飛行船
「しゅっぱーつ!」
私たちは共和国を出て、南の遺跡へ向かうため、飛行船乗り場へと急いでいた。
「ここからどのくらいで着きそう?」
「飛べば数時間だけど、アルは魔法が使えなくなったんだよな…」
「そのことなんだけど」
指をくるりと回すと、炎がひらりと浮かび上がった。
「え、魔力がなくなったんじゃなかったの?」
「うん、これは神力で起こした奇跡だからね」
「似たような効果が得られるってこと?」
「そういうこと」
「じゃあ、問題解決か」
「ただ、飛ぶ方法がちょっとアレなんだよね…」
「なんだよ、言い渋って」
「その…翼を使って飛ぶから、かなり目立つんじゃないかな」
「はは!そりゃ目立つわ。素直に身体強化で行こう」
「うん」
ルカは困った顔で笑った。
私は神力で、ルカは魔術で身体を強化し、ミューはルカに背負われる形で進むことにした。
八時間近く走ったところで空港に到着。人影はまばらだった。
飛行船は高価な乗り物で、通常は地上を走る魔導列車を使う。しかし飛行船は速度が段違いで、急ぎの時には圧倒的に便利だ。さらに人が少ないので、すぐに乗れる利点もある。
「どちらまで行かれますか?」
「ナンティアまで」
「畏まりました。では、一番早くて六時間後に出発する便があります」
「それでお願いします」
「何名様ですか?」
「三人です」
「金貨十五枚です」
うっ、分かっていたけれど高いなあ…
そろそろお金が心配になってきた。支払いを済ませ、チケットを受け取る。
「アル、ミュー。お腹空いてない?」
「僕は少し空いてるかな」
「飛行船に乗る二時間前には戻らなきゃいけないから、準備とご飯を済ませよう」
「ルカは物知りだね」
「乗ったことあるからな」
「頼りにしてるよ」
私はルカの背中を軽く叩いた。
ルカによると、今ナンティアは春。とても暖かいらしい。だから半袖の服が必要とのこと。ルカとミューの分は簡単に揃ったけれど、私の女性物の夏服だけは見つからなかった。
まあ、現地で買えばいいか。そう考えて、私たちは空港に戻った。
荷物検査と身分証の提示を済ませ、出発まであと一時間ほどとなった。
「びっくりした。僕、置いてかれるかと思った」
「ミューは五歳未満だから身分証はいらないんだよ」
「私も知らなかった」
「お前らはもう少し常識を身につけろ」
ぐうの音も出ない一言に、私たちは黙るしかなかった。
「おっ、搭乗が始まったぞ。行こう」
「…!うん!」
私たちはルカの後を追い、無事に飛行船に乗り込んだ。
飛行船は船にドームを被せたような形をしており、本当に飛ぶのか不安になった。
だが心配は杞憂に終わり、飛行船は順調に高度を上げていく。魔術で揺れを抑えているため、酔うこともなかった。
「アル様、後ろに引っ張られてるっ!」
急上昇のときだけ、体が重く感じられた。降下するときはどうなるんだろう…まさか宙に浮くことはないよね?
高度も安定し、私たちは寝る準備を始めた。個室なので安心して眠れるし、防音効果もあって快適。何より、ふかふかのベッド!一年ぶりだろうか。いつもは固くて粗末なベッドだったので、嬉しさもひとしお。しかもこれが二日間続くなんて、夢のようだ。
「おやすみ」
疲れていた私たちは、その日は早く眠りについた。
⸻
翌朝、早く起きてルーティーンを済ませると、窓の外に朝日が見えた。真っ青な海に浮かぶ白い太陽が、空を橙色に染めていく。
「綺麗…」
思わず窓に張り付いて見入ってしまった。気付けば一時間も経っていた。
ミューも起きたので、私たちは朝食を摂りに食堂へ向かう。船内は広く、娯楽施設も充実しているが有料。甲板に出ればドーム越しに空を間近で見ることができるのは無料だ。
朝食は豪華なビュッフェ。好きなものを好きなだけ取れるため、つい偏った食べ方になってしまうが、満足感は大きい。ミューもこれまでにないくらい楽しそうだ。おかわりの回数を数えるのをやめるほどだった。
食後、部屋に戻り、私たちはしりとりを始めた。
「しりとり」
「りんご」
「ごりら」
⋮
「つまんないね」
「もう飽きたかも。こんなのが今日含めあと二日も続くなんて信じられない」
そんな会話をしていると、ルカがのそのそと起きてきた。
「あ、ルカ。おはよう」
「うん…何やってるの?」
「しりとり。でももう飽きちゃった」
「ふーん、じゃあ探索してみる?」
「うん!僕、してみたい!」
ミューがはしゃいで準備を始める。
「ルカも顔を洗って準備してきてね」
「うん…」
返事は曖昧。まだ昨日の疲れが残っているのだろう。
⸻
「じゃあ、出発進行!!」
ミューの声で旅が始まった。
船内を歩き回り、カジノ、ビリヤード、チェス、図書館などを見つける。しかしすべて有料。暇すぎるので、やらないという選択肢はない。
「この先、甲板に出られるな」
「おお!」
扉の先には真っ青な空が広がっていた。太陽はドームの天井まで昇っている。
ここで昼寝したい…!
辺りを見回すと、寝られる場所を発見。
「ルカ、ミュー。私はお昼ご飯の後、昼寝するから」
「わかった。ミューは何する?」
「うーんとね、チェス!」
「じゃあ食堂に向かおうか」
「うん」
昼食は再びビュッフェ。並ぶ料理は朝と異なり、毎食楽しめそうだ。
私は食後、日向ぼっこをしていた。時折雲に入って暗くなるが、それすら心地よい。今までで一番落ち着く場所かもしれない。お日様の温かな光に、瞼は自然と重くなった。
「アル様!」
ミューに起こされる頃には、太陽は傾き始めていた。
「ずっと寝てたのか?」
「うん。お日様が気持ちよくて…ふぁあ…」
瞼を開けて欠伸をする。
「一旦部屋に戻ろうか」
「?うん」
部屋に戻ると、ケーキが置かれていた。
「これどうしたの?」
「ミューの誕生日が八月なんだって」
「そうなの?」
「正確にはわからないんだけどね」
ミューは照れくさそうに頭を掻く。
「だから今日を誕生日にするんだ」
「なるほど!めいっぱい祝わなきゃね」
私たちはケーキを囲み、ミューを祝福した。
「ミュー、五歳の誕生日おめでとう!」
「ありがとう!」
ミューが蝋燭の火を吹き消すと、ルカが魔術でキラキラの雨を降らせた。
「今までで一番幸せ!」
そう言って、ミューは喜んでいた。
カードゲームや体を使った遊びで疲れたのか、ミューはそのまま眠ってしまう。
「可愛いねえ」
「あんまり年は変わらないけどね」
「六歳は結構離れてるよ?」
「大差はないよ」
「ルカにとってはあまりかもしれないけど、私的には結構離れてるの」
「ふーん。俺より長生きの癖に」
「今はルナリアとして生きているんだからね?」
「そうだったな」
ルカがからかうように笑うので、私は怒って追いかけ回した。
その騒ぎは夕食で落ち着いた。
夕食もビュッフェ。デザートを楽しみ、私たちは満ち足りた気持ちで眠りについた。




