『初陣の夜 ―ホスト、信長、接客に挑む―』
《SENGOKU》の営業時間が近づくと、クラブ内は一気に戦場の空気に包まれた。
シャンデリアの下、ホストたちがスーツに着替え、鏡の前で髪を整え、香水を吹きかけていく。
だがその中に、ひとりだけ――甲冑を着たままの男がいた。
「信長さん……それで出るんですか?」
金髪の新人ホスト・ヒカリが、困惑しながら尋ねる。
「戦場に鎧は必須よ。女の心を射抜くなら、こちらも全身全霊で挑むべきだ」
「いやまぁ、そっすけど、さすがに怖いっていうか……入店拒否されちゃうっていうか……」
「黙れ猿」
「また猿ぅ!? だからオレ人間っスよ! てか接客マジでどうすんの!?」
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信長の“接客”は当然ながら未経験。
上杉蓮はそんな彼に言い渡す。
「今夜、お前には“模擬接客”をしてもらう」
「模擬接客……?」
「ホストの基本は“心を掴む会話”。女を酔わせるのは、酒ではなく言葉だ」
信長はふっと鼻で笑った。
「ふん、我がかつて何万の兵を言葉ひとつで動かしたと思っておる。女ひとり、たやすきことよ」
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こうして始まった、信長の初接客――
相手は、クラブの教育担当でもあるベテラン女性スタッフ「凛」。
年齢不詳、美貌と毒舌を兼ね備えた元No.1キャバ嬢。
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「はじめましてぇ、信長さん♡」
「貴様、名は?」
「え? あ、凛ですぅ♡」
「……何者だ? どこの大名の姫か?」
「え、元キャバ嬢だけど?」
「キャバ……? 戦の名か?」
「いや違うし。てか、なにその甲冑!重そ~!変わってるね~♡」
「そなた、なかなか肝が据わっておるな。よかろう、我が気に入った!」
「え、ちょっと待って、こっちが試してる側なんだけど――!?」
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信長の“武将テンション接客”は空回りしつつも、なぜか凛の笑いを取り、
最終的に「面白すぎるから採用!」という結果に。
――こうして、信長のホストとしての初陣は、意外な形で幕を開けたのだった。