表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/23

ナンティア

飛行船の旅も、今日で終わり。

私たちは寝坊助のルカを叩き起こし、簡単な朝ごはんを済ませた。


「あと数時間でナンティアだよ」

「そうだね」

「見て!あの大きな岩…?」


ミューが指差す先、雲の切れ間に巨大な岩がそびえていた。上空から見てもなお、その威容は圧倒的だ。


「あれが南の遺跡だ」

「あれが? あの超巨大な岩の集会場みたいなのが?」

「そう、それが」


陸地はまだ豆粒みたいなのに、あの岩だけははっきり見える。どれだけの大きさなんだろう。


『皆様、もう少しで着陸となります。お部屋にお戻りください——』


船内放送が響く。

どうやって着陸するのか、少しわくわくする。期待を胸に、部屋で大人しく待った。


『確認が取れましたので、これより着陸準備に入ります。お部屋から出ないようお願いいたします』


「いよいよだね」

「うん、楽しみ」

「僕はちょっと怖いかも」

「離陸よりは楽なはずだよ」


轟音と共に船が静かに降下を始める。行きとは違い、穏やかで安定していた。


「あれ?あんまり揺れを感じないね」

「離陸はすぐ高度を上げないと不安定になるけど、着陸は慎重にやらないと船体がもたないからね。ゆっくり降りるんだ」

「へぇ〜」


……てか、私、昼寝ばっかして全然飛行船楽しんでなかったんじゃ?

まあ、今さら後悔しても遅いか。


着陸開始から三十分ほど経ち、ようやく船は大地へと降り立った。


「本当に長かったね。あと——」

「見上げても、上が見えない」


南の遺跡は雲を突き抜け、天辺が霞んでいる。

大岩はまるで太陽を背負うように立っていた。


「ここにアレンさんがいるかもしれないんだよね」

「まって、今アレンって——」

「誰か呼んだ?」


ルカが深くため息をついた。


「お、ルーカス!」

「久しぶりだな、アレニウス」

「やだなあ、“アレン”って呼んでよ」

「冗談でもそんなこと言うな」


黒髪に赤い瞳の男が、ルカの背中を軽く叩く。

彼はこちらに気づくと、姿勢を正した。


「おかえりなさい、ルナ様」


……ルナ。

その名を知るのは、私の正体を知っている者だけ。


「お久しぶりです。聖人十二席——第五席、アレニウスです」


記憶を探る。確かに、そんな男がいた。

「だいぶキャラ変したのね」

ルカが吹き出す。


「だってよお?」

「まあ、私も色々ありまして。長く生きてりゃ多少は変わりますよ」


「それは受け入れるとして……他の子たちはどうしてるの?」

「私とルーカス以外は、輪廻へ戻ることを選びました」

「そうなのね……」


静かな沈黙が流れる。


「ルーカス、お前も墓参りに?」

「まあ、その予定だったけど、焦る羽目になったのはアルが“お前に会いたい”って言い出したから」

「アル?」

「ああ。私は今、“ルナリア”という一人の人間として生きてるの」

「それは知ってるけど」

「“アル”はその偽名だよ」

「なるほど。それで、なぜ俺に?」

「あなたが私に“生きる理由”をくれたから——お礼を言いたかったの」


春の風が頬を掠め、静かに舞った。


「俺はただ、ルカに会うきっかけを作っただけだよ」

「それでも、あなたが話してくれた旅の話は私の支えだった。本当に、ありがとう」


敬語が崩れた。つまり彼は、もう“ルナ様”ではなく、今の私を見て話してくれている。


「どういたしまして、後輩ちゃん」

「後輩ちゃん?!」


「ん? 隣の子は……」

「ひっ」


ミューが怯えて私の背に隠れる。


「ああ、王国の民か。怖がるのも無理はないな……」


アレンの視線がミューの赤い髪に止まった。


「……大変だったな」

そう言って、彼は優しく頭を撫でた。


「赤い髪は縁起がいい。なんの獣人だ?」

「酉」

「……! 酉か。金の瞳も持ってるし——お前は神の使いだな」

「え?」

「ああ。不死鳥の伝承は知ってるか?」

「お伽噺の?」

「そう。不死鳥は赤い羽と金色の瞳を持ち、この世の真実を見通す。神が下界と交信するとき、その媒介となる存在だ」

「僕が……不死鳥?」

「ああ。まだ幼いが、遠くないうちに“覚醒”するだろう」


ミューが困惑した顔で私を見る。

その疑問に、ルカが代わって答えた。


「アレニウスには未来が視えているからな」

「いつから?」

「ルナ様が亡くなってからだ。あのとき神が下界に“祝福”を授けた。それがスキル。神の力の一部を借りる術さ」

「じゃあ、アレンは魔術が使えるの?」

「……俺がそんな下劣なものを使うわけないだろう」


その一言で、ひとつの仮説が生まれた。

魔力と神力——二つは相反する力。だから私は魔術が使えないのだ。

きっとそう。これまで“魔術とスキルの併用者”を見たことがないのも、その証拠だ。


……けれど、昔絵本で見たアレンは確かに魔術を使っていた。

なぜだろう——。


「二人に聞きたいことが山ほどある。夜にまた会いましょう」

「わかりました」

「では、九時にここで」

「はい」


話を切り上げ、私たちは宿を探すことにした。


「……あっつい!」

「そういやアル、半袖持ってないんだっけ」

「そう、早く買いたい!」

「じゃあ宿取ったら服屋行こう。ミューもいい?」

「うん。……でも、さっきの話。僕が不死鳥って——?」

「長くなりそうだから、今夜アレニウスと話してから説明するね」

「うん、わかった」


五歳の子なら駄々をこねてもおかしくないのに、彼は素直に頷いた。

それが、少し切なかった。


宿はどこも満員で、結局ギルドに向かう。


「ご用件をどうぞ」

「泊まりたくて」

「三人部屋は満室ですので、四人部屋のご案内になります」

「わかりました」

「こちらルームキーです」


荷物を置き、服を買い、食事を終える。

——そして夜九時。

再び、遺跡の前へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ