成長期
「あったかくなってきたね〜」
「ああ」
「こんな日は昼寝でもしようかな。あそこの森、気持ち良さそう。ちょっと寄っていこ?」
「急いでないからいいけど」
私たちはカルダン王国を出て東へ向かっていた。
ルカは行き先を教えてくれないけれど、それも悪くない。旅の楽しみのひとつだ。
「じゃ、寝てるからよろしく」
「はいはい」
最近は特に眠気がひどく、赤子のようにすぐ眠ってしまう。
森の木々に囲まれ、横たわると、木漏れ日が優しく体を温めてくれた。
「そろそろ頃合いなのかもな」
ルカの呟きを最後に、私は意識を失った。
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「うーーん」
「お、起きたか」
「!?」
目の前に立っていたのは、大人の姿になったルカだった。
「成長期にしても急すぎでしょ」
「ああ、今までは魔術で体を幼い姿にしていたんだ」
まさかの逆転。
今まで小さくしていたなんて。
手のひらを見ると、自分の体も確かに大きくなっている。
「ちょっ!ルカ!!」
「なんだよ」
「鏡、鏡!」
「はいはい」
ルカが指を弾くと、全身鏡が現れた。
「う、嘘…」
私まで大人になっていた。
顔立ちは変わらないが、短く切ったはずの髪は床を引きずるほど伸びている。
髪色は相変わらず金色ではない。
一族の中で、私だけが金髪ではなく、光で色が変わる特殊な髪を持っている。
「…ルカ、服ちょうだい」
「わかった」
平静を装ったけれど、死ぬほど恥ずかしい。
私の体を覆うのはタオル一枚だけだ。
「ルカ?」
「ん?」
「着替えるから、出ていくか後ろ向いてくれない?」
ルカは素直に後ろを向いてくれた。
白く無機質な部屋で、彼から渡された服に袖を通す。
「終わったよ。状況を説明してくれる?」
「ああ。まず、お前に起こったのは魔力による急激な体の成長だ。魔力が一定以上あると成長と老化が遅くなる。その代わり、ある時突然成長する。大抵はそのとき自分の魔力の色に髪や瞳が染まるが、魔力が多いと生まれつきその色になることもある。それと同時に固有スキルに目覚める」
「てことは、ルカもなったでしょ。固有スキルは?」
「俺のは時を操るものだ」
なるほど、だから自分の年齢を自在に操作していたのか。
「覚醒者は五千年に一度出るかどうかだ。スキルはステータスで確認してみろ」
ギルドに登録した日以来、久しぶりに強く念じてステータスを表示させた。
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ルナリア・エラリエン
年齢: 10歳 / 性別: 女
出身: 不明
職業: 魔導師
保有スキル: 目覚めの歌、解放の歌、変化
称号: 歌姫、天性の魔導師、愛し子、神の祝福を受けし者、命を芽吹かせる者、自由を与える者、逾槭?螽
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「スキル二個増えてるけど、使い方わかんないよ」
「その効果を知りたいと思えば見れる」
もう一度念じて確認する。
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〈目覚めの歌〉
命を芽吹かせる
〈解放の歌〉
魂の解放、救済
〈変化〉
自分の体の性質を変化させる
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〈目覚めの歌〉で、あの時宿に草が生えていたのね。
〈変化〉は自分にしか使えないみたい。
問題は〈解放の歌〉…魂の解放って一体どういうこと?
「ねえ、魂の解放ってどういう意味?」
「…それはなるべく使わない方がいい」
「何か知ってるの?」
「俺たちの魂は肉体に縛られている。解放したらどうなると思う?」
「…死ぬ?」
「肉体的にはそうなる。精神的には、解放された魂はこの世を彷徨う。望めば輪廻に戻ることもできる」
「人を殺すスキル…」
「…魂の救済とも呼ばれる」
「なんで?」
「魂が在るべき場所へ還るチャンスを与えるスキルだから。肉体から解放された魂は、本能で戻りたがるんだ」
「…今を楽しんで生きる人でも?」
「まあそうだろうな。ただ、このスキルを使わない場合、長い輪廻を経なければ還れない。長い地獄から救う意味では、確かに救済そのものだ」
「難しい…」
「ああ」
静かになった部屋に、グゥッとお腹の音が響く。
「ルカ、お腹空いたみたい」
「ご飯にしようか。詳しい説明はその後にしよう」
スキルの本質を理解する日は、まだ先かもしれない。
でも今は、ただお腹を満たしたい。
私は思考を放棄した。
⸻
ご飯を食べ終わって、ルカはさらに説明を始めた。
「まず魂の話かな」
「また漠然とした話を…」
「お前のスキルに深く関わっている話だしな」
魂は皆、平等に天界にいる。
しかし、罪を犯した魂は現世へ堕とされ、その罪を償わなければいけない。
長い時間をかけ、還りたい場所に還れない地獄のような苦しみを味わう。それが輪廻転生だ。
自らの過ちに本当の意味で気づき、深く反省した魂は浄化され、再び天界に戻れる。
私のスキルは、本来長い時間をかけて行う魂の浄化を短時間で完了させてしまうもの。この世の流れに反したものではないが、与える影響が大きいため、なるべく使わない方が良いそうだ。
昔、強大な力は身を滅ぼすと習ったことがある。
まさにこのことか…
私は正直、輪廻だとか救済には興味ないけど、この力がどれだけ強力かは理解できた。
文字化けの話をしたら、予想外の返答が返ってきた。
「文字化け…?」
「うん」
「ああ…もしかしたらお前がお前自身のことを知らないせいかもな」
「は?私のことなんだから、私が一番知ってるでしょ」
「本人でも気づかないことはある。これから知っていけばいいさ」
そんな漠然としたこと言われても…
自分自身を知る、か。
「これからの人生も長いんだし、自分と向き合わなきゃいけない場面もある。それが今だっただけだ」
自分と向き合う。
それを今まで無意識に避けてきたことを、私は悟った。
それと同時に、アシュフォード姓が消えた理由にも気がついた。
そうか、私は家を出て旅に出ながらも、まだあの家に執着していたのだ。
この間お姉様と話して、自分の足で外の世界を歩いていくという意思を、自分でも納得できる形で表明できた。
だから、もう縛られる必要はなくなったのだろう。
私は自由だ。
私の瞳は多くの光を受け入れ、世界は色を変えて、本当の表情を見せ始めた。




