第9話 頼りになるのは忍びの技だけじゃ
(近々大戦が始まる。この郷を巡って儂らは信長と対峙せねばならぬであろう。その時頼りになるのは将軍でも援軍でも武具でもない。忍びの技だけじゃ)
伊賀は室町以降、大きな支配勢力を持たず忍者や地侍たちで治めてきた。謂わば伊賀者たちにとってこの土地は独立した自分たちの国だったのである。
衣茅は言った。
(されど信長の軍は日の本一。先の三河長篠の合戦では徳川との連合軍で三万八千の大軍を率い、種子島を巧みに操り武田騎馬隊を打ちのめしたことお忘れでござりますか? もし信長が我らの郷に攻め入ったら、我らに一分でも勝機はありましょうや?)
小太郎は一瞬立ち止まり、振り向いて衣茅の顔を覗き込んだ。
(三河で戦こうたら勝ち目はない。されど、ここは伊賀じゃ。儂らよりこの土地を知るものはおらぬ。種子島は平原でしか役立たぬ。馬は夜駆けはできぬ。儂らにも勝ち目はある)
(左様でこざりましょうか・・・)
衣茅はさっきの農夫へ視線をやった。この者がもし種子島(火縄銃)を隠し持っていて、自分たちを狙撃したならば刀剣や手裏剣などで太刀打ちできるものではない。
例え北畠信雄を倒したとしても、その後にいる織田信長が本気でここを攻めるならば、忍びの技だけでこの郷を守れるのだろうか。
衣茅は黙した。