第8話 忍びは仲間にも本心を明かさぬ
小太郎の方が一枚上手だった。小太郎は信長が丑の刻、本願寺の北門を出て大和国へ向かうことを知っていた。知っていた上で、敢えて影武者一行を追った。
衣茅は呟く。
(ならば真の信長を殺めることもできたのでは・・・)
わざわざ影武者を追わなくとも、筒井順慶に辿り着く前に信長を殺れたのではないかと衣茅は思う。
だが、小太郎はこれを一蹴する。
(僅かな手勢というが信長の周りに如何ほどの随伴がおったかわかるか?)
衣茅は首を振る。
(千はおったであろう)
路々信長を護衛するために、旅人や農夫に変装した甲賀忍者や地侍が二重にも三重にも信長を取り囲んでいた。そこに飛び込んでいけばたちまち斬り殺されたであろう。
(それより罠に掛かったと見せかけた方が相手を引っ張り出せるのでな)
それは正成の思惑と一致する。
(服部様は儂が知った上でこう動くとお気づきだったはずじゃ)
(さきほどは知らぬと・・・)
(よいか衣茅、忍びは仲間にも本心を明かさぬものじゃ。知らぬふりして互いの懐を探り合う。これが乱世を生き抜く術じゃ)
師は自分をも謀っているのでは? そんな疑念が湧き起こった。
(心得ました)
信じるほかなかった。