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赤毛の少年 前編

早朝。

トレーニングを終え、ふと窓の外を眺めた。


「アシュフォードより、ずっと暖かいな……」


冬の冷たい空気を胸いっぱいに吸い込み、澄みきった青空を見上げる。

刺すような冷たさが、残っていた眠気を吹き飛ばしてくれた。


この国はなかなか面白いらしい。

……すごく楽しみだな。


ーー


昼過ぎ。

ようやくルカが起き上がった。体が大きくなっても、朝には勝てないらしい。

もう諦めているから、午前中は私の自由時間にしている。


「今日も特に珍しい光景は見れなかったな」

「じゃあ……首都に行ってみるか?」

「そうだね。首都はその国の特徴が一番出るって言うし」

「……懐かしい言葉だな」

「私のは受け売りだけどね」


チェックアウトを済ませ、私たちは首都を目指した。


目的地に到着する頃には、日は落ちかけていた。

以前なら一日はかかっただろう距離を数時間で辿り着く方ができた。

私…成長してる!


門をくぐると、そこには今まで見たことのない光景が広がっていた。

行き交う人々、その半分以上が亜人だったのだ。

これまで、亜人といえば奴隷として扱われる姿しか見たことがない。

奴隷狩りを恐れて、彼らは滅多に里の外へ出ないはずだった。


「……本当に不思議」


人間至上主義を掲げる国もある中で、

この国では人も亜人も、分け隔てなく言葉を交わしている。

なんて素敵な国なんだろう。


けれど――どんな国にも、影はある。

ふと視線を向けた路地裏で、小さな赤毛の獣人が殴られていた。


「ルカ……この国はいろんな人がいるけど、差別はなくならないのね」

「差別のない国なんて、どこにもないさ」


私は迷わず路地裏へと足を踏み入れた。

「大丈夫?」と声をかけた瞬間、少年は一言だけ呟いて気を失った。


「女神様…」

「女神…?」

「なんだおまえ、邪魔すんじゃねえ!」

殴りかかってきた男の動きは遅い。

魔術を使うまでもなく、軽くねじ伏せて少年に手を伸ばす。


……男の子だ。

これ以上触るのは少し気が引ける。ルカに任せよう。


「ルカ。この子、宿まで連れて帰りたい」

「わかった。意識は……ないな。貸せ、俺が持つ」


ルカはため息をつきながらも少年を背負い、ギルドへと歩き出した。


「部屋を一つ」

「今は二人部屋しか空いていません」

「構わないよ」

「……わかりました。こちらルームキーです」


受付の猫の獣人は、白くてとても可愛らしかった。

部屋で手当てをしていると、少年が目を覚ました。


「……! ここは?!」

「おはよう。そんなに驚かなくてもいいよ」

「女神様……?」

「何を言ってるの?」

「あれ? 触れる……」

「私は人間だよ」

「あっ、ご、ごめんなさい!」

「元気そうで何より」

「その……なぜ僕はここに?」

「路地裏にいたあなたを手当てするために、連れてきたの」


少年の瞳がキラキラと光った。


「あなた、名前は? それに何歳?」

「ミュー。五歳……女神様、ありがとう」

「私は女神様じゃないよ。アラニルっていうの」

「アラニル様……? でもなんか違う気がする。もっと……」


……獣人の勘、かな。

この子には、教えてもいいか。


「私はルナリア。でも今はその名前を使っていないの。だからアラニルでいい」

「アラニル様……僕を、どうして?」

「言ったじゃない。手当てするためだって」

「どうして……?」


助けを信じられない目。

それを見た瞬間、口が勝手に動いた。


「たくさん見てきたな……」


自分の声に驚いた。

どうしてそう言ったのか分からない。

でも今は、この子を助けたい――その気持ちだけが確かだった。


「ねえ、親は? 友人は? 帰る家はあるの?」

「……全部ないよ。僕、呪われてるから。誰も近寄らない」

「ミュー。私たちと一緒に来る?」

「……はあ?!」



ルカは混乱していた。

初めてアラニルの本名を聞いたことも、突然獣人の子を仲間にしようとすることも。

しかもその子の髪は赤く、瞳は金色――。

赤は精霊の祝福を、金眼は“真実を見抜く神からの贈り物”とされている。

そんな存在が呪われている……?

そもそも、どんな種族なんだ。


「ミュー、お前は何の獣人なんだ?」

「……酉だよ。“とり”」

「鳥なのね。じゃあ、赤くて綺麗な翼を持ってるのかな?」

「……綺麗?」

「うん。あなたの髪みたいに、鮮やかで綺麗な赤色」

「アラニル様…変わってるね」


ミューは初めて笑った。

当の本人はなぜ笑われたのか分かってなさそうだけど。


アルが決めたことなら、俺が止める権利はない。

仕方ないけど受け入れるしかないか。

ルカは小さくため息をつき、ベッドに腰を下ろした。



「じゃあ、ミュー。おいで」

「なに?」

「一緒に寝るんだよ」


ミューは顔を真っ赤にして叫んだ。


「ぼ、僕はルカと寝るから!! ねっ?!」

「あ、ああ……あと、俺のことはルカでいい」

「アラニル様、ルカもこう言ってるから、こっちで寝るよ」

「……ミュー。私のこともアルって呼んで」


真っ直ぐに見上げてくる。


「わかった。……わかったから寝ましょう、アル様」

「様も要らないんだけど……」


少しだけ納得のいかない顔のアルに、ルカが一言。


「さっさと寝ろ」


指を弾き、灯りが消える。

宿には新しい寝息が一つ、静かに加わった。

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