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創世の物語

「ここはどこなの?」


ずっと気になっていたことを、ようやく口にした。

寝る前は森の中にいたはずなのに、目を覚ましたら真っ白な部屋にいたのだ。


「ああ、ここは……俺の故郷?」


「なんで疑問形なのよ」


思わず笑ってしまった。ルカもそんな私につられて、くすっと笑う。


「もしかして、行きたがってたのって……」

「ここ」

「そっか。ルカの故郷か。見て回りたいな」

「いいけど」


ルカは少し照れたように、それでも嬉しそうに笑った。


「ルーカス様」


部屋を出ると、侍従が跪いてルカに挨拶をした。

……ルカって、いったい何者なの?


「少し外に出る」

「かしこまりました」


話している最中も侍従は一度も顔を上げない。

それだけで彼の立場の高さが分かる。

それでも私は、いつものように彼を“ルカ”と呼んだ。


「ねえ、ルカ。あなたのことも教えてくれるといいな」

「俺のこと?」

「うん」

「創世教の偉い人」


そう言って話を逸らそうとしたルカの目を、じっと見つめる。


「はあ……俺は、──逾槭?螽の案内者。創世教の第三席だ」

「ん?なんの案内者って言った?」

「やっぱり聞き取れないか」

「ちょっと!気になるんだけど!」

「説明のしようがない」

「自分を知れって言ったばかりなのに」

「それは“自分で”見つけることだ。俺は手伝いはしても、答えは教えない」


なんなんだ、本当に。

ヒントだけ仄めかして放り出す。頭の中にある情報を必死に繋ごうとしても、肝心なピースが欠けていて、何も形にならない。


「ここから、この国を一望できる。小さいだろう?」


ルカの故郷は白を基調とした建物が多く、まるで国全体がひとつの神殿のようだった。


「てか、“聖人十二席”ってそんなに自由なの?」

「他は知らんが、俺はそうだな」

「そうなの?」

「旅をして世界を回るのが俺の役目でもある」

「へえ、目的は……教えてくれなさそうだね」

「わかってるじゃん」


私は宗教について、ほとんど教わってこなかった。

ルカに聞いてみる。


「ねえルカ。創世教って、存在しか知らなかったんだけど」

「……マジで言ってるのか?」

「うん」

「徹底的に排除して育てられたな」


その言葉に、胸の奥がざわついた。

自分がいかに無知なのかを思い知らされると同時に、自分という存在が少しずつ“外から見えるようになる”感覚があった。


「じゃあ、有名な話からしよう」


ルカはゆっくりと語り始めた。



『昔、創世の女神は世界を創り、たくさんの神々を産み出しました。

神々は母の創った世界を豊かにするために力を尽くしました。

そしてその世界に罪人たちを送りました。魂の奥底で天界の記憶が残っている人間たちは神を信仰し始めましたが、それは曖昧な記憶を埋めるための信仰であり、堕落を深める者も現れました。

神々は話し合い、女神の末娘を下界へと送り、人々を正しく導く使命を与えました。

末娘は世界を歩き、貧困に喘ぐ人を救い、創世の話を広めていきました。

やがて彼女に救われた十二人が先陣となり、創世教を広めていったのです。


しかし、ある日。

彼女の前に現れた一人の男が、その神の力を独占しようとしました。

神々は怒りました。

けれども、長く人と関わってきた心優しい末娘は、彼を憎むことができなかった。

閉じ込められ、力を奪われても、彼女は赦したのです。

やがて神々の怒りは、末娘自身にも向けられました。

そして彼女は罰を受けました──人間に堕ち、輪廻を繰り返すことになったのです。


けれどもその魂はあまりにも美しく、世界の均衡を狂わせてしまいました。

人々は彼女を求め、奪い合い、争い続けました。

高貴な魂は壊れかけ、彼女は記憶を封じることでなんとか命を繋ぎ止めました。

それでも争いは止まりませんでした。

記憶を失い、使命を見失った彼女は、流れに翻弄され続けました。

神々は深く反省し、正しく教えを広めた人間たちに信託を授けました。

“真に正しい者だけが救われるだろう”

その言葉の意味を、人々は必死に探しました。

“自分の道を、自分の力で切り拓いて進むこと”

それが、本当の意味だとされています。

彼女の魂は今も輪廻の中にあり、神々は誓いました。

いつか彼女が記憶を取り戻したとき、天界への帰還を赦すと。』



「どうだった?」

「……自分勝手な人が多すぎ」

「ああ。だから“他人を欺いて利用してはいけない”という教えがあるんだ」

「もしかして、末娘に救われた十二人って今の“聖人十二席”?」

「よく分かったな」

「それしかないじゃん。ルカの反応見る限り、この話かなり有名なんでしょ?」

「ああ、赤子でも知ってる」

「赤ちゃん以下か……」


笑うしかなかった。

自分がこんなにも無知だなんて、思いもしなかった。


「まだお前は、そういった意味では偏見に染まってない。

物事を公正な目で見られるってのは、貴重なことなんだ」


ルカは優しく言った。慰めというより、どこか信じてくれているような口調だった。


「あ、そういや。故郷に戻ってきたけど、これからはどうするの?」

「どうも何も、お前と旅を続けるぞ」

「え?」

「当たり前だろ」


……当たり前。

そう言われて、胸があたたかくなる。

やっと仲良くなれた人を手放さずに済むことが、ただ嬉しかった。


「今はやることがあるから、少し滞在することになる」

「全然大丈夫。でもその間、何しようかな」

「暇ならこの国にもギルドがある。昇級でもしたらどうだ」

「それいいね……ちなみにどれくらいになるか分かる?」

「今の時点じゃ何とも言えない」

「そっか」


この機会に冒険者としての活動をしてみよう。

どんな依頼があるんだろう。考えるだけで胸が躍る。


夕日に照らされた髪が、オレンジ色に輝いて風に揺れた。


「でも、まずはこの髪を切らなきゃな」


明日への期待が、心を満たしていった。


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