疲れたあとは美味しいご飯
「疲れたあ〜」
「お疲れ」
ルカと私は、夕暮れの街へご飯を食べに出た。
角を曲がった先で見覚えのある看板が目に入る。
“森の定食屋”
「えっ……」
「ん? お前、今日行くって言ってたじゃん」
「ま、まさか今から行くとは思ってなかっただけ!」
「明日も早く起こされるのはごめんだからな」
「ルカ、最初からそのつもりだったでしょ!」
昼間あんなに真面目だった“先生”の面影はどこへやら。
でも、連れてきてくれただけで嬉しかった。
「ルカ、ありがとう」
「ん」
行列の最後尾に並び、もうすぐ順番――と思ったその瞬間。
「すみません、本日は終了です」
悪魔の一言が夜風に溶けた。
……嘘でしょ。
「そんなに落ち込む?」
「だって、ここに来るために頑張ったのに……!」
「でもどうしようもないだろ。帰ろう」
肩を落としたそのとき、背後から声がかかった。
「もしかして、依頼を受けてくれた方ですか?」
「はい」
「まあ! 言ってくださればご案内しましたのに!」
──やった!
通されたのは静かな個室。
「ご注文が決まりましたらボタンでお呼びください」と告げられ、思わず鼻歌まじりにメニューを開く。
「何にしようかな〜♪」
「おい、アル、それ――」
次の瞬間、光の粒が降り注いだ。それは店内を優しく包み込み温かい空気で満たす。
「……え?」
「アル!」
「ご、ごめん。鼻歌でも発動するなんて思わなかった!」
幸い被害はなかったが、ルカは額を押さえて深くため息をつく。
「はあ……祝福、か」
「しゅ、祝福?」
「話はあと。早くメニューを決めよう」
注文のあと、ルカが真剣な顔を向けた。
「お前の歌声には魔力が宿ってる。お前の気持ち次第で祝福をすることも____呪うことだってできる」
「……そんなに?」
「ああ。俺が最初に伝えるべきだったな。お前に教えることが多すぎて忘れてた」
「うっ」
正しく、遠慮のないルカの鋭い言葉にシュンとした私の前に、店員が料理を運んできた。
「こちら、ご注文の品です」
「わあ……!」
香りが鼻をくすぐる。きのこのソースが湯気に混じり、光を受けてまるで宝石みたいだ。
黒い皿の上で、太麺が艶めいていた。
「いただきます!」
一口食べた瞬間、世界が変わった。
きのこの風味が広がり、ソースの旨味が溶け合う。
──ああ、これが“幸せ”の味。
「ルカ、美味しいね!」
「……もう食べ終わった」
「はやっ!?」
夢中で食べ進め、皿が空になるのもあっという間だった。
「食後はデザートだろ」
「もちろん!」
「じゃあ、俺のおすすめだ」
出てきたのは、冷たく輝くアイスパフェ。
「……これ、アイス?」
「ああ。冬に食うのがまた旨いんだ」
スプーンを入れると、ひんやりとした甘さが舌の上で溶けた。
罪悪感すら幸福に変える魔法の味。
ペロリと平らげて、ため息がこぼれた。
「毎日でも来たいなあ」
「やめとけ。ここの値段、ギルドの三倍だ」
「……はは。じゃあ特別な日にだけだね」
*
食後、店員たちが深く頭を下げた。
「本日はご来店ありがとうございました。お気をつけてお帰りくださいませ」
夜風が頬をなでる。
次に来たら何を頼もうか、そんな考えが頭を支配する。
正直に言えば、お昼ご飯を食べていないからお腹は少し物足りない。だけど、心が幸せでいっぱいになっていた。ルカも私と同じ気持ちなのか黙って帰路につく。
心は満たされ、空には丸い月。冬の冷たい空気が頬を掠める。
旅はまだ始まったばかりなのに、もうこんなにも世界が美しい。
「楽しいことだらけだな」
___彼女は知らない。あの店が、“祝福”を受けて、これからも長く繁盛し続けることを。




