魔力の正体
「待たせたな」
「いいえ、私も今来たところです」
昼間とは一変して礼儀正しく振る舞っているあたり、これからの話の重要性を理解しているのだと分かる。
「では、魔術について話してくれるね?」
「勿論です」
そういえば、移動中にルカへ質問しようとしていたことをすっかり忘れていた。
でも、この話はルカの言う“常識”を学ぶことにも繋がるだろう。
ルカは私の後ろに控え、アレニウスの説明を聞くつもりらしい。
「呪術は知っていますよね?」
「ああ」
「魔術は呪術を元に作られました。呪術とは魂の堕落を代償に対象から力を奪い、自らのものとする術。それを基盤に発展したのが魔術です。魔術は自らの魔力を代償に、世界に満ちる魔素を集めて力を行使し、影響を与えるもの。魔素は神が満たした力ともいえる……つまり、それを無理矢理奪って利用する点は呪術と大差ない。私はそう考えていますが、そちらの彼は違うようで」
アレニウスはチラリとルカを見る。
「私は魔素を“世界創造の際に余った神力”だと思っている。それを使うことは悪ではないし、魔術を使えば魔力は空気へ還元される。だからプラマイゼロだと考えている」
バチバチと火花を散らす二人を見て、私はまとめに入る。
「つまり魔術は呪術を基に作られた、と」
「はい」
「魔力ってどの生物も持っているもの? 昼間のあなたの発言から推測すると、あなたにも魔力があるのよね?」
「ええ。しかし、祈りを捧げ続けると魔力の根源が絶たれ、神力を得ると言われています。また、魔力を空にすることで体に魔素が満ち、世界と一体化できるとも。どちらも成功例はありませんが」
魔力の正体はまだ判明していない。
でも、私の仮説が正しいなら必然的に導かれるはずだ。
「本当に分からないの?」
「まさか魔力の正体が分かっているのですか?!」
ルカとアレニウスが揃って叫ぶ。
「人間は面白いことをするな。魔力は“穢れ”だよ」
「穢れ?」
「うん。天界で罪を犯した魂は穢れていて、その根は輪廻を繰り返すほど小さくなり、やがて消える。そうして天界へ戻れる」
「そうなんですか?」
昔はルカが授業をしてくれていたけれど、今日は立場が逆だ。
少しだけ、寂しい。
「アレニウスやルカは輪廻を多く繰り返していないから魔力が強い。でも時を操るスキルをやめて、正しい輪廻に戻るなら話は別だけど」
「輪廻か……」
ルカは神妙な面持ちで空を見上げた。
「好きにするといいよ。下界が気に入ったならそのまま残ればいい。あなたたちは十分に徳を積んでいるから、私が強制的にあちらへ送っても問題なさそうだし」
「強制的にとは…?」
アレニウスが首を傾げる。
「《解放の歌》を使えば導けるわ」
「それは、あまり使わないでほしいです」
アレニウスもルカと同じ反応をする。
「あなたたちは条件を十分満たしているのよ。輪廻という段階を踏まなくてもいいと私が判断するほどに」
「……それなら。少し考えさせてください」
「ミューは殆ど魔力がないわね」
「ええ、流石不死鳥と言ったところでしょうか」
「ええ、輪廻を強く繰り返したから神の使いになれる。あの子、そのうち神力を扱うようになるわ」
「今日はもう遅いし、解散しよう」
「はい。また会いましょう」
「ええ。まだ時間はありますから」
月明かりの下で私たちは別れた。
宿へ戻ると、ミューはすっかり寝ていた。
さっきの話を踏まえて考えると……。
「ミューには、自分のことを話した方がいいな」
「あ、ルカもそう思う?」
「ああ。知っていた方が安全だ」
「明日ちゃんと話さなきゃね」
「ああ、おやすみ」
「うん。おやすみ」
____眠れない。
私の記憶なのに、私の記憶じゃない。
自然に思い出せるのに、違和感がずっと胸に刺さる。
女神だなんて、正直まだ信じ切れない。
でもルカやアレニウスと話すと、体が覚えているかのように言葉が口をつく。
感情ですら少し引っ張られている気がして……それが怖い。
落ち着かなくて外へ出る。
冷たい夜気が、ほんの少しだけ心を静めてくれた。
空には綺麗な三日月。
あれは私。でも、私じゃない。
「お姉様……元気にしてるかな?」




