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赤毛の少年 後編

早朝。

いつものルーティンを終える頃、ミューが目を覚ました。


「おはよう、アラニル様」

「おはよう、ミュー。アルって呼んでね?」

「……アル様」

「よくできました」


ミューは少し俯いて、頬を赤らめた。

昨日の怪我もだいぶ良くなっている。顔色もいい。

だけど服も体もボロボロ……。

体を洗って、それから服を買いに行こう。


「ミュー、一緒にお風呂に入ろうか」

「なっ!!」


慌てて逃げようとするミューを、私はひょいと捕まえた。


「なんで逃げるの?」

「だ、だって僕は男で、あなたは女の人だろ?!」

「なんだ、そんなことか。気にしないでいいよ」


ボロボロの服を脱がせて風呂場に連れていき、容赦なく洗う。

ミューは真っ赤な顔のまま、黙ってうつむいていた。

最初は濁っていた湯も、何度か替えるうちに澄みきっていく。


「よし。もう大丈夫。あがろうか」


そう言った瞬間――。


「何してんだ?」


ルカの声。

え、朝なのにもう起きてる?!

それよりも、はやく体を隠さなきゃ――!


「ちょ、出てって!!!」


思わず可愛い声を張り上げた。

ルカは一瞬で状況を理解したのか、慌てて風呂場を飛び出していった。


……恥ずかしかった。

いや、大事なところは見えてない。うん、見えてない……はず。



「……びっくりした」


ルカは廊下でしゃがみ込み、顔を覆っていた。

ミューの声が聞こえて来ただけで見に行ったのに、まさかアルまでいるとは思わなかった。

頭の中に、さっきの光景がこびりついて離れない。

ふくよかな胸、細い腰。メリハリのある体に、思わず息をのむ。


「……あの体なら、女物の服の方が似合う気がするんだけどなあ。探してみよう」


ルカはなぜか使命感のようなものに駆られていた。



「そうだ、ルカ。ミューの服を買いに行こう?」

「ああ。ついでに、お前の服も買うか」

「え?」


妙に積極的なルカに、思わず目を丸くする。

ミューには、私が昔着ていた服を貸した。少し大きいけど我慢してもらうしかない。

私たちは服屋へ向かった。


店は人間用から獣人用まで種類豊富で、見ているだけでも楽しい。


「俺はアルの分を見繕ってくる。アルはミューの分を頼む」

「うん。任せて」


……なんか、いつもより楽しそう? 怪しいな。

まあいいか。ミューの服を選ぼう。

綺麗な赤髪だし、アイボリーのシャツと黒のズボンが合いそう。


「ミュー、気に入ったものある?」


振り向くと、ミューは赤いセーターに釘付けになっていた。


「これ、気になるの?」

「え? う、うん。でも……」

「じゃあ買おうか。ちょうど探してたし」

「ありがとう」

「かわいいなあ」


思わず頭をワシャワシャ撫でる。

素直に喜んでくれると、こっちまで嬉しくなる。


「ミューの服は決まったか?」

「うん。これとこれと……十着くらい!」

「よく似合いそうだな」

「ルカはいいのあった?」

「残念ながらなかった」


……あのルカが、選べないなんて?

疑念がちょっとずつ膨らむ。


「ミュー、これ着て帰ろうか」

「うん!」


会計を済ませて店を出る。

新しい服を着たミューは、軽い足取りで弾むように歩いていた。

その姿を見て、胸の奥がふわっと温かくなる。


肉串を買い、いくつもの店を覗いているうちに、街は夕日に染まった。

私の手を握るミューの歩幅がだんだん小さくなる。

まぶたが重くなり、瞬きが減っていった。


「あら……」

「疲れたみたいだな」


ルカがミューを背負う。

橙に染まる街を、二人で宿へと歩いた。



宿に戻り、ミューをベッドに寝かせたあと。

私はルカを見つめて問いかけた。


「ルカ、今日一日何をしていたの?」

「……別に。何も」

「ずっと様子が変だったけど?」


ルカは亜空間から、そっと一着の服を取り出した。

白に近い淡いグレーのワンピース。

裾には繊細な刺繍が施されている。前が短く、後ろが長い――品のあるデザイン。


「これは……?」

「服屋で似たようなのを見て、思い出したんだ」

「買ったわけじゃないんだね」

「こんな服、そこらで売ってるもんじゃない」

「……確かに」

「渡そうか迷ってた。アルはスカート嫌いそうだったから」


……本当に、不器用。

思わず笑ってしまう。


「着てみてもいい?」

「……! ああ」


ウィッグを外し、ワンピースに袖を通す。

――驚くほど、しっくりくる。


「……ああ。ルナ様」

「ルナ?」

「……いや、気にするな」

「気になること言うね」

「いずれわかるさ」


またそれだ。

姿見に映る自分を見る。

白い肌に光る髪と瞳。そしてこの服。

……でも、何か足りない。


「ルカ、何か足りない気がする」

「……これかな」


手と足につけるアクセサリーを渡される。

つけた瞬間、まるで“元の自分”を取り戻したような感覚が走った。

これで完成。ずっとこのままでいたいくらいだ。


「ねえ、ルカ――」


振り向いた瞬間、ルカの頬を伝う涙が見えた。

その光が揺らめいた次の瞬間、

世界が真っ白に包まれた。

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