新たな場所へ
「アル、SSSランク認定おめでとう」
「ありがとう」
「それともう一つ。仕事が片付いたから、また旅に出られるよ」
「本当?! 」
「ああ」
「ルカはどこか行きたい場所ある?」
「南の方に遺跡があるんだ。アルも最高ランクになったし、行けるはず」
「ランクによる立入制限のある地域のひとつ?」
「ああ。ところで、お前、いつまで男の格好してるつもりだ?」
「うーん…」
ルカは私が男の格好をしているのが気に食わないみたいだ。髪を切ろうとしたら止められて、膝丈までしか切れなかったし。
そういえばお姉様から、髪を染めた方がいいって助言をもらっていたっけ。
それにルカにも女であることがバレちゃったし…
「もう僕である必要もないか」
「ああ。どうしても隠したいなら…せめてこういうズボンはどうだ?」
今までは半ズボンを履いていたけれど、この体格では少し違和感がある。
ここ半年はローブで隠していたし、ちょうど新しい服が欲しかったところだ。
ルカは黒色の、裾が広がるスタイルのズボンを渡してくれた。それに合う白のシャツとジャケットも一緒だ。
でも、これじゃ……
「ねえ、ルカ。この服だと貴族っぽくて目立つよ」
「え? あ……」
頭を抱えて必死に考えるルカに私は提案した。
「一緒に服買いに行かない?」
「ああ!」
平静を装って話したけれど、声はいつもより明るかった。
女性がズボンを履くのは珍しいが、まったく居ないわけではない。
買った服を着ると中性的な雰囲気になる。
瞳と髪の色がコロコロ変わるため、白と黒を基調にコーディネートした。
トップスは短めにし、ズボンと合わせることで体のラインがはっきり分かる。
セーターやワンピースも購入した。
「ねえ、ルカ。この髪、目立つから染めたいんだけど」
「!? ダメだ」
強く止められ、思わず驚いた。
そんなに必死に止めるとは思わなかった。
妥協案としてウィッグを被ることで落ち着いた。
ウィッグを被るのは二回目。今回は金髪ではなく、ルカに似た薄い茶色にした。
二日ほどで準備を終え、ルカの故郷を後にした。
最後まで国の名前は教えてもらえなかった。
調べようとしても見つからない。
不思議に包まれた国だった。国全体から異様な気配が感じられたが、人々との距離は近く、仲良くしてくれた。
出発時、私は目隠しをされた。
ルカに抱きかかえられ、運ばれていく。
それにしても場所まで隠されるとは思わなかったな。
依頼の時は街中でしか行動できず、外出時は転移スクロールを渡されていたはず……今回もそれで良くない?
しばらく歩いた後、ルカが私を下ろし、目隠しを外した。
「転移のスクロールじゃダメだったの?」
「場所が決まってないと使えないからな」
目を開けると、そこは森だった。
多分、依頼の時に来た森ではない。
振り返ると木々しか生えておらず、国があるようには到底見えない。
ほんの少し歩いただけの感覚なのに、なぜこうなったのか。
「理由は言えないけど、アルが自分のことを理解すれば、自然とわかるはずだ」
「またそれ?」
「あそこがアルと縁のある土地だってことだよ」
私、そんな大事な場所にいたの?
狂ったように依頼を受けてたけど、やるべきことが別にあったのかもしれない。
ルカが何も言わないのはいつものことだ。
諦めて受け入れよう。
それに、私はまたあそこに行く気がする。
なぜかそう思うんだ。
「ルカ、今どこにいるか分かる?」
「いや、わからない」
「え? どうするの?」
「森を抜けて街に行けばわかるさ」
「ルカも大概楽観的だよね」
「お褒めに預かり光栄です」
「褒めてない!」
怒った私から逃げるルカを追いかける。
「もう!」
⸻
「ギルドカードの提示をお願いします」
鬼ごっこの末、私たちは街を見つけた。
すでに陽は沈みかけていた。
ふとルカを見れば、ギルドカードは瞳と同じ、夏の森のような緑色をしていた。
街に入り、ギルドへ向かう。
「本日はどのようなご用件で?」
この人…今まで会った誰よりも態度が悪い。
口調は一応敬語だが、気だるそうで接客が嫌そうだ。
なんで受付やってるのか不思議だ。
「…えっと、ここがどこかと日付を知りたくて」
「お姉さん、そんなことも分かってないの?」
「はは、まあそうですね。気楽に旅していますから」
ムカつく。私だって、こんなことになっていなければ把握していたのに!
「…ここは、ハウゼン共和国フューエル領。今日は八月七日」
突然敬語が崩れたが、面倒くさそうにはしていない。
どうして急に変わったんだろう?
「ルカ、知ってる?」
「ああ、だいぶ遠くに飛ばされたな…」
飛ばされた? あれは魔術の力だったのか。
でも魔力は感じなかった。
今はそこじゃない。
ハウゼン共和国――東にある大きな国。私たちは西のカルダン王国から来たのに、世界の裏側に飛ばされたも同然だ。
そういえばあの人からハウゼン帝国の話を聞いたことがある。
『大陸の端、ハウゼン共和国では人だけでなく亜人も多く共存している。色んな国の文化や風習が混ざり、新しい習慣が生まれている。直接感じた方がいい。世界が変わるよ』
…旅人さんの名前も顔も思い出せない。
アラニルが生まれるきっかけを作ってくれた人なのに、なぜだろう。
「ルカ、南の遺跡って…」
「ああ。ここからかなり離れてるな。まあ、いつか行ければいい」
「あと、泊まりたいのですが部屋はありますか?」
「二部屋でいい?」
「はい、ありがとうございます」
「これがルームキー。部屋はここを出て右の建物だ」
「わかりました」
珍しい。ギルドの建物とは別に宿を用意しているなんて。
「八月なのに寒いのは少し違和感あるな」
「アルは初めてか」
「うん…おもしろい」
「明日はこの辺を見て回ろう」
「そうだね」
空はすっかり暗くなっていた。




