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旅人アラニル

お祭りが始まった。

道も広場も人でごった返し、笑い声があちこちから響いてくる。

私は片手に綿菓子を持って、胸いっぱいに祭りの空気を吸い込んでいた。


「ねえルカ、あのお店も行こう!」

「ああ」


はぐれないように、ルカの手をぎゅっと握る。

そのまま引っ張って、夜が更けるまで屋台を巡った。

一日目はそれだけで終わったけど、不思議と満たされた。


二日目。

また食べ物を買っていると、露店の男に声をかけられた。


「お兄さんたちは観光客かい?」

「はい。この国は初めてで。お祭り、すごく楽しいですね」

「そうか、ならいいことを教えてやろう」

「いいこと…?」

「最終日、城で盛大なパーティーがあるんだ。王女様が人前に出てスピーチをするらしいぞ」

「そうなんですか!教えてくれてありがとうございます」

「ははっ、楽しんでいけよ」


パーティーか…。

お姉様——アリシア様は、王太子妃としてそこにいるかもしれない。

あの城だけには、近づかない方がいい。


「ルカ、城の方には行きたくない」

「わかった」


事情も聞かずに即答するルカに、思わず瞬きをした。


「え? あ、うん」

「なんでお前が驚いてるんだ」

「いや、理由も聞かずに納得するとは思わなくて」

「人には、言いたくないことの一つや二つくらいあるだろ」


……ほんと、ルカって不思議。

踏み込んでこないのに、ちゃんと隣にいてくれる。

それがどれだけ嬉しいことか、今ならわかる。



気づけば、お祭りも最終日。

宣言通り、城には一歩も近づいていない。

でも王女様の誕生日スピーチだけは聞きたくて、フードを深く被って広場へ向かった。


「今日は私の誕生日を祝ってくださり、ありがとうございます──残り少ない時間ですが、お祭りを楽しんでください」


スピーチが終わると、夜空に花火が咲いた。

綺麗……。


「ねえルカ、王女様、綺麗だったね」


振り向いたその瞬間、ルカの姿がなかった。


「ルカ!?」


声を張り上げても、人混みに呑まれるだけだった。

波のように押され、気づけば知らない路地へと流されていた。


「ここ……どこ?」


鎧の音が近づく。

胸の鼓動が跳ねた。

まさか、王宮の近く……?


「そこにいるのは誰だ!」


見つかった。

しゃがみ込み、息を殺す。

そのとき、私の前に一人の女性が立ちはだかった。


「私ですわ。少し街を見てみたくて」

「申し訳ありません!」

「いいのよ」


騎士が立ち去る。

その声……聞き覚えがある。

フードを押さえ、顔を背けた。

その人はしゃがみ込み、私の目線に合わせて微笑んだ。


「ルナリア」

「……お姉……様」

「ルナリア、会えて嬉しいわ」


会えて嬉しい? この私に?


「私たちはあなたに謝らなければいけないの」

「え?」

「あなたを見なかった。見ようともしなかった」


その言葉が、胸に重くのしかかる。


「贈り物をしてるから大丈夫だなんて、思ってはいけなかったのにね」

「贈り物……?」

「ああ、やっぱり届いてなかったのね」


聞きたくない。でも、聞かなきゃいけない気がした。


「許してなんて言わないわ。何もしてこなかったのだから」


お姉様の声が震える。

私はフードを外した。

今の彼女になら、顔を見せてもいいと思えた。


「髪を切ったのね。……でもその色では、見つかってしまうかもしれないわ。染めた方がいい」


短くなった髪を、そっと撫でてくれる。


「今、アシュフォード領にはあなたの捜索願が出されているの。

だから戻っちゃだめ。私も、セリオンも、リリもリアンも、みんなあなたの幸せを願っている。

今までの分を取り戻すように、これからのあなたの自由を守るから」


「ありがとうございます」


「ねえ、ルナ。これからどうするの?」

「世界を周ろうと思ってます。この足で歩いて、この体で感じたい。

……お姉様もお兄様も、たまに会いに来てくれて嬉しかったんですよ。リリカとリアンも、冷たい私に話しかけてくれた」


その言葉にあ姉様の顔が少し明るくなる。

しかし、再開の時間は長くは続かなかった。

鎧の音が再び近づく。


「行きなさい。今のあなたは、自由なのだから」

「はい。本当に……ありがとうございました」


深く頭を下げて、私は走り出した。

もう、振り返らない。


「アル! やっと見つけ──」


私を見つけたルカは、何も聞かずに手を握ってくれた。

「宿へ戻ろう」

その一言に、ただ頷く。


お姉様の笑顔が、頭から離れない。

本当に私は、家を出てよかったのかな……?

私はあの家にいるべきだった。

そんな風に思っているとルカが話しかけてきた。


「アル、次の旅の目的地は俺が決めてもいいか?」

「……うん」


そうだ。

私はもう、ルナリアじゃない。旅人アラニルだ。

世界を歩いて、あの人から聞いた物語の続きを探すんだ。

後ろを振り返らず、ただ前へ。

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