邂逅の城《SENGOKU》
ネオンに照らされた扉が、静かに音を立てて開く。
その向こうに広がっていたのは、信長が見たことのない――それでいてどこか懐かしさすら覚える空間だった。
豪奢なシャンデリアが天井から吊るされ、赤と金を基調とした重厚な内装。
高貴な香のような甘く鋭い匂いが、鼻腔をくすぐる。
「……ここが貴様の“城”か」
信長の声に、上杉蓮は無言で頷いた。
その背後で、スタッフの一人が慌てた様子で何かを報告してくるが、蓮は軽く手を上げて制した。
「信長、お前に見せたい“戦場”はここだ」
「女の心を奪う……“夜の戦”とやらか」
蓮は口元に微かな笑みを浮かべたが、それ以上は語らなかった。
そのとき、奥からバタバタと音がした。
「おわっ!? モップ引っかかった!? うわああぁあああっ!!」
赤い革張りのソファの陰から、モップとバケツを盛大にひっくり返しながら現れたのは――
金髪に琥珀の瞳、目元にいたずらな笑みを浮かべた青年だった。
「もー!また派手にやったな、ヒカリ!」
他のホストたちが笑いながら声をかける中、青年はあわてて頭を下げた。
「す、すみませーん! 新人のヒカリです! 掃除、まかされてて!」
その瞬間、信長の眉がピクリと動いた。
「……ヒカリ、だと?」
金色の髪。底抜けに明るい笑み。
どこか、見覚えのある――いや、“血のにおい”を感じる顔だった。
一方の光も、信長の異様な姿に目を丸くする。
「うわっ!? すごい甲冑!? コスプレですか!? ガチじゃん!本物感すごっ!」
「……貴様、名を名乗れ」
「え? あ、日吉 光です。ホスト見習い一年目っス!」
「日吉……ひよし……?」
信長の口から、微かに笑いが漏れた。
「なるほど。猿の血、確かに流れておるな」
「え、さ、猿ぅ!? オレ、小さい頃からよく言われるんすけど……!?」
上杉蓮は、静かに目を閉じ、呟く。
「これもまた、因果だな。主君と家臣の血が、この《SENGOKU》で巡り合うとは」