上がった。
「あ、起きた。じゃあご飯食べたら行こうか」
「、、、お前なあ…」
「起きないルカが悪いんだよ?」
街を出る瞬間はわくわくする。新しい何かに出会う期待で胸がいっぱいになる。やっぱり旅はいいな。
「アル、身体強化の魔術を施そう」
「わかった」
ルカは指を弾き、私は人差し指をくるっと回す。魔術の動作は人それぞれ。体がふっと軽くなる。
「これならすぐ着きそう」
「ああ。行こうか」
大岩を飛び越え、遠くの森の木々を一本の線のように見る。
この調子なら三ヶ月もかからない……と思ったが、寄り道癖がある私と朝起きないルカのせいで、実際にはだいぶ時間がかかった。カルダン王国に到着したのはお祭りの前日だった。
「ギリギリだね」
「ああ。泊まる宿があるといいけど」
「…あ」
お祭りで観光客がいっぱい来てるんだ。泊まる宿はもう見つからないかもしれない。
王都は風船や造花で彩られている。
ふと考える――風船みたいに空を飛べたら、宿がなくても寝られるかも。
思いついたまま口にしてみた。
「ねえ、ルカ。空で寝ればよくない?」
「空で?」
「飛行魔術で浮かべば、宿がなくても寝られるじゃん」
「まあ、一日だけならいいけど、祭りは五日間あるんだぞ?」
「どうしてダメなの?」
「空で寝ると体が休まらないんだよ」
「あ……確かにそうかも。素直に宿探すか」
「そうした方がいいな」
アイデア自体は良かったと思うんだけど、無理をしても体が休まらないなら仕方ない。今日は宿探しに時間を費やすことにした。
⸻
夕方。
ようやく一部屋だけ空いていた宿に滑り込む。
「よかった」
「寝床って大事なんだね。大きいイベントに行くなら、もう少し早く行かなきゃ」
「そうだな。お前の寄り道癖をどうにかすれば余裕もできるかも」
「ルカが朝を克服すれば、もっと早く着けるかもね」
お互いに非があるので、罪のなすりつけ合いになる。
「明日は何する?」
「まずは食べ歩きかな。イベントもたくさんあるだろうし、最終日は花火も打ち上がるみたいだよ」
「楽しそうだな」
「うん!」
ワクワクした気持ちを抱えたまま、私は固いベッドに体を預けた。




