『歴女VS第六天魔王 ~飲み直しという名の戦~』
「信長さん、ヒカリくん! 飲み直し入りました!」
営業終盤、スタッフの声がフロアに響く。
ちょうど送り指名で客を外まで送り出して戻ってきたばかりの2人だった。
「えっ!? 飲み直し!? って……さっきの子たちじゃん!」
「ふむ……思いのほか、心に響いたようだな」
ヒカリは思わず頭をかく。
「いや~でも、帰ってすぐ戻ってくるって、本指名ってことでしょ? これ……ガチだわ」
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再び現れた2人の女性客。
そのうちの1人――ワインレッドのドレスに身を包んだ女性が、信長に向かってにっこりと笑う。
「やっぱり、あなたにもう一度会いたくて来ちゃった。“本物”かどうか、確かめたくてね」
「……貴様……戦を挑む気か?」
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女性の名は藤崎みのり。
自称“歴女”、戦国時代マニア。SNSでも歴史談義を展開するガチ勢。
「“第六天魔王”って呼ばれてたの、知ってる? でも……なんでそう呼ばれたか、答えられる?」
「当然よ。我は仏敵、乱世の鬼。――信長とはそういう存在ぞ」
ヒカリはテーブルの端でそわそわしながら見守っていた。
(やばい、完全にクイズタイム入ってる……!)
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だが、信長は終始落ち着いたまま、ひとつひとつの質問に“体験者の視点”で返していく。
まるで歴史を語るのではなく――語らせているかのように。
みのりは、ついに笑みを浮かべて言った。
「……あなた、まさか本当に――」
「信じるかどうかは貴様次第よ。ただひとつ、言っておこう」
信長はワインを傾け、静かに言った。
「“過去”とは記録ではなく、生きた者が紡ぐもの。我の物語は、まだ終わっておらぬ」
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その夜、みのりは正式に本指名を入れて帰っていった。
ヒカリはうれしそうに拳を握る。
「飲み直し→本指名……信長さん、すごいっすね。マジで、格が違う……」
だが、信長はただひとこと。
「当然だ。我は、選ばれる者だからな」