はじまりの街
堂々と街を歩くのは、これが初めてだ。
騒がしいけど、それが心地いい。
「おじちゃん、肉串一本ちょうだい!」
「はいよ、銅貨二枚だ」
「ありがとう。……あ、そうだ、地図ってどこで買えるか知ってる?」
「地図なら隣の冒険者ギルドで無料配布してるはずだ。坊主、旅の途中か?」
「そんなとこ!助かった!」
道端に腰を下ろし、焼けた肉をかじる。
固くて質も良くないけど、家で食べてた料理の何倍も美味しく感じた。
食べ終わると、教えられた冒険者ギルドへ向かう。
扉を開けた瞬間、むっとした酒の匂い。
昼間から酔っ払いのおっさんたちが騒いでいる。
受付までのほんの数歩のあいだに、早速絡まれた。
「坊ちゃん、冒険者になりに来たのかい?」
酒臭い息に思わず眉をひそめる。
でも、ここで揉めるよりはマシだ。
「ううん、聞きたいことがあって来たんだ。おじさんも、昼からお酒ばっかり飲んでないで休んだほうがいいよ」
「ははっ、心配ありがとよ。でも冒険者は自由なんだ。酒も休みも、自分で決めるもんさ」
「そっか」
おっさんはふらふらと席に戻っていった。
その隙に、受付の前へ。
「こんにちは。本日はどうされましたか?」
「旅に出ようと思ってて、地図が欲しいんです」
「旅ですか!いいですね。こちら地図になります。……よかったら冒険者登録もいかがですか? いろいろ便利ですよ」
「どんなメリットがあるんですか?」
「まず、登録すると“冒険者カード”がもらえます。それが身分証になって、街の入場税が免除されるんです。旅人の多くが登録していますよ」
「なるほど。じゃあ、お願いします」
「かしこまりました。こちらの用紙にご記入ください。終わりましたら受付まで」
名前欄を見て、少し迷う。
ルナリア――この格好には合わないな。
……そうだ、**Aranilu**でいいや。
そう書いて、次の項目へ進む。
性別は任意……都合がいい。
すべてを書き終えたとき、最後の一文に目が止まった。
――“洗礼式後の者に限る”
洗礼式? 十歳の時に受けるはずの儀式だ。
けれど私は家出して、それを受けていない。
……とりあえず聞いてみよう。
「すみません、洗礼式まだなんですけど」
「洗礼式? 十歳……ですよね? それは珍しいですね。ではまず神殿で洗礼を済ませてください。ここを出て右に曲がり、まっすぐ行った先にあります」
「ありがとうございます」
足早に神殿へ向かう。
「すみません、洗礼式をお願いしたいのですが」
「洗礼式ですね。一人で?」
「? はい」
神官が少し哀れむような目をした。
「銀貨一枚です」
「はい」
支払いを済ませ、案内された部屋へ。
「ここが洗礼の間です。今はあなた一人のようですね。この服に着替え、水に入り祈ってください」
服を変え、冷たい水に体を沈める。
大きな女神像に手を合わせ、祈りを捧げた。
『其方の人生に、幸あらんことを』
頭の中で声が響く。あたりを見回しても誰もいない。
「……神様?」
服を着直して部屋を出ると、神官が待っていた。
「お疲れさまでした。ステータスの確認方法を説明しますね。『見たい』と念じるだけで、自分にしか見えない形で現れますよ」
「念じるだけ、ですか」
「ええ。では、ご武運を」
……そんな簡単に?
試しに念じてみる。
すると目の前に文字が浮かび上がった。
「わっ」
思わず声を出してしまい、周りの視線が集まる。
場所を移して、もう一度。
⸻
ルナリア・エラリエン・アシュフォード
年齢:10歳/性別:女
出身:アシュフォード家・次女
職業:魔導師
保有スキル:目覚めの歌
称号:歌姫、天性の魔導師、愛し子、神の祝福を受けし者
⸻
「……なんか、すごいの出たな」
ギルドへ戻る。
「あ、アラニルさん! 洗礼式は終わりましたか?」
「はい」
「職業は?」
「魔導師でした」
「わかりました。それではカードを作成しますね」
二十分ほどで、金属製のカードが手渡される。
「このカードに魔力を込めると登録完了です。カードの色は魔力の属性によって変化します。ランクはSSSからGまで。Gからスタートですね。試験で昇格できます。ちなみにSSSランクは現在四人しかいません」
「へえ……。有効期限はありますか?」
「ありません。ただしランクによって年会費が変わります。Gランクは年に銀貨二枚です」
「ありがとうございます。あと、宿ってありますか?」
「この建物の三階がギルド直営の宿ですよ。会員なら割引されます。一部屋空いてますが、どうされます?」
「泊まります」
「お支払いは出発の朝で結構です。食事は付いていませんが、一階に食堂があります。こちらがルームキーです」
「ありがとうございます」
部屋に入ると、ほっと息をついた。
魔力を込めれば登録完了……だったね。
カードに魔力を通す。
白いカードは、みるみるうちに透明になっていった。
「……え、透明? これが私の魔力の色……?」
不思議に思いつつも、疲れが勝ち、粗末なベッドに横になった。
そのまま深い眠りに落ちた。




